異物は消毒だ
リンザーラ王国。
そこは魔族の侵攻を唯一食い止め、他の国々を解放した勇者を抱える大国。
勇者は異世界から召喚の儀式によって招かれた存在らしく、他の国々にはその儀式は伝わっていないらしい。
きっとこの世界を作った上位者の意思が関係している。間違いない。
この国の産業・商業・軍事などなど、それらは魔族との戦いによって飛躍的に向上し、国力は類を見ない高さを誇る。
その中でも、王国独自の食べ物であるナライナは他の地域でも有名であり、多くの人々に親しまれている。
なんて、つらつらと情報を並べてみたけど……どうでもいいよね?滅びる国のことなんて。
「おはようございます!」
「ん?ああ、おはよ…っ!?」
いつもお菓子をくれる優しい門番のお兄さん。ついぞこの国に怪しい輩を入れさせなかった戦士は、笑顔を浮かべたボクによって首を断たれた。
「は……?」
突然のことに他の門番さんたちは唖然としてるみたい。まあ、それが一番幸せだと思うよ。
この後に起こる惨事を考えれば、何も理解できないままに終われるのが、何よりの幸福だろう。
空間を歪ませ、中から出てきた剣を抜く。そのまま一閃、門番と近くにいた通行人の全ての首を斬り飛ばした。
『…………』
「無理しなくてもいいよ。ボクが全部終わらせるから」
『……いいえ、これも私の行為が招いたこと、しっかりと見届けます』
「何度もやってる事だから馴れて、とは言えないなぁ」
サリーと話しながら、人々を一太刀に切り伏せていく。命あるもの全て殺す。だが、やはりこれでは殺し尽くすことはできない。逃がすとしても一人二人ぐらいにしておきたいし……。
「奴だ!生死は問わん、かかれぇ!」
お城の方から兵隊さんたちが来た。ちょうどいいし、ここでブッパしちゃおうかな。
ボクの内にある力を練り上げ、手のひらの上へ球状に捻出する。警戒するようにボクを取り囲もうとする兵隊さんたち。まあ、何をしようと意味は無いけど。
暴食の光雨
球状の力はボクの手から浮き上がり、輝きはじめた。次の瞬間、光球は数多の光に分裂し、天へと昇る。一定の高度まで上がると、光はさらに分裂し落ちて……いや、下っていく。
光はまるで意思があるかのように、曲がりくねり人々たちを飲み込んでいった。
建物の中にいるならば建物ごと、城下町から出ようとするならば馬車や飛行船を穿ちながら、地下へ潜ろうとすれば地面を抉りながら。
逃げ場などどこにもない。光から飲まれるのを防ぐ方法など、無力な人々は持ち合わせていなかった。
しかし全ての命を見つけ出し、殺すことも難しく。命あるものが見つからなくなった光は建築物や道に着弾し爆発を引き起こしていく。
ボクは誰もいなくなった大通りを歩く。ふと、見覚えのある看板が見つかった。
『……っ、これは…』
「ん、おばちゃんのパン屋さん」
売り物だったパンは散らばり、店は光が貫通したのか大穴が空いていた。
「なかなか美味しかったよね。ここのナライナ」
『…………っ、何か聞こえます』
「んん?」
耳を澄ませてみる。パチパチと燃える音に紛れて、小さなすすり泣きが聞こえた。
店の中に入ってみると、その音の出どころはすぐにわかった。
小さな女の子だ。焼き焦げたナニカのそばで、泣いている。
この店の子か。生き残っていたなんて、可哀想に。
『…………』
「こっち見ないでよ。言いたいことはわかるよ?この子まで殺すのかってことだよね。でも、この世界もどっちにしろ壊すんだから……今死んでおいたほうが幸せだよ」
ボクの声に驚いたのか、女の子はビクリと身体を震わせた後にボクへと振り返る。ボクは優しげに笑みを浮かべながら、膝を折って目線を合わせた。
「何も考えずに、目を閉じて。そうすれば楽になれるよ」
「…ん………」
子どもは素直だ。目の前に何かしらの光を見い出せば、疑いなく駆け寄っていく。その姿に何を思うことは無いけれど、サリーも苦しそうだし、早く終わらせてあげよう。
目を閉じた少女へ剣を振る。刃は難なく少女の首をはね、今度こそ木材が燃える音しかしなくなった。
サリーは苦しげに目を閉じる。ボクも初めの頃は罪悪感に三日三晩吐いて、苦心したけど……慣れとは怖いものだね。
今では何も思わない、それどころか異物を掃除している達成感が心を満たしていく。
もう人の心なんか持ち合わせちゃいない。そんなものを持っていたら、人の身でありながらこんなことを続けられないからね。
「さあ、そろそろ行こうか。残すは城だけだ」
暴食の光雨に狙わせなかった城。街が壊滅している中、しっかりと形を保っているそれは、もはやなんの威厳も感じられない。
城の中を掃除して、王様を殺して……そういえば、勇者は遠征中だったな。なら、出迎えるために何かサプライズでも用意してあげようか。
この惨状が十分サプライズになりそうだけどね。
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