第3話 新しいドレスデザイン

 本来貴族当主は非常に忙しい。特に領地を持っている貴族なら尚更の事だ。


 その中でも一番比率が大きいのは書類の確認で、領地で起きた問題に対してどう対処するべきか書類が上がってくるからだ。


 僕の執務室では――――


「マスター。全て片付けました」


 そう言いながら敬礼ポーズをするメイド衣装を着こんだ機械人形達だ。


 いまでは父さんの手足となって、色んな仕事を手伝ってくれる。というか僕達よりもずっと判断と動きが早い。


「みんなありがとう」


 機械人形達が執務室から一斉に出ていくと、部屋に沈黙が訪れた。


「ふう……僕……何もしてないな……」


 こう領主らしいことをしたいと思ってるんだけど、ありがたいことにうちの従業員達はみんなテキパキ動いてくれて、僕に仕事が回ってこないのだ。


 でも領主としてちゃんとみんなを労ってあげないといけないので、静かになった執務室を後にして、スロリ街の各所を目指す。




「クラウド様っ!」


 出会う人出会う人、みんなが右拳を心臓に当てて挨拶をする。


 これもまたサリーが面白半分で設定した「クラウド様に忠誠を誓いますポーズ」だそうだ。


 止めてくれと頼んでも「見捨てないでください! お願いします!」と本気で絶望しちゃうので、そのままにしている。


「アーシャはいる?」


「はい。会議も少しで終わると思います!」


「ありがとう」


 うちの屋敷から少し離れた――――少しじゃないか。普通の人なら馬車で行くくらいの距離に建てられた大きな建物。


 通称、クテアビル。クテアというのはアーシャが総帥を務めているブランドの名で、僕とティナとアーシャの頭文字を取った名だ。


 総帥室で待っている間、アーシャが手掛けている図面を覗いた。


 ん~今回作るのは――――新しいドレスか。


 派手なドレスから、シンプルだけど一点に大きな花柄が描かれていて目立つドレスなど、どれも貴婦人達が好きそうなデザインだ。


 少し眺めていると、外からドタバタと音が聞こえてきて、ノックがしたと思ったらすぐに扉が開いて、僕のもう一人の妻、アーシャが中に入って来た。


「クラウド!」


 入って早々僕に全力で抱きついてくる。


 アーシャは最近非常に忙しかったり、遠征に行くことも多いので、こうして二人の時間になると凄く甘えてくるのだ。


「お仕事お疲れ様」


「えへへ~」


 普段の姿からは想像もできないくらい甘えん坊になっているアーシャ。


 本人曰く、ずっと我慢していたのだとか。


「また新しいドレスの製作かい?」


「あ~それはね。サリーちゃんのドレスなの」


「サリーの!?」


 一瞬ドキッとしてしまった。


 女性がドレスを購入するということは…………!?


「ふふっ。結婚式ドレスで合ってるよ?」


「サリーの……結婚式ドレス……!?」


 サリーって彼氏いたっけ!? というか縁談とか全て断っているというか、わざわざ僕に全て報告に来ているのにいつの間に!? 昨日だって縁談入ったって愚痴を言いながら断ったから頭撫でて~とか言われたのに!? そもそも縁談を断っていたのは付き合っている彼氏がいて、結婚式が決まってから僕に伝えようとしているのか!?


「クラウドったら、サリーちゃんのこととなるといつもそんなに焦るんだから」


「はっ!?」


「結婚式ドレスなんだけど、別にサリーちゃんの結婚式じゃないからね? サリーちゃんのお友達が結婚するから、その日に合わせたドレスなのよ」


「あ、あはは……あ~…………そういうことか。はあ……」


 何だかサリーに隠し事をされたと落ち込んだけど、勘違いしてたみたいだ。


「でもいつまでも独り身のサリーちゃんだからね」


「まだ早いと思うんだ」


「早くないわよ! クラウドはお父様みたいな言い方しないの!」


「ううっ……せ、せめて僕を倒してから……」


「誰も一生無理だわよ!」


「ううっ……」


 さ、サリーが好きになった人なら……仕方ないのかも知れない。でもせめて僕くらいは赤子の手をひねるくらい強い人にサリーを守って欲しいと思う。


「そこでサリーちゃんの魅力を全面的に出したいんだけど、どうしてもドレスが邪魔・・なのよ」


 机の上に並んだ図面と睨みっ子しながらそう話した。


 なるほど。確かにサリーが着るにはドレスは寧ろ邪魔になるか。


「じゃあ、これ無くしたら?」


「えっ?」


 ふと思いついたんだけど、ドレスは基本的に女性の上半身を全て覆っている。が、サリー程可愛いなら、オフショルダーにすればシンプルでもサリーの魅力を全面的に出せる気がする。


「スカート部分も少し短くすることで、女性の見栄えの主役をドレスではなく体のラインで見せることができるから、膝にかかるくらいの長さにして、肩を全面的に見せれば、サリーの綺麗な鎖骨が見えるでしょう?」


「…………クラウドってどうしてそんなこと簡単そうに思いつくのかしら」


 あはは……前世で見たことがあったから……とは言えないよね。


「それにしてもその案……革命的だわ……これはドレス界隈で革命が起きるわよ……」


 そ、そこまで?


 アーシャは手際よく一枚の紙にドレスを描き始めた。


 柄は全て除き、シンプルに艶のあるワンピース風オフショルダードレスが完成した。


 チャームポイントとしては同じ生地で作った小さなバッグを持たせることで、上品さをより高めて、女性本来の美を意識させるデザインとなった。


 手際よく仕事が一段落したので、アーシャと一緒に空を飛んで隣町のレストランで食事を楽しんだ。

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