第5話 空の旅
「お兄ちゃん~早く~!」
「は~い」
サリーに手を引かれて、クテアビルを後にする。
「クラウド~いってらっしゃい~」
「ほらみんな、パパにいってらっしゃいだよ~」
「「あうあう~!」」
「行ってきます」
ティナとアーシャ、子供達に見守られながら、僕はサリーと共に友人の結婚式に向かう。
サリーはドレス、僕はタキシードだが、あくまで室内なので、僕達は似た感じの大きなコートを羽織っている。
僕達が乗り込んだのは巨大な船、アルカディア号だ。
一号は世界を飛び回りながら多くの人を運んでくれるが、二号に関しては僕専用というか、ベルン家専用だ。
三号と四号も生まれて空を飛び回っていたりする。
アルカディア二号に乗り込むと、無表情のまま手を振るもう一人の妹シア。
うさ耳がふわふわ動いていて、それがまた可愛い。
静かに浮き始める船。窓から少しずつ離れていく子供達の姿が見える。
「ラティくんってば。この前、私の胸を触って来たんだよ?」
「ぷふっ!?」
「いいな。私も触らせる」
そう言いながら自分の胸に両手を当てるシア。
「変なこと教えないでよ! サリー!?」
「え~変なことじゃないよ? ラティが触りたそうにしているから」
「だ、ダメだからね!?」
「え~」
口を尖らせたサリーは「仕方ないね~」とシアと顔を合わせて頷いた。
全く……サリーは何を教えようとしてるんだ。
その時、二匹のドラゴンがゆっくり歩いてくる。
大きさは五十センチくらいの小型犬より少し大きいくらいのドラゴンたち。白いドラゴンと、真逆の黒いドラゴンだ。
「ポンくん。ドナくん。アルカディア二号に乗っていたんだね」
「そーだよ!」
「お兄ちゃん~!」
やってきた二人の頭を優しく撫でてあげると、気持ちよさそうな表情を浮かべる。
二匹はシア同様、僕の新しい弟で、二人とも神様なんだけど、今はこのサイズになって、世界を満喫している。
白いドラゴンがポンくん、黒いドラゴンがドナくんだ。
「あまり悪さしちゃダメだからね?」
「「あ~い」」
元々威圧的な態度を取っていた二人だが、あれから色んなことがあって、体を一気に縮ませることで、性格も非常に幼いものに変わった。
母さんの意向で、生まれた順番なら二人は兄になるはずだが、僕の弟たちになっていたのだ。
「みんなも甲板にいるよ~」
「ほんと? 久しぶりに会いたいな。ちょっと行ってくるよ」
「いってらっしゃい~」
サリーたちを置いて、僕は室内から甲板に出た。
甲板は完全開放式だが、魔法の力で風が入らないようにしている。強い向かい風を心配することなく、ゆっくりと空を眺めることができる。
そこには大勢の――――青い髪の少年たちが九人も見えており、それぞれ空を眺めたり、リバーシをやったり、美味しそうなお肉をもぐもぐと食べていた。
「みんな。久しぶり」
一斉に僕を見つめた彼らは、一目散に走ってきた。
前に並ぶ九人の
彼らはイクシオンさんが敵だった頃に、クローンとして作られた存在だが、彼らにはしっかり魂があり、感情があり、クローンというよりはイクシオンさんの子供のような存在だ。
戦争が終わり、彼らは全員ベルン家で引き取ることになったというか、元々彼らもベルン家の血筋なので当然のことだが、結果的に僕の弟たちになることになった。
みんな僕の弟アレンくんに非常に似ているので、アレンくんが一人から十人に増えちゃった感じがする。
一人一人優しく頭を撫でてあげる。
アレンくんはもう大きくなってしまい、頭を撫でてあげることはできないが、彼らは体が成長しないので、ずっと成人一歩手前の姿のままだ。
彼らはずっと旅をしながら、困っている人を助けたり、初めてみる景色を求めて大陸各地を歩き回っている。
みんなが旅の話を聞かせてくれて空の旅はとても充実したものとなった。
「ん~みんな。もしよかったら旅を――――本にしてみない?」
「「「「本?」」」」
みんなが目を大きく見開いて驚く。
「せっかく色んな場所に行くんだから、そこに行った事がない人のために、絵本を描いてみない? 絵じゃなくても文章でもいいと思うし、みんなそれぞれ思う旅というものの本を書くと、色んな人を楽しませると思うんだ」
「「「「やる~!」」」」
何だかやる気になってくれたみたいだ。
甲板の出入り口からサリーが顔を出して、いたずらっぽく笑みを浮かべて話を聞いていた。
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