第208話 砂漠の奥地


 空を全速力で飛んでスロリ街の西を目指す。


 目標は砂漠の遥か先だ。


 暗い夜でも地上の砂漠が美しく月日に照らされる。


 それにしてもこの砂漠には少し違和感を感じる。


 前世でもよくある砂漠に人が住んでいてもおかしくないと思うんだけど、この砂漠に住んでいる人は全くいない。


 もちろん、ゴーレムのような強い魔物が住んでいるからでもあるけど、どこにでも住み着く人にとって、この地に誰か住んでいてもおかしくはない。


 それと、前世なら砂漠は広がっていくイメージがあるのだが、この砂漠は一切広がらない。


 その原因を周囲の豊かな水源や雨のおかげだと思っていたけど、そもそもこれほど周囲に水源があるのに砂漠が続いているのも不思議だ。


 それを今まで異世界だから当たり前だと受け止めて来たけど、以前スラから砂漠の地は不思議だと聞いてから違和感を覚えるようになった。


 ちょいちょい調査を繰り返して分かった事がある。




 この砂漠は――――――人為的に作られている。




 砂漠に住み着いた魔王によって――――だと話し合ってみる事が出来たんだけど、どうやら魔王でもないみたい。


 それで暫く調査を繰り返すと、不思議な存在を感じるようになった。


 砂漠の一番奥地に不思議と空っぽのオーラを感じるようになった。


 今まで感じた事がないオーラ。


 でも間違いなく誰かがいる。


 今回ガイアの復活で、空っぽのオーラが激しく動いた事で、もしかしたらこの戦いの元凶がそこにあるのかも知れないと予測して向かっているのだ。




 ◇




「え~ガイアはどこ~見えないんですけど~」


 不思議な構造の建物の中に女の子の声が響く。


「壊れたのかな~むぅ~バカミナトだからな~もうちょっとちゃんと作ってよね~」


 バカミナトってミナトさんの事か…………やっぱりこの人が。


「あ~なんでこう失敗ばかりするんだ~ここまで全部上手くいったのに~」


「こんばんは」


「へ!?」


 目の前のモニターを懸命に覗いていた女の子が飛び上がりこちらを向く。


「初めまして。ジクシアさんですよね?」


「え~君は誰~? なんで私の名前を知っているの~?」


 見た目通りというか、聞いていた通り緩い口調だ。


 でも、その中身はとんでもないオーラを感じる。


 あのガイアですら可愛く見えるくらいに。


「僕はクラウドと言います。ベルン家の当主です」


「ベルン家~? イクシオンくんの?」


「そうですね。イクシオンさんは僕の先祖様になります」


「へぇ~ベルン家って…………そんなに祝福されているの~」


 緩い口調ではあるけど、肌を刺す殺気は凄まじい。


「えっと。一つ聞いてもいいですか?」


「なに~」


「どうして人を弄んでいるのですか?」


 そう聞くと、不思議そうに首を傾げる。


「ん~」


 目を瞑り少し考える彼女。そして、















「遊び?」















「…………だったそれだけですか?」


「遊び以外に何があるの~? ん~まぁあのに復讐はあるかもね~」


 あの女?


「ねえ、君。どうやってここに来れたの~? 砂漠を超えるのは難しいし~私がここにいるのは神すら知らない事なんだけど~」


「空を飛んで、近くに来たら塔が見えたから空から入りましたね」


「…………まさか蜃気楼を見抜いた上に上空から入るなんて~考えも付かなったよ~」


「それはそうと、そろそろミナトさんを解放・・してくれませんか?」


「え~やだ」


「どうしても?」


「うん~」


「これは困りましたね……僕、あまり力づくは――――」


 僕の言葉に一瞬彼女が微笑んだ次の瞬間、僕の視界が大きく変わる。


 こんなに早く殴られたのは初めてだ。


 一気に塔から砂漠の空に吹き飛ばされたみたい。


「へぇ~あの速度でも防げるんだ?」


 体勢を整えると、空の上に立つ彼女が見えた。


「痛いじゃないですか」


「でも力づくで来るって言ったのは君だよ~」


「そうでしたね。僕はどうしてもミナトさんを救いたい。貴方が彼の記憶を縛っているのは間違いないみたいですから」


「うふふ~あんな面白い駒を渡すわけないでしょう~あの女に一生悔やんで貰うんだから~」


「…………一つだけ約束してくれますか?」


「なに~」


「貴方との戦いに勝ったら、僕の言う事は全部聞いてくれると」


「へぇ~随分自信があるようだね~――――――――いいよ?」


 一瞬で間合いを詰めて来た彼女のパンチに合わせて、僕の拳も激突する。


 たった一瞬の出来事だけど、周囲には爆風にも似た衝撃波が広がっていく。


 瞬く間に彼女と何度も拳を交える。


 最初こそ、緩い口調や緩い表情だった彼女も次第に表情が曇っていく。


「…………人間風情にしてはやるじゃん~」


「まだ全力じゃないですよ?」


「へぇ~!」


 眠そうだった目が大きく開いて、上向きで睨んでくる。


 彼女の全身が夜空でも分かるような灰色のオーラに包まれていく。


 オーラは段々形を作り、彼女の姿を変えていった。

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