第203話 本物と偽物

「ふ、ふざけるなあああ!」


 ティナに正拳突きで吹き飛ぶナンバーズ達。


 クラウドがスロリ街に急行する間、ナンバーズとサテライトに酷似した船を制圧するティナである。


 ナンバーズの強さを持っていても天使状態を解放したティナに手も足も出ない状況である。


 そんなティナに悪態をつくナンバーズ達であるが、それでも結果は変わらず少しずつナンバーズ達の動きが鈍くなっていく。


「ナインの仇っ!!」


 どの番号かは分からないが、執拗にナインの仇を強調するナンバーズの一人がティナに攻撃を試みる。


 ただ、その攻撃が届くはずもなく。


「確かに、ナインさんを死なせてしまったのは私です。知らなかったとはいえ、人の命を奪ったのは申し訳ないと思ってます」


 本音をぶつけるティナ。


 だが、その返事には意外な言葉が返って来た。


「いや、我々は人ではない。命も魂も何もかも全てマスターのモノだ。ナインくらい死んでも問題はない」


「ワン! ふざけるな! ナインは俺達の中で一番末っ子だぞ!」


「それがどうした。我々には大勢の同じ存在・・・・が死んでいった。ナインもそんな彼らと変わらないという事だ」


「それは…………」


 クラウドが見たあの部屋の事をナンバーズの誰もが知っていた。


 仮面で見えないが彼らの暗い表情が見える。


「クラウドから話は軽く聞きました。貴方達は普通の人ではなく、人造人間ホムンクルスのようですね」


「そうだ。我々はマスターのホムンクルスだ」


 一番前に立ちふさがるナンバーズのワンの姿をティナはどこか悲しく思う。


 あの仮面の向こうの姿は、自分は世界で最も愛した許婚と似た姿でもあったからだ。


 仮面で見えてはいないが、その瞳や体形もどこかクラウドやアレンに似てる。


「みなさん。私の話を聞いてください」


「ふん。俺達がお前達から言われることは何もない。我々は人を滅ぼす事だけが目的。話し合いなど必要ない」


 すぐに自らの剣を取り出してティナに襲い掛かるワン。


 だがティナの両手に籠った光によって軽々と防がれる。


 その時。ティナの拳とぶつかったワンの剣から禍々しいオーラが急速に現れ、ティナを包み込む。


「っ!? こ、これは?」


「くははははっ! その油断が戦場では命取りなんだよ! 我々の闇の中でもがき苦しむがよい!」


 そして、ティナはその意識を飲み込まれた。




 ◇




 ティナは夢を見ていた。


 夢の主人公は少年で、小さい頃から大きな夢があった。それは家族と仲睦まじく平和に暮らす事。


 だが少年はすぐに戦争に巻き込まれ始める。


 そんな戦争に負けじと抗う少年は遂にその命を落とす寸前になる。


 その時、少年は大昔・・の事を思い出す。


 少年は自分の中にある大きな光を力に変えて戦争を生き抜いた。


 いつしか少年は『勇者』と呼ばれるようになる。


 ティナはその少年がよく知る人物とどうしても重ねて見えた。


 姿は全く違ければ、髪の色から体形から何一つ似てるモノがない。ただ、たった一つだけ。優しい心だけは少年と彼を重ねずにはいられなかった。


 少年はやがて本物の勇者となり、遂には平和にたどり着いた。


 だが少年を待っていたのは、あまりにも残酷な事実。


 そのを見たティナの両目からは止めどなく涙が流れていた。




 ◇




「これが貴方達の記憶・・なのですね」


「なっ!? 我々の闇に飲み込まれなかっただと!?」


 一瞬で意識を取り戻したティナに驚くワン。


 今までナンバーズ達の闇に囚われて帰って・・・来られた者など存在しないのに、それをいともあっさり超えたティナに驚かずにはいられなかった。


「ふ、ふざけるな! お前なんかに泣いてもらうために見せたんじゃないんだ!」


「はい。知っております」


 ワンは動揺し始める。


 ティナの涙が――――――本物・・であるのが心から伝わってくるからだ。


「貴方達の過去。しかと見させて頂きました。私に過去を変える力はありません。ですが、未来を変える力はございます。必ず過去のような事がないように、私が尽力致します」


「くっ! 未来だと!? 俺達に未来などない! 俺達はマスターのホムンクルス! ただ作られてマスターの言う事を聞くだけの――――機械となんら変わりないんだ!」


「いえ。貴方達は生きています。皆さんが一緒に流しているその涙は、決して嘘ではないはずです」


「な……みだ?」


 ナンバーズ達は各々を見つめる。


 ティナの言う通り、全員が涙を流していたのだ。


「貴方達には感情があり、想いがあります。確かにホムンクルスという作られた存在なのかも知れません。ですが貴方達にはマスターを想う心があり、家族を思う心がある。そちらの方がナインさんを想う心は、本物であると感じます。だから私が憎くて仕方ないのでしょう。自分がやってしまった過ちはしっかり受けます。だから皆さんの悲しさを私にぶつけてください。必ずや、全て受け止めてみせます」


 手を広げるティナ。


 そんな彼女を見たナンバーズ達が少しずつ笑みを浮かべる。


 自分達にもそういう感情が残っていた事に驚く。


「いいだろう! 俺達は作られた存在! そうじゃないと、受け止めてくれるというなら、とことん俺達に付き合って貰うぞ!」


「ええ。まだまだです。思いっきりかかってきてください」


 ナンバーズ達とティナの戦いが再び始まった。


 だが、ナンバーズ達も辛そうな表情は既に無く、そこにはどこか戦いを楽しんでいるような、清々しい心のようなモノを知らしめるかのようにティナと激突を繰り返した。


 一人、また一人が自分が思っていた事を口にしながら、それをしっかり聞き届けるティナ。


 彼らの戦いはまだ暫く続いたのである。

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