火種を探して②

 ロスちゃんが住んでいた火山の麓に到着した。


 周囲の暑さは砂漠をも超える暑さなのだが、それよりも目の前に聳え立つ火山の圧倒的で威風堂々なその姿に思わず息をのまずにはいられなかった。


「おっきぃ…………」


 あのサリーでさえもこの光景に目を奪われ、ただただ空高く続いている火山を見上げていた。


「クラウド様? そろそろ行かないと暑さで倒れてしまうわ?」


 ティナ様の声に我に返って視線を戻すと、可愛らしい顔から凄い量の汗が目に入った。


「サリー。この暑さ何とかならないかな?」


「ん~氷魔法を出してもすぐに溶けそうなんだよね……」


「そっか。なら風を周囲にぐるぐる回せる魔法がどう?」


「風?」


「この暑さって熱気のせいでもあるから、風を使ってぐるぐる回すと涼しくなるんじゃないかな?」


 少し考え込んだサリーが周囲に弱い風魔法を展開させる。


 それと共に氷魔法を展開させて周囲がひんやりする温度に変わった。


「おお~! 凄いよ! サリー」


「う~う~。これは中々難しい。お兄ちゃん。おんぶ!」


 両手にそれぞれの魔法を灯らせて僕の背中に飛び上がったサリーをそのままおんぶする。


 まだ9歳のサリーだが、女の子は成長が早いと言われるだけあって、サリーの成長も早い気がする。


 汗のせいか服越しで当たる女の子の部分のおかげで、僕は変な汗をかかざるを得なかった。


 そのまま火山の麓から空いた洞窟の中に入っていく。


 ロスちゃんの案内だからなのか、聞いていた魔物は一匹も姿を現さず、ただただ暑いはずの火山の中を進んだ。




「おおお~! これが例のマグマというモノか!」


 僕達の前に広がるのは、真っ赤に燃える――――まるで海である。


 ぐつぐつと上がる気泡の後に上空に吐き出される熱気は、サリーの魔法のおかげで感じないが、その凄まじさは簡単に感じる事ができる。


 さらにマグマの音も海とは違い、少し重苦しい音が周囲に響いていた。


「ロスちゃんってこういうところに住んでいたんだね。マグマの中に入っても大丈夫なんだっけ」


【あい~マグマはお風呂~】


 いや、マグマはお風呂ではないと思うよ。


 でもロスちゃんならそういう感じなのか。


 入りたいとは思わないけど、入っているところを見て見たいとは思いつつ、分かっていても入ろうとするロスちゃんを何となく止めてしまった。


「ロスちゃん。例の石はどこにあるの?」


【あっち~】


 ロスちゃんの案内に従って、マグマが滾る場所に所せましと続いている細い道を進んで行く。


 それにしても魔物一匹も見えなくて、まるでロスちゃんがいなくなって誰もいなくなった空間のような感じが漂っている。


「ロスちゃん。それにしても誰もいないのは不思議じゃない?」


【ん~あっち~なんかいる】


「ふむふむ。あっちに何かあるみたい」


 サリーとティナ様にもロスちゃんの言葉を伝える。


 サリーは相変わらず、僕の背中で魔法に集中して周囲に魔法を展開してくれる。


 この魔法が止まると一気に暑さが襲ってくると思うと、少し不安に思うところがあるので、こればかりはサリーの頑張りに頼るばかりだ。


 心の中で応援を続けながら道を進める。


 細い道を進み終えると、広い場所が現れて、マグマは姿を消して少し暑さも和らぐ気がして、目の前に不思議な岩が置かれていて、まるでマグマのように燃え盛る岩だ。


【これが獄炎石だよ~】


「これが……! ……………………それにしてもどうやって持っていこう?」


「クラウド様……まさか何も考えないできたの?」


「うっ! ろ、ロスちゃんなら運べるかなと……、それにもっと小さな石だと思いましたから…………これじゃ石というより岩ですよ」


「う~ん。小さく砕いたらいいのかしら? 私が砕こうか?」


 真っ赤に燃える岩の前で右腕をぶんぶん回すティナ様。


 ティナ様ってこういう時、わりと積極的なんだよね。


 ――――その時。


 僕達の前でひと際大きな火炎が盛り上がる。


 ロスちゃんが真っ先に正面を陣取って、火炎を睨みつけた。


【ふん! 獣がまた火山に戻ってきたのかよ!】


 火炎がだんだん形を作り始めると――――


トカゲ蜥蜴?」


【誰がトカゲじゃ~! 僕は火の精霊なの~!】


「へぇ~君は火の精霊なのか。という事は、コメ達みたいな精霊か~なるほどね」


【コメ? 誰でやんす?】


 火の精霊が疑問に思うと、僕の前に緑色の魔力が集まり姿を作る小鳥が一匹現れる。


【イフリート。久しぶり~】


【お~これはこれは、シル――――】


 イフリートと言われた火の精霊が言葉を終える前にコメがドロップキックをお見舞いして吹き飛ばした。


【何するでやんすか!】


【私はコメ! そのシルなんかではないわ! いい? コメよ! コ・メ!】


【えっ? まさか……人族に使役されてるやんすか!?】


 イフリートが驚いて僕をジロジロ見始めた。


【コメさん? それはそうと、何故獣と一緒にいるでやんす?】


【ん~それはね。ご主人様が魔物と精霊は同じ存在だって教えてくれたのよ】


【ええええ!? 僕達って魔物と同じ存在だったでやんすか!?】


【そうよ! ご主人様は私達を見てすぐにそれに気づいたわ! イフリートも使役するといいわ!】


【え~でも…………】


 イフリートが険悪な表情でロスちゃんを見つめる。


 ロスちゃんもそれに対抗して睨み返した。


 もしかして、二人って仲悪いのかな?


「ロスちゃん? どうして睨むの?」


【ここにいる魔物を全部追い出した】


【そうでやんすよ。獣は全部外に出してやったっす!】


【…………】


 普段穏やかなロスちゃんがものすごい険悪な雰囲気を醸し出している。


 それくらいロスちゃんも周囲の魔物達とも仲良しだったのかも知れない。


「えっと、イフリートさん? ここはロスちゃんが住んでいた場所だから、もしよかったら僕のところに来てくれたら嬉しいな」


【ご主人様。イフリートごとき、呼び捨てでいいですよ!】


 またもやイフリートを蹴り飛ばすコメ。


「あはは……」


【僕が行くメリットはあるでやんすか? 人族って使役されると、ひたすら使われるって言われてますから~】


【ご主人様をそこら辺の人族と比べるなああああ】


 イフリートが三度目吹き飛んだ。

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