番外編-過去編

イクシオン①

 ※暫く三人称視点が続きます。ちょっとシリアスな話になります。




 僕の結婚式から三日後の事。


「イクシオンさん……」


「そんな悲しい表情をしなくて良いさ。クラウドくん」


 ベッドに横たわっているイクシオンさんは、既に限界に近く最近はベッドで眠る時間が多くなっている。


 今日はイクシオンさんから話したい事があると呼ばれて来ている。


「今日は俺の身に起きた事を話そう……」




 ◆




「イクシオン~!」


「ん? シュリか。どうしたんだ?」


 いつも聞いていた声に反応して後ろを振り向くと、何度も会った幼馴染のシュリの姿があった。


「何よ~またボーっとして」


「…………ごめん」


「もう! また謝るのやめてよね!」


 頬を膨らませた彼女がイクシオンを見つめると、彼は困った表情でまた正面を向いた。


「……ハズレ才能でもきっと良い事あるわよ」


「そうだね」


 イクシオンが落ち込むのも無理はない。

 自身の家柄・・的に、ハズレ才能を開花してしまい、長男だからこそ父親の怒りを買ってしまったのだ。


「お父様はやっぱり怒っているの?」


「うん…………はぁ、僕がシセルジア家を継げるような才能がないのが悪いよ」


「…………調教師という才能だったよね?」


「うん。一番ハズレもハズレの最低才能だね」


「…………イクシオン!」


「うわっ!? どうしたの? シュリ」


「自分の才能に下向きになってどうするの! その才能はこれからずっとイクシオンと共に生きるのよ? 周りの人がどれだけ馬鹿にしてもイクシオンだけは自分の才能を愛してあげなくちゃ!」


 シュリの言葉に、胸を刺す痛みを感じるイクシオン。


 分かっていたはずだった。


 でもどうしても父親から勘当されそうになっているから、自身の才能に誇りを持てなかった。


「そっか。僕が愛してあげないと、この子は永遠に悲しむよね」


「そうよ! 勘当されたっていいじゃない! あんなに厳しいお父様から離れた方がイクシオンもゆっくり生きれると思うわ」


「……そうかな」


「そうよ。それに――――」


「それに?」


「――――――もし、勘当されたら私が付いて行ってもいいわよ」


「シュリ……ありがとう。僕はシュリのような幼馴染・・・を持って幸せだよ」


「そ、そうね!」


 だが、シュリは知っていた。彼が、自分をどういう・・・・目で見ているかを。だからこそ、ずっと彼の前では明るく振舞っていた。




 その日の夜。


 父親に呼ばれたイクシオンが真っ青な顔色で父親の執務室に入った。


「お、お父様……お呼びでしょうか」


 窓の外を見つめる父親に恐る恐る声をかける。


 大きな溜息を吐いた父親は、鋭い眼光で振り向いた。


「おい。無能。お前をわがシセルジア家から追放する」


「えっ!? お、お父様!?」


「全く……長男ともあろう者が、まさかハズレ中のハズレ才能『調教師』を授かるなんて信じられない。魔物を操るなんて言語道断! それこそあの闇の者共の仲間ではないか! 最後の情けとして今日中に屋敷を出ていけ!」


「…………はぃ」


 『調教師』。それはまだ世界では忌み嫌われている才能である。


 世界では光の者と闇の者に分かれて戦いを繰り返していた。


 特に最近では『魔王』と呼ばれている者が、人族の中から生まれて大きな戦争を行っている。


 ディアリエズ王国の北側にあるセイント神聖国は、大陸の覇権を握っていたのだが、セイント神聖国の内部から『魔王』が生まれた。


 魔王は最初にセイント神聖国を半数滅ぼし、残り半数を地獄のような場所に変えて、人々に絶望を味合わせていたのだ。


 その現状から、セイント神聖国以外の国々は魔王が次に狙うのは、自分達の国ではないかと魔王を討伐する『勇者』を探した。


 ただ、その中で魔王が操る魔物の軍勢がいたため、魔物を操る『魔物使い』は忌み嫌われるようになった。


 何もしてなくても『魔物』というだけで石を投げられ、主人に石を投げられ魔物が反撃すると、今度は魔王の手先だと槍が飛んできた。


 だからこそ、ディアリエズ王国の名家めいかであるシゼルジア子爵家の長男として生まれたイクシオンが、まさか『調教師』を開花させた事で、父親の期待は絶望に変わるにはそう長い時間を必要としなかった。


 何故なら『調教師』を開花させたイクシオンは、その力が『魔物使い』と同じ力である事を父親に話してしまったからだ。


 むしろ、石を投げなかっただけ、父親がイクシオンに期待していたのは大きかったかも知れない。



 荷物をまとめたイクシオンが暗闇の中、屋敷を出ようとした時。


「イクシオン」


「あれ? シュリ!?」


 暗い中でも月の光を浴びて、美しいピンク色の髪が輝いているシュリが目に入る。


「えへへ。私も一緒に行くわ」


「ど、どうして!?」


「約束……したでしょう?」


「で、でも!」


「いいの。私には私の生きたい道があるから。だからイクシオンに付いていくの」


「…………分かった。ありがとう。シュリ」


「うん」


 二人は暗闇の中、ディアリエズ王国の王都を後にした。

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