火種を探して③

「おかえり~兄さん」


「ただいま! アレンくん」


 まだ僕より背が低いアレンの頭に手を乗せると、アレンも嬉しそうに喜んでくれる。


 澄んだ青い髪が風に揺れるだけで、アレンくんは大人になるにつれもっともっとモテそうだ。


 実はアレンくんは今でもモテモテで、スロリ町を歩けば領民達の女の子達が振り向いて来るほどだ。


「あれ? 獄炎石は手に入らなかったの?」


「そうだね。見つけはしたんだけど、持って来なかったよ」


「カジさん達、凄く楽しみにしていたみたいだよ?」


 ワクワクしているカジさんが容易に想像できる。


 彼らは鍛冶の事となれば、目の色を変えるくらいだからね。


「多分大丈夫だと思う」


「そう? 僕も付いて行っていい?」


「もちろんだよ~」


 僕の左手側に寄り添って並んで歩く。


 すぐに右手側にサリーが走って来て並んで歩くと、後ろからゆっくりとティナ様が追いかけてくるのが分かる。


 ティナ様はこういう時に決して無理に僕の隣には来ない。


 もう一年以上一緒に住んでいるけど、サリーとアレンを大切にしてくれて、その上でとても可愛いし、僕なんかの婚約者で本当に良かったのだろうかと今でも思っている。


 僕が生まれた時のスロリ町から大きく変貌してスロリ町はそろそろ街と名乗っても良さそうなくらい広い街となっている。


 これも全部多くの領民達が頑張ってくれるからこそだ。


 道を歩くと、僕とアレンくん、サリーに向かって手を振る領民達が多くいて、それに応えてこちらも手を振る。


 歩きやすいように中央道は広めに取られているから、向かいから歩いてくる人とぶつかる事なくスロリ町を進み、鍛冶組の本拠地にやってきた。


「カジさん~」


「クラウド様! お帰りなさいませ」


「火種はどうですか?」


「それが……あまり芳しくありません」


 苦い表情を浮かべるカジさんが見つめるのは、大きな窯に今にも消えそうな火種だ。


 そのせいか、鍛冶組の皆さんも手を止めて難しい表情を浮かべて、ただ火種を眺めていた。


 彼らに自由な鍛冶を約束してスロリ町に移住して貰ったのだから、誘っているこちらの落ち度でもある。


 それを何とか直してあげたいと思いながら、新しく僕の従魔となった精霊を呼んだ。


「トゲ!」


【はい~でやんす~】


 目の前に浮遊している燃えるトカゲが現れる。


「僕の魔力ならいくら使ってくれてもいいので、ここの火種を強くして貰えないかな? ここにいる鍛冶組の皆さんに気持ちよく仕事して貰いたいんだ」


【う~ん。それくらい僕には簡単でやんすが…………】


「何か引っかかる点でもあるの?」


【何か僕にもご褒美が欲しいでやんす】


「もちろんだよ! 何か欲しいものがあったらいつでも言ってね? その前にうちのお母さんにお願いして美味しいごはんをご馳走するよ」


【ごちそう? 美味しいでやんすか?】


「多分世界一美味しいと思う」


【は~い! それでお願いしますでやんす!】


 トゲは窯の中の今にも消えそうな火種に息を吹きかける。


 火種というのは、内臓された火の魔力で燃え続けるのだが、肝心の火の魔力を入れるのが難しい。


 魔法使いや賢者、魔技師であっても魔石の中に属性の力を入れる事は不可能なのだ。


 例外で魔石の力を利用して魔石を充電させる事ができるので、やろうと思えば火の魔石を大量に手に入れればできるのだが、鍛冶組が使っている火種魔石は超高火力のため、それを維持させるのは至難の業だとカジさんは話していた。


 それをトゲは何ら難しくない感じで一気に元の姿に戻してくれた。


「ありがとう! トゲ」


【はいでやんす!】


 鍛冶組からも歓声があがり、トゲに感謝を伝えると、少し恥ずかしそうに喜んでくれた。


 そんなトゲを最後にサリーが抱っこして家まで戻り、お母さんに事情を説明してトゲ専用の食事を準備してあげると、今までで一番の喜びを見せてくれたのだった。




 あれから数日後。


 意外にもトゲは鍛冶屋に入り浸っている。


 それもカジさんと仲良しになったそうで、カジさんが好きなお酒をトゲも気に入ったそうで、精霊だから酔わないけど酒の味がとても好きだそうだ。


 さらにカジさんに協力して、今までできなかった個別に火を起こして鍛冶をする戦法も取れるようになったらしく、大きな窯一つに何十人も共同で使うハメにならず、それぞれが好きな火力の火種で鍛冶をするようになった。


 その事により、スロリ町は今までよりも数倍の発展を遂げる事になる。


 さらにその姿を見ていたコメは自らの意志でハイエルフの森を利用して野菜を育てやすく風向きを調整してくれて、食料問題もなく、寧ろ隣町にスロリ森産野菜を届けるようにまでなった。


 スロリ森産野菜は高値で取引されて、スロリ町を拡張する素材を購入する資金となり、スロリ町はますます広くなり、やがてスロリ街へと進化していった。

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