番外編-平和編

第1話 原点の丘

「貴方~ラティとラシャが会いたいって~」


 僕を呼ぶ声が聞こえて振り向くと、黄金色に輝く長い髪に包まれたティナが、優しい笑みを浮かべて器用に両手で二人の赤ちゃんを抱えてゆっくりと近づいてきた。


「ティナ!」


 打ち合わせ中だったけど「あとは任せてください」と言われ、「すまないがよろしく頼む」と伝えてティナに向かった。


「「あうあう~」」


 双子……ってわけではないはずなのに、二人はいつも動きがシンクロしている。両手を同じタイミングでバタバタさせる。


 ティナが抱えている二人の赤ちゃんを優しく受け入れた。


「「きゃっきゃ~!」」


 すぐに満面の笑顔を浮かべて、僕に向かって手足をバタバタとさせる。


 ああ……癒される~!


「ふふっ。パパに会えて嬉しいね~」


 抱きかかえた赤ちゃん達を笑顔で覗くティナ。そして、僕に視線を向けて見上げたまま笑顔を見せる。


 この笑顔には何度も救われてきた。


 いまやベルン領は世界の中心地と言っても過言ではない。僕達が一応所属・・・・しているディアリエズ王国だけでなく、ホルン王国、シレル王国はもちろん、北ベルン領は世界で最も進んだ地域となっている。


 その理由というのも、大戦のあと、イクシオンさんとミナトさんが持っていた全ての技術を受け継ぐことになって、ベルン家に仕える技術者達がこぞって開発を進めて、いまや近未来的な街に変わっている。


 もちろん、他国やディアリエズ王国にすら技術は渡してないので、その差は大きなものになっている。


 ベルン領はあくまで中立を貫くことにしていて、北ベルン領も既に独立した政権が発足している。けれど、満場一致でベルン家に忠誠を誓っているので、今でも北ベルン領のままだ。


「「あう?」」


「あはは、ごめんごめん。考え事をしてました~ほら、高い高い~!」


 息子と娘を高い高いさせると、嬉しそうにはしゃぎ始める。


 二人とも……生まれてからもう一年も経つんだな。


 最初は首も座ってなくて抱えるのも大変だったけど、いまや自分の意思で手足をバタバタさせるようにまで成長した。


 ティナと僕との間で生まれたのは、ラティ。長男だ。


 顔立ちはティナに似てて、髪はティナ譲りの金色。目の色が僕譲りの灰色だ。


 アーシャと僕との間で生まれたのが、ラシャ。長女だ。


 顔立ちはアーシャに似てて、髪はアーシャ譲りの淡い水色の髪で、目の色が僕譲りの灰色だ。


 二人とも僕の子供なのは違いないが、母は違う。なのに双子のように動きがシンクロしているのがとても可愛らしいと思う。


 それに常に一緒に過ごしていて、寝る時も二人で手を握って寝る様は見る者全てを癒してくれる。


 二人とも仲良く成長して欲しいと思うばかりだ。


「アーシャちゃんは夜まで帰って来れないみたい」


「そっか。いつも子供の面倒を押し付けてしまってごめんな。ティナ」


「ううん。私が好きでやっているもの」


 正直に言えば、今のベルン家には大勢のメイドがいて、子供達の面倒はメイド達に任せることができる。


 ティナも聖女として忙しい身なので、時折任せてはいるけど、出来る限り子供達との時間を優先してくれている。


 もちろん、僕もアーシャも時間がある時は極力子供達と時間を過ごしている。


「せっかくだから、散歩に行こうか」


「うん!」


 赤ちゃんというのに、どうしてか空気を読んでくれる二人の子供。ラシャが手足をバタバタさせてママのところに行きたがる。


 ラティは僕が、ラシャはティナが抱きかかえて、ゆっくりと丘を歩いて上がっていく。


 冬が終わり、春が始まって数日が経過して涼しい風が僕達を通り過ぎた。


 丘を上がってティナと並んで座り込むと、スロリ街が一望できる。


 この丘はベルン家の丘なので、誰も立ち入れない。立ち入るものなら、すぐにウル達に捕まってしまうようになっている。


 ティナが僕の肩に頭を寄せてくる。


「クラウドってここが大好きなんだね」


「うん。子供の頃、父さんがここからスロリ街を見せてくれたことがあったんだ。すぐにロスちゃんが現れてとんでもないことになっちゃったんだけどね」


「あはは~想像がつくよ~」


 あの時はどうなるかと思ったけど、家族との絆をより深く感じることができたし、僕の力を感じることができた。


 ティナと会った時も、ロスちゃんがいてくれたおかげだったしな。


 その時、後ろから声が聞こえてきた。


【ご主人。呼んだ~?】


 もふっと音を響かせて俺の頭に乗ってくる物体。


 僕の相棒――――ロスちゃんだ。


 それに続いて僕とティナの頭の上にまた乗ってくる物体が五つ。ロスちゃんの子供達だ。


 みんなまだ喋ることができないけど、いつもロスちゃんの後を追いかける可愛らしい子犬達だ。


「ここでロスちゃんと出会った時のことを話していたんだ」


【懐かし~】


「そうだな」


「あう?」


 ロスちゃんがぴょんと飛んで、ラティにもふっとする。


「きゃっきゃ~!」


 ラティはロスちゃんが大好きでくっつくと、すぐに嬉しすぎて手足を全力でバタバタさせる。笑顔で涎を流す姿はとても可愛らしいのだ。


 そんな懐かしい風景を眺めていると――――――




 スロリ街で大きな爆発が起きた。

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