後編 ごほうび、さしあげます。


 ごっくん。私は遂に……ピーマンを全て、食べきった。

 

「レミ、おねえちゃん……ちゃんと全部食べたよ」

 

「とても、とてもよくできました……流石お嬢様です」ぱちぱち、とレミは自分の事のように喜んでくれる。

 

「おねえちゃん呼び、本当はよくない……ですけれど、二人きりのときなら……いいでしょう。………レミとしては呼ばれて嬉しいですし」照れくさそうに彼女は顔を赤らめる。

 

「うん。二人っきりのときにこっそり呼ぶね、レミおねえちゃん」私はにこにこと笑顔で返す。二人の秘密ができたようで、嬉しかった。

 

 

 すっ、と私の頭の上にレミの手が置かれる。「ピーマン食べたごほうびです。よしよし」そしてゆっくり、なでなでしてくれる。思わず頬がゆるむ。うれしい。うれしい……けれど。

 

「こ、これだけ?」

 

「ええ、そのつもりです」なでなでし続けながら、きっぱりとレミは言う。

 

「そっかぁ……」私はしょぼんとしてしまう。

  

「……ですけれど」レミは手を軽く引き、私を立たせる。

 

「けれど?」期待を胸に秘め、私は聞き返す。

 

「わがまま言わず全部食べてくださったので……もう少し、ごほうび差し上げます」レミは私の肩をそっと掴み、ゆっくりと自分の方へ引き寄せる。

 

 ぎゅっ。私は、レミに優しく抱きしめられた。暖かくて柔らかな感触が包み込んでくる。ふわり、と爽やかなのに甘いレミの香りが鼻先をくすぐる。

 

「あっ……」ふにゃあ、と自分の表情がとろけていくのがわかる。

 

 抱きしめられるのはとってもとっても大好きで、それこそピーマン大嫌いな昔はよくレミにおねだりして抱きしめてもらってた。今となってはもう、恥ずかしくって言えなくなったけれど。

 

 ぎゅっと、抱きしめ返す。レミおねえちゃんの、胸の中に顔を埋める。メイド服越しに、ふわふわした感触が伝わってくる。

 

「ふふふ、お嬢様はまた一段とかわいくなられましたね……」また頭をなでなでしてくれる。

 

「だいすき……」心の声が、口をついてでてしまう。

 

「もう……メイドにそんなこと言っちゃ、だめですよ。でも……とってもうれしいから、許します」レミは

 

「レミも……お嬢様の事、だいすきです」耳元でやさしく、ささやいてくれる。ちゅ、と口づけのおまけ付きで。喜びで背中がぞくぞくと、ふるえる。全身がぽかぽかと、あつくなってくる。

 

 すき、すき……。ずっとだきついていたい……。

 

「……さて、お嬢様」レミは少し、私から体を離す。

 

「も、もう終わり……?」私は彼女を見上げる。

 

「そんな切なそうな顔しないでください。今日一日……寝る時まで、抱きついてもいいですから。そうではなくて、もう一つ」

 

「もう一つ?」

 

「最後に……これはお嬢様がごめんなさいしてくれた……いえ、レミのお嬢様への気持ちです」

 

 私の顔……左右のほっぺを両手で包み、ゆっくりと顔を近づける。口移しをしたときのように、唇を私の口に近づける。でもその口には、何も挟まれていない。

 

 ほんの少し、顔を前に出せば。

 

「き……きす?」私は期待を込めて、聞いてしまう。

 

「はい。お嬢様がよろしければ……口づけをしたいのですが、いいですか」

 

 じいぃっ、とレミは私の瞳を見つめてくる。……優しくて、本気の瞳だ。そんな目で見つめられたら、嬉しさで胸がきゅんきゅんして、私は素直に従ってしまう。

 

「うん……ちゅーしていいよ……ううん、してください」私も見つめ返す。それはきっと、甘える本気の瞳だ。背中に手を回し、キスを受け入れる準備をする。

  

「ありがとうございます。お嬢様、愛して……ます」レミは目を閉じて、そっと唇を寄せてくる。私も目を閉じて、キスを……キスだけを受け入れて、感じようとした。

 

「「……んっ」」

 

 

 キスの味は苦くて、甘かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る