イクシオン③
「は!? なんでこんなところに魔物使いがいるんだよ!」
王都の中に入ろうとするイクシオン達に、兵士達が大きな声で罵倒し続ける。
それくらい、今の王国で魔物使いという立場は危うくなっている。
だが、その声を気にすることなく、なんてことない表情で中を進むイクシオン。
もう何度目かの王都への
建物の前に着くと、にやけ顔でイクシオンを見つめながら手を振る青年がいた。
「よお~イクシオン!」
「お待たせ、ペインくん」
このやり取りも、既に幾度も交わしており、二人は慣れた仕草で拳を合わせる。
「すぐに準備するぜ。親友」
「わかった~裏に回るよ」
店に急ぎ足で入るペインを見届けた後、従魔を裏に移動させる。
少し待つと、裏口が開いて、何人かの店員が嫌な顔一つせずに荷物を持って出て来た。
彼らは慣れた手付きで、従魔に荷物を掛けていく。
「お父さん~! エグザ街に行ってくるよ~!」
「分かった~! イクシオンくんにもよろしく~!」
「多分聞こえているよ~!」
二人のいつものやり取りに自然と笑みがこぼれるイクシオン。
今や嫌われ続けている魔物使いだが、王都の中にも味方がいることに、嬉しさを感じずにはいられないのだ。
荷物の準備が終わると、あまり長居できないイクシオンはペインと共に王都を出た。
「いや~いつもながらすげぇな。王都民達」
「仕方ないよ。魔王ってやつが悪いよ」
「イクシオンって根が優しいよな~俺なら王都民の方を恨むかな~」
「う~ん。恨んでいた時もあったけど、今は寧ろ感謝しているよ」
「え!? あれに感謝しているの?」
従魔の上から過剰に反応するペインが落ちそうになる。
急いで手を伸ばしたイクシオンがペインの肩を掴んで落ちないようにすると、二人は安堵のため息を吐いた。
「ちょっと意味が違うけど、ありがとうございます――という感じというより、彼らが僕を嫌ってくれて、この子達にも会えたと思ったら、寧ろ感謝すら覚えるというか」
「あ~そういう事か」
ペインは自分が乗っている魔物を見つめる。
自分の親友であるイクシオンの従魔であるため、気を許しているが、野生であったら死をも覚悟しなくてはならない魔物だ。
「スレイプニルにファイアウルフ。普通はこんなに従魔にはできないはずなんだけどな~」
「僕はちょっと特殊な魔物使いだから」
「ああ、『調教師』という才能だっけ?」
「そうそう。魔物使いと内容は同じだけどね」
「ふむふむ~。でも普通の魔物使いよりも強力な魔物と対話できるんだっけ?」
「そうみたいだね。ありがたいことに」
イクシオンは自身が乗っている馬型魔物のスレイプニルと、ペインが乗っているスレイプニルを交互に撫でてあげる。
声には出さないけど、ご満悦になるスレイプニル達を見て、ペインは自然と「すげぇ……」という声を漏らした。
「さて、そろそろ速度を上げるよ~」
「おう! 頼んだぜ! 親友!」
王都からある程度距離を取って、東に続く道に人影が減ったところで、従魔達の走る速度を上げる。
従魔の数から周囲には地鳴りが響き始めるが、それもすぐに鳴りやんだ。
◇
「ん? 街の様子が変だね」
「すげぇ物々しいな。何かあったのかも」
「急ごう!」
エグザ街が禍々しい雰囲気に包まれて、入口には普段いるはずの衛兵の姿も見当たらない。
急いで従魔達と共にエグザ街の中に入ったイクシオン達は、視線の先に住民達が集まっているのが見えた。
それを守るかのように衛兵達が囲っているのだが、全員が恐怖に震えているのが分かる。
「い、イクシオン! あそこ!」
ペインが指差した場所には――――――とある魔物が見えていた。
「なんつう禍々しいオーラなんだ…………もうちびりそう」
「凄いね……あんな凄い魔物は見た事ないよ」
「なあ、イクシオン…………逃げるって提案しても?」
「ダメ。俺には守りたい人がいるから」
「…………はぁ、仕方ない。俺も親友のためなら命くらい投げ捨てると覚悟しているからな。行くか。シュリちゃんが待っているぜ」
「うん!」
魔物に震えているスレイプニルを励まして、何とか魔物の前までやってきたイクシオン。
「イクシオン!?」
集まった住民達の中から、女の子が一人、前に出て来る。
それをペインが慣れた手つきで止める。
「シュリちゃん。落ち着け。イクシオンも無策でそこに立ってる訳じゃないんだ」
「イクシオン…………」
彼女の中にはイクシオンの事以外はないと知っているペインだからこそ、そんな彼女がいるイクシオンを羨ましくも思う。
親友であるイクシオンを知れば知るほど、彼の魅力を知ったペインだからこそ、妬みは全くなく親友として自慢したいと思っている。
「は、初めまして。僕はイクシオンといいます」
その魔物のつぶらな瞳がイクシオンを見つめる。
だが、後方から睨みつけている凄まじい形相のオーラに、イクシオンは噴き出る汗すら感じられずにいた。
それでも自分に付いて来てくれた幼馴染を守りたい一心で、イクシオンはその
イクシオンが『調教師』として力を目覚めた頃、魔物にも感情があり、話すときは必ず目と目を合わせて話すようにしている。
それが功を成して、犬の魔物はじっーっとイクシオンの瞳を眺めた。
最近でこそ、魔物の声が聞こえるようになったイクシオンだったが、最後までその犬の声は聞こえなかった。
代わりに、恐ろしい形相のオーラを抑えて、イクシオンの頭の上に乗り込んだ。
「か、可愛い~!」
真っ先に声をあげて走って来たシュリは、ほかに目もくれず、イクシオンの心配すら忘れ、イクシオンの頭の上でダルそうにしている小さな白いふわふわした犬を撫で始めた。
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