第206話 ハーレクイン枢機卿

「イクシオンさん。スロリ街はどうですか?」


 祭りが終わり、眠る前に屋敷に先祖様を案内した。


「こんなに凄い成長しているとはね。昔は家すらまともではなかったのだから」


「ふふふっ。先祖様の日記で見ましたよ~」


「むっ!? あれがまだ残っていたのか」


「はい。ベルン家の家宝になっていますよ」


「そうだったんだな…………クラウドくんはやはり不思議な力を持っているんだな」


「どうなんでしょう。僕より弟と妹が凄い気がもしますけどね」


「うむ。君のそういう所がだが、クラウドくんらしくて良いと思う。さて、明日には彼の事を知っている範囲で話そう」


「分かりました。お願いします」


「うむ。ではおやすみ」


「おやすみなさい」


 先祖様を送って、僕はその足でとある場所に向かった。




「みんな! 準備はいいね?」


「「「はーい!」」」


 集まった家族と仲間を見渡す。


「そろそろかな?」


 すると、大きな爆発の音が鳴り響く。


「行こう!」


「「「はい!」」」


 みんなで建物を後にして空に浮かぶに向かう。




「ほぉ…………ここはスロリ町なのか?」


「ええ。大きくなったでしょう」


「そうだな。こんな田舎がこうも変わっているとはな」


「それはそうとそろそろ貴方の事も話して貰えませんか?」


「俺の事か? 知っているだろう? 俺はハーレクイン。知らないはずもないと思うが」


「貴方がハーレクイン枢機卿なのは知っていますが、元々は誰なんです?」


「元々か…………」


 その時。


 一緒にやって来た仲間の中からエリシアさんが一歩前に出る。


「貴方。どうしてハーレクインの名を語るのかしら?」


「ん? その女…………っ!? お前。名前は何という?」


「女性に名前を尋ねる時は先に名乗るのが礼儀よ?」


「っ!?」


 急に頭を抱えるハーレクイン枢機卿。


「なんだ……この記憶・・は!?」


 あれ?


 ハーレクイン枢機卿の様子が変だ。


「俺の…………俺の中に入ってくるな!」


 彼の両手から大きな呪魔術が放たれる。


 急いで彼の魔法を下から打ち上げて空高く吹き飛ばした。


 呪魔術ってオーラと関係なく強いのであまり撃たせなくないんだよね。


「お兄ちゃん。みんなの避難は終わったよ~」


「ありがとう! サリー!」


 これで心置きなく彼を捕獲出来る。


「レオ!」


 アレンの掛け声で巨大な姿に戻ったレオが上空に浮いているハーレクイン枢機卿に体当たりを行う。


 勢いよく飛んだ彼を今度は魔族のグラハムが遥か後方で待っていて、強い打撃でこちらに飛ばす。


 エルドくんとエリシアさんが剣を抜いて飛んできた枢機卿を左右から斬りつけた。


「ハーレクイン枢機卿。そろそろ諦めてくれますか?」


「ふ、ふざけるな! 俺は絶対に人間を許さんぞ! そろそろガイアによって世界は滅ぶ! 貴様らもいずれ滅ぼされるのだ!」


 隣にガイアの上に乗ったサリーが彼の前に出る。


「私の従魔がなんですって? 世界を滅ぼさせたりしないわよ?」


「は?」


「この子が今のガイくん。私の従魔なの」


「はああああ!?」


 まあ……ガイアが切り札だったようだしな。


「ありえない…………ありえない! 神はここまで俺を愚弄する気か!」


「神を愚弄するのは貴方です! 人の身体を乗っ取り、世界を滅ぼうとするにも理由・・もないではないですか!」


「!? 人間のような醜い存在は全員滅ぼさなければいけないのだ! 何故それが分からない!」


「分かりません! 分かりたくもありません! 人は……人は醜い存在ではありません! みんなが生きるために必死に生きてます! 明日への恐怖に抗いながら、愛する者を守ろうと毎日必死に生きているんです! だから僕はそんな人々を精一杯守りたい! 彼らが貴方に何をしたのかは分かりませんけれど、人々がみんな悪い人ばかりではないんです!」


「そんなはずはない! 人は俺からエリシア・・・・を奪った! 俺の人生を奪ったんだ!」


 えっ? エリシア!?


 思わぬ答えにエリシアさんも驚く。


「エリシア……? 俺は一体何を言っているんだ…………?」




 その時。


 上空から眩い光が周囲の暗闇を照らす。


 美しい四枚の羽根を広げて慈悲深い笑みをで降りて来るのは、僕の婚約者ティナである。


「貴様は! 女神! これも全て貴様が企んだ事なんだな! 今すぐ滅ぼしてくれる!」


 枢機卿からは呪魔術の禍々しいオーラと彼のオーラが入り混じる。


 元々老いた姿だった彼だが、禍々しいオーラと彼自身のオーラが混ざると身体の外に吐き出された。


「兄さん! 先祖様は救出したよ!」


 レオくんに跨って、空から落ちた先祖様の身体を受け止めたアレン。


 禍々しいオーラだけか目に見えるくらいに鮮明に眩く光るティナの前に姿を現す。




 漆黒。




 その言葉が似合う暗闇よりも暗い色。


 そして、彼が姿を現した。


「!? ミナト!?」


 下で見つめていたエリシアさんの声が聞こえる。


 だが彼のエリシアさんや僕達には目もくれず、真っ黒い染まった身体でティナを襲った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る