イクシオン②

 ディアリエズ王国の王都を後にしたイクシオンとシュリは、そのまま東を目指した。


 まだディアリエズ王国の東方面は全く開発が進んでおらず、無法地帯となっていると聞く。


 二人は貯めてあるお金を使い、馬車で最も東にあるバルバロッサ領を目指した。


 数日後。


 バルバロッサ領にたどり着いた二人の目の前には信じられない風景が広がっていた。


 バルバロッサ領の領都として最近できたばかりのエグザは信じられないくらい人々で賑わっていた。


 さらに人々が連れて歩くのは、王都からは考えられない――――魔物であった。


「あ、あの!」


「ん? 冒険者かい?」


「い、いえ! ただの旅人なんですけど、一つお尋ねしてもいいですか?」


「がーはははっ! いいぜ? そんなかしこまらんでもいい。ここに集まったみんなは仲間だからな」


 豪快に笑う大きな身体を持つ男に、イクシオンは自分が持つ疑問をぶつける。


「失礼だとは思いますが、どうして魔物使いがこんなにも多く集まってるんですか?」


「おうよ! もしかして坊やは王都からの旅人かい?」


「は、はい」


「それなら驚くだろうな。だがよ。バルバロッサ辺境伯様は、魔物使いは魔王の手下ではないと考えておられる。俺も元は王都で住んでいた魔物使いなのだがな。あそこに俺の居場所はないと思っていたら、丁度バルバロッサ辺境伯に直接スカウトされたのさ。俺はガイル。坊やは?」


「僕はイクシオンといいます。こちらは幼馴染のシュリです」


「初めまして」


「こりゃまたべっぴんさんやのう~奥さんなのか?」


「ええええ!? ち、違います!」


 慌てて声をあげるイクシオンの後ろにいたシュリは悲しい表情を浮かべる。


 その姿を見たガイルは一瞬で二人の関係性を見抜いた。


「イクシオンくん。どうだい? 君もここで働いてみないかい?」


「えっ?」


「君も魔物使いの力を持っているのだろう?」


「ど、どうして……」


「それは俺が『魔物使い』だからさ。同志の事は何となく分かるのさ。がーはははっ!」


 イクシオンの心配を吹き飛ばすかのような、心地よい笑い声だった。


「あ、あの! ガイルさん!」


「うむ?」


「僕はまだ魔物使いの力をちゃんと発揮できてません! ですけど、精一杯頑張りますので、ここで働かせてください!」


「おうよ! じゃあ、その件も込みで辺境伯様に紹介しよう。付いておいで」


「は、はい!」


 俄然やる気となった幼馴染を見つめるシュリは、どこか自分が一人だけ残されたように感じた。


 だが、その時。


「シュリ」


「うん?」


「僕が頑張って働くからね。だから心配しないで」


 その言葉は、一瞬不安を覚えたシュリの心を溶かすには十分だった。


「ふふっ。弱虫のイクシオンが珍しいわ」


「…………うん。僕は弱虫だった・・・。でもここまで付いてきてくれたシュリを守りたいんだ」


「えっ!?」


「王都と同じ暮らしは無理かも知れないけれど、ここでもそれくらいの暮らしができるように頑張るよ。だから――――行こう」


「――――――うん!」


 二人はガイルに案内され、バルバロッサ辺境伯に出会う。


 バルバロッサ辺境伯はとても思慮深く、二人を快く受け入れてくれた。


 まだ自分の力を発揮できてないイクシオンのために、魔物使い達を束ねていたガイルを教育係として任命した。


 まだ10歳の彼らだけの生活は難しいと判断したガイルは、二人と一緒に住む事を提案して、二人もそれを快く受け入れた。


 こうして、ガイルとイクシオンとシュリは一緒に住む事となった。




 ◆




「イクシオン。どうだ? は聞こえたか?」


「はい。お父さん・・・・


「がーはははっ! さすがだ!」


 豪快に笑うガイルは、大きな馬の魔物と声を交わす自身の養子・・を誇らしげに見つめる。


 同じ『魔物使い』とは思えないほどに、イクシオンの能力は高かった。


 最初こそ、まだ魔物の声を聞けず、苦労していたのだが、それも数日で解消された。


 イクシオンは自分なりの方法で魔物と声を交わす事に成功して以来、どんな魔物とも声を交わせるようになった。




 バルバロッサ辺境伯領はまだ開発されたばかりで、荒れ地も多かったのだが、多くの魔物達によって段々と人が住めるように整地されていった。


 そんなとある日。


「いや~荷物を運んでくれてありがとう! 魔物使いさん!」


「いえいえ。僕はイクシオン」


「俺はペイン。いずれ最強商人になる男だぜ!」


「あはは、ペインくんね。最強商人か~凄いな!」


「だろう!? でもイクシオンはもっとすげぇな!」


「えっ? 僕?」


「こんな大きな魔物を連れて歩いてるんだろう? 最初は襲われて死ぬかと思ったけど、まさかその背中に俺と同じ歳の子供が乗ってるとは思わないよ~」


「あはは~たまたまこの子とパトロールに出ていたからね。それにしてもペインくんのご家族が無事で良かったよ」


「ああ。それもイクシオンのおかげだ! ありがとうよ!」


「ふふっ。エグザ街は楽しいところだからゆっくりしていって」


 ペインは両親と共に商売のため、王都からはるばるバルバロッサ辺境伯領を訪れていた。


 その時にイクシオンと運命的な出会いを遂げたのだ。




 数日後。


「辺境伯様。お呼びですか?」


「イクシオンくん。すまないが一つ頼みを聞いてくれないかい?」


「もちろんいいですよ?」


「こちらのセラン商会をバルバロッサ辺境伯領の外まで送って貰いたいんだ」


 セラン商会? と頭の中に疑問符が浮かんだイクシオンが見た先には、以前パトロール中に出会ったペインがいた。


「あ~! イクシオン!」


「ペインくん?」


「イクシオンがうちらを守ってくれるのか? それは助かるよ~」


「イクシオンくん。どうやら知り合いみたいだね。そちらがセラン商会のご家族さ」


「分かりました! バルバロッサ辺境伯領の外まで護衛します!」


 こうしてセラン商会もといペインとイクシオンの繋がりが生まれた。


 それから定期的にエグザ街を訪れるセラン商会を護衛役としてイクシオンが同行するようになる。


 それからペインの機転の良さで魔物を使い商品を一緒に運ばせたらいいという提案でセラン商会はますます巨大な利益を産む事になるのだが、出会ったばかりの二人にはまだ知らない話である。

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