第204話 身体の持ち主

 ティナにナンバーズを任せて、僕は不安を覚えるスロリ街に急いだ。


「クラウド様! 前方に不思議なモノが見えます!」


 前方を見てみると、僕達の船とは全然違う――――サテライトに似た円盤型船が飛んでいた。


「枢機卿のオーラですね。そのまま上空から接近してください!」


「かしこまりました!」


 スピード的にはこちらが遥かに上回っているので、スロリ街に着く前に上空で同じ距離となった。


「このまま高度を下げてください! 僕はそのまま向こうに出撃します!」


「かしこまりました! ご武運を!」


 中の通路と通って、船の下部の出口に急いだ。


 少し待つと、ハッチが開き始める。


 船の周りには魔法が展開されているから強風とかは入ってこないね。


 僕も空を飛ぶ魔法を展開させ強襲を始めた。




「剣聖奥義! 斬鉄剣!」


 ん?


 飛び込んですぐに遠くから綺麗な声が響いて、円盤型船に強烈が剣戟が叩き込まれた。


 あの円盤型船がサテライトと同じ存在なら、凄く硬い鉱石で出来ているのに、それを感じさせないくらい船が半分に分かれて地面に叩きこまれる。


 その先には、空中に雄々しく立っている本来の姿のレオくんと、その背中に長いを持ったエリシアさんが見えた。


「エリシアさん!」


「あら? クラウドくん? もう到着したのね」


「はい。レオくんに乗って来たんですね」


「ええ。アレンくんにお願いしてね」


「兄さん、僕はこっちだよ」


「うわっ!? アレン。レオくんのたてがみの中に隠れていたんだね」


「うんうん。エリシアさんの邪魔にならないようにね」


 レオくんのたてがみの中から顔だけ出すアレンが可愛らしい。


「それにしても、どうしてサテライトと同じ船が出てくるんだろう。あの船はサテライト一隻しかないはずなんだけど……」


「あれの系統は枢機卿が地下にいた基地と同じでした。多分枢機卿が作った・・・と思われます」


「作った!? あれを!?」


「はい。呪魔術を主軸として作ってるようで、以前戦った時の呪魔砲とかと似てますね」


「そう言われてみれば、あれもサテライトとどこか似てたわね…………それに気づかなかったなんて、私もずいぶんと余裕がなかったみたい」


 僕達が離していると、半分に切られた船から一人の人影が見えて、船の上に上がってくる。


「どうやら犯人が出て来たようですね」


「なるほど。あれがハーレクイン枢機卿という人ね?」


「そうです。どうやら中身・・は違うみたいですけどね」


「中身が違う?」


「はい。彼はただの皮のようです。ただし、ちゃんとした人の」


「…………それは許せないわね」


「はい。アレン。あの人を何としても止めるよ!」


「分かった!」


 三人で地上に降りていく。


 どうやら枢機卿の周囲に兵士はいない?


 ナンバーズ達の気配は全て向こうにいたのだから、枢機卿は一人でここに乗り込んだのか?


「枢機卿! 一体何が目的なんですか!」


 目の前の枢機卿は、少し虚ろな目でこちらを見る。


「お、お前は……? ここは……ベルン領……なのか?」


「ん? ちょっと待って! 少し雰囲気が違う! オーラが……代わってる?」


「た、頼む……俺をスロリ町に……」


「それはダメです。貴方は世界を滅ぼそうとしたんです!」


「なっ……お、俺が…………そうか…………」


 肩を落とす枢機卿からは先程とはまるで違う感じがする。


「貴方は一体誰ですか?」


 戦意はなさそうで、彼は僕の問いに答える。驚きの答えを。
















「俺は、イクシオン・ベルンという」


「「えっ!?」」


「イクシオン・ベルン? それってクラウド達の先祖様だよね?」


「は、はい。僕達の先祖様の名前と同じです」


「先祖……? 俺がか? …………一体今はいつの時代・・なのだ? シュリは……シュリは生きているのか?」


 シュリという名前が出た事で、目の前の人が間違いなく先祖様である事が分かった。


 何故なら、その名は先祖様の日記からよく見かけていた。


 日記の最後には…………二人が結婚した事が書かれていたから、僕もシュリという名を知っていた。


「シュリさんは…………大昔に亡くなっています」


「な、なんだと!? ど、どうして…………そもそもお前は?」


「僕は貴方の遠い子孫。クラウド・ベルンです。こちらは弟のアレン・ベルンです」


「なっ!?」


「貴方とシュリさんの間にケインさんが生まれて、遠い時間を通り僕達はここにいます」


「そうか……俺が捕まっていた時にそんな事が……シュリはもうこの世界には生きていないんだな?」


「残念ながら…………あの! 先祖様の身体を乗っ取った存在によって世界は滅びの危機に晒されています! どうしてなのか、教えて頂けませんか?」


「ああ…………だが頼みがある。どうかスロリ町を……故郷を最後に一目見せてくれないか?」


 先祖様のオーラはとても暖かくて優しい色を灯している。


 ハーレクイン枢機卿と先祖様。


 その関係性を知らないまま、僕は先祖様を船に乗せてスロリ街に向かった。


 先祖様の中にあるが出て来る前に。

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