第4話 旅館でのんびり

 数日後。


 父さんの機械人形達が仕事を片付けてくれて、手無沙汰になった執務室の扉に元気良いノック音が聞こえる。


「どうぞ~」


「お兄ちゃん~!」


 返事とほぼ同時に、サリーが中に入ってくる。


「お兄ちゃん、お兄ちゃん! ドレス凄く可愛い~!」


 アーシャに作ってもらったドレスのことだね。


「気に入ってくれたなら良かった」


「えへへ~それで、私のお友達の結婚式なんだけど、私の相方としてお兄ちゃんを連れていきます~!」


「ははっ~サリー様のご命令とあらば~」


「やった~!」


 多分ティナもアーシャも怒らないと思う。むしろ、「何故行かないの?」と言われると思う。


「お兄ちゃんの分はアーちゃんに頼んでおいたから~」


「分かった。楽しみにするよ」


「うん! 五日後からね!」


「分かった」


 サリーの友人か。ちゃんと祝儀的なものも用意しておかなければな。


 妹の友人とはいえ、ベルン家の当主として、祝儀一つ持っていかないわけにはいかないからね。サリーならもう準備しているだろうけど、僕の立場からも出しておかないと。


 そういや、最近流行ってるうちの宿屋の券が貴族の間で流行ってるらしいから、それにしようか?


 サリーは話し終わると、どこかに颯爽と消えていった。


 空を飛ぶ魔法を手に入れてからは、いつもどこかに出掛けるサリー。慌ただしい生活を送っている。


「貴方~」


 開いた扉からティナが入ってくる。


「「あうあう~!」」


「ティナ。丁度良かった。少し相談したいことがあったから」


「ふふっ。ラティくん達が会いたいって~」


 すぐにラティ達を抱っこしてあげる。


 二人とも抱き上げて顔に近づけると「「きゃっきゃ~!」」と喜びながら、僕の頬っぺたをぺちぺちと叩いてくる。


「ふふっ。二人とも嬉しそうだわ~」


 夕方はいつも一緒にいるけど、眠る時間の方が長いからね。仕事が終わった時間なら、子供達のための時間にできるのもいいね。


 屋敷を出て、スロリ街を歩いていると、領民達が挨拶をしてくれる。


 ラティ達の手を握って、「こんにちは~」って振りながら挨拶をする。


 この子達が大きくなったら、自らの意思でちゃんと挨拶できる子供に育って欲しい。


「そういえば、相談したいことがあるって言ってたわね?」


「ああ。サリーんとこの友人の結婚式にサリーと行くことになったんだけど、ベルン家当主として祝儀を持って行こうかと思ってて、現金とかでもいいけど、それより旅館の招待状とかの方が嬉しいのかな~って思って」


「それなら現金より招待状の方が喜ぶと思うわよ。旅館は全国の人達で連日満員だからね。恐らく空いてないから送るとしたら、私達の部屋を貸すことになると思うよ?」


「いいんじゃない? いつも使わないでくれるの申し訳ないし」


「ふふっ。クラウドってそういうところ気にしないのね。私も賛成だし、多分アーシャちゃんも問題ないと思う」


「じゃあ、このまま旅館に行ってみようか」


「うん!」


 歩くと少し遠いけど、歩けない距離ではないので、ティナとラティ達と一緒に散歩するついでに、スロリ街から少し離れた旅館に向かう。


 今や一大事業となっている温泉プールと旅館。


 温泉プールとホテルは、庶民の味方だが、旅館に関しては高額なのもあって、庶民というよりは貴族御用達御用状態となっている。


 暫く歩いて着いた旅館は、それぞれの部屋が棟別になっていて、家族や恋人、友人で過ごしやすくなっており、ちゃんとプライベートも守れるように各棟の見晴らしの方向が違う方向を向いている。


 そこにバーベキューなんてできるようになっているし、持ち込みもできるが、基本的には旅館側が用意したベルン領特製お肉などが提供される。それも相まって非常に人気なのだ。


「クラウド様!」


「エグリオさん~お邪魔します」


「どうぞ!」


 元々『ペンション』事業だったものが、今や色んな形を変えて『旅館』に変わっている。


 エグリオさんは旅館事業の総責任者だ。


「今日はお願いがあって来たんですが、五日後にサリーの友人の結婚式に出席するのですが、祝儀として旅館招待状を送りたいなと思うんですが、空いてる時期ってありますか?」


「!? 大変申し訳ありません……一般棟・・・は一年先まで毎日予約が埋まっておりまして……キャンセル待ちなら優先することも可能ですが……」


「一年先まで!? エグリオさんの努力のおかげで、大人気ですね。本当にありがとうございます」


「い、いえ! 私達に力を貸してくださったクラウド様のおかげです! 私達夫婦だけでなく、父も凄く喜んでおります!」


 エグリオさんのお父さんは、僕とティナがまだ婚約した後、十二歳の時に泊まりに行った宿屋のご主人だ。


 この『旅館』事業の前身となるヘルンドール宿屋。今でもティナとは定期的にヘルンドール宿屋に泊まったりする。


「僕達の部屋は空いてますか?」


「もちろんでございます。クラウド様の部屋はクラウド様以外の方には貸しておりませんので!」


「あはは……ありがとうございます。その部屋で構わないので、招待状を出しましょう」


「かしこまりました……! クラウド様と同等のおもてなしで向かいます!」


「ええ。ぜひお願いしますね」


「お任せください!」


 そう言いながら、忠誠を誓うポーズを取る。


 そこまでする必要はないと思うけど、うちの従業員はみんなこのポーズが大好きだ。


 止めてしまうと「見捨てないでください!」と大泣きするので、見守るしかできない。


 これで祝儀の問題も終わったので一安心だ。


「クラウド様。もしよろしければ、本日お泊りになられますか?」


「急でもいいんですか?」


「当然です……! ここ暫く泊まられておりませんので、ぜひお願いします!」


「ティナ?」


「私は賛成~」


「ではよろしくお願いします。今日アーシャは来れるかな?」


「多分来れるんじゃないかな? 伝令でも送っておくよ」


「ああ。よろしく頼む」


 その日は、エグリオさんのご厚意で旅館に泊まった。


 エグリオさんが用意してくれた美味しそうな肉を、バーベキューで焼いているとティナがアーシャを連れてやってきてくれた。


 ティナは力で天使モードになれるので、直接アーシャをお姫様抱っこしてやってきた。


 ラティとラシャは天使になったママに大興奮して、両手を全力でバタバタさせてティナに甘える。


 久しぶりに家族水入らずで、旅館でのんびると過ごした。






――【宣伝】――


 当作品も2021.11.20連載開始し、メインストーリー2022.9.4に完結して番外編をちょくちょく出しております。

 ここまで読んで頂き、心から感謝申し上げます。

 みなさんの応援もあったおかげで、遂に【転生してあらゆるモノに好かれながら異世界で好きな事をして生きて行く】のコミカライズが始まりました。

 何とか連載開始まで来れて、本当に嬉しく思います。

 御峰の原作から漫画家先生のおかげでパワーアップした、新たなあらゆるの世界をご堪能頂けたら嬉しく思います。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る