第205話 久しぶりの出会い
「えっと、お爺ちゃんと呼ぶべきでしょうか?」
アルカディア0号に乗り込み、スロリ街に向かう中。
まさか会えると思わなかった先祖様。
正直に言えば、呼び方にとても困っている。
「う、ふむ…………まだ自分の子供も見た事がないからな……出来れば名前で呼んでくれると嬉しい」
「分かりました。イクシオンさん」
少し緊張していたのか、強張った表情のまま椅子に座っていた先祖様の表情が少し柔らかくなった。
すっかり白髪になってしまって、青い髪の雰囲気は全く残っていないし、顔も老けているから僕達の先祖様と言われてもよく分からない。
「イクシオンさん。うちで作られている飲み物なんです。どうぞ」
いつの間にか自販機から暖かい紅茶を出して先祖様に渡すアレン。
小さく「ありがとう」と呟いて飲み物を口にすると、もっと表情が柔らかくなって、ようやく安堵した表情を見せてくれた。
少しソワソワしながら空の旅を続ける。
「今のベルン家はここまで進化しているのか?」
「そうですね。この船は僕達家族専用ではありますけど、大型客船とかもあって王国のみなさんも乗ってますよ~」
「とても明るい未来になっているんだな」
「出来るだけ多くの人達に羽ばたけるようにはしたいんですけど、どうしてもベルン家に関わってない人達は疎かになってしまいますけどね」
「それは仕方ないのだろう。民を導くためには切り捨てるのも場合によってはあると思う。だがそれが多いとここまでの発展はないだろう。これも全てクラウドくんの導きが良いのだろうな」
「えっ!? そ、そんな事はないと思いますけど……」
「あはは、謙遜過ぎるのはも良くないぞ? 遠い未来の子孫がこんなに立派なら、俺も頑張って戦い抜いた甲斐があったもんだな」
その戦いがとても気になる。
ダークエルフ族が持っていた『歴史書ヘレニカ』に書かれていた戦いの数々。
もしかして、先祖様はその戦いに身を置いていたのかも知れない。
何となく、先祖様が繋いでくれた絆がここでまた一つ繋がった気がした。
「あ~! イクシオンさん。今のベルン領ならとても面白いモノが見れますよ!」
「ほお?」
「ぜひ楽しみにしてください!」
「ああ。それはとても楽しみだな」
スロリ大森林を見てくれたら、きっと先祖様も驚いてくれると思う。
エルフとダークエルフが一緒に過ごしているこの世界なら、平和になったと伝える事が出来ると思う。
あとは、先祖様の中にある彼との最後の戦いに備える。
暫く空を飛び、スロリ街に到着した。
◇
「あら、クーくんまで帰って来たの」
「ただいま。母さん。父さん」
他にも沢山の人達が出迎えてくれる。
「父さん。紹介したい人がいるんだ」
「僕にかい?」
「はいっ! こちら、僕達の先祖様のイクシオンさんだよ~」
「「えええええ!?」」
先祖様を紹介すると集まったみんなが驚く。
【ん? イクシオンじゃねぇか!】
「ん?」
小さなドラゴンの姿のまま、先祖様に飛んでいく。
【姿は随分と老けたけど、間違いなくイクシオンだな!】
「そういえば、イクシオンさんはネメアちゃんと知り合いだったんですよね」
「ん? ネメアちゃん? この小さきドラゴンの事かい?」
「あ~元々は大きな火竜なんですけど」
「っ!? まさか、キュシレ様なのか?」
キュシレというのは、あの地域の名前だ。
確かネメアちゃんはみんなからキュシレ様と呼ばれていたね。
「本当の名前はネメアなんです~今は母さんの従魔になってくれています」
「キュシレ様が従魔に!? それはまた恐ろしい方なんだな。クラウドくんのお母様は」
「あはは~母さんは世界一料理が上手くて、とても優しいんです。みんなを紹介しますね」
「ああ。よろしく頼む」
それから一人一人を先祖様に紹介していく。
どちらかと言えば、僕達にいないお爺ちゃんな感じがして、少し嬉しく思えた。
その日はイクシオンさんの久しぶりの帰還ですぐに祭りが開かれた。
僕が想像していた通り、先祖様はエルフ族とダークエルフ族が共存出来ているスロリ街に凄く驚いてくれた。
やっぱり昔はお互いに戦っていたらしくて、その時代の事を聞けるのも楽しみにしている。
夜に差し掛かって、祭りも盛り上がりを見せた頃に空の向こうから眩い光に包まれたサリー達も帰って来た。
「サリー! お帰り!」
「ただいま~!」
「えっと、その
「えへへ~この子は――――――ガイアくんだよ!」
「ええええ!? あの大きな子を従魔にしちゃったの!?」
「うん! お兄ちゃんの妹なら良いって! でも私よりお兄ちゃんの従魔になった感じだよ~」
「そ、そうか……」
【拙者。ガイアと申す。殿様。よろしく申しあげます】
「うん! もう悪さしないでね?」
【かしこまりました】
魔王クラスの中で一番強いというだけあって、非常に強いオーラを感じる。
ロスちゃん達を足しても届かないくらい。
【ん? 相棒~!】
何となくロスちゃんを見ていると、ロスちゃんが突撃した。
僕ではなく、隣に立っていた先祖様に。
「ぐはっ。久しいな。ケルべロス殿」
【お久~】
緩く前足を上げるロスちゃんに苦笑いを浮かべる先祖様。
先祖様は従魔達の声は聞こえないみたいで、ネメアちゃんの名前も知らなかったりする。
「僕の従魔のロスちゃんです。ロスちゃん? イクシオンさんとは顔見知りだったの?」
【ん~相棒だよ~】
「相棒か! ロスちゃんにそういう人がいるとは思わなかったな~」
「ケルべロス殿を従魔に…………やはりクラウドくんはとんでもない人なんだね。それにしてもケルベロス殿は俺を相棒と呼んでくれたのか。こんなに嬉しい事はない」
【ん~】
言葉は通じなくても、ちゃんと意志は通じているからこそだよね。
その日は楽しい祭りが夜通しで続いた。
「あれ? お兄ちゃん?」
「ん?」
「ティちゃんは?」
「あっ。迎えに行くの忘れてた」
ティナに凄く怒られた。
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