第201話 星雲の冠

 大きな鳴き声が響くと、エグザ領都を中心にその周囲の大地が粉々に粉砕され消えていく。


 地下から真っ赤な目が上がってくる。


【ご主人! あれはまずいかも!】


 普段温厚なロスちゃんが緊迫した声で大声をあげる。


「そうだね。凄まじい憎悪の気配が伝わってくるよ」


 空気が、大地が、彼の登場に恐怖を抱いているかのように視界が揺らぐ。


 地下から這いずりあがって来たのは、超巨大魔物だった。


【間違いない! 最強魔王ガイアだよ! 神をも喰らう魔王で、彼を恐れた光の神と闇の神が一緒に封印したと言われているの!】


 最強魔王ガイア…………。


 元々仲が悪い二柱の神が、一緒に封印したというくらいあって、その姿からは絶望を感じる。


 隣のティナでさえ、全身が震えて少し冷や汗をかいている。


「ティナ。大丈夫。僕達なら何とか出来るはず。ここにはロスちゃん達もいるし、大丈夫だよ」


「う、うん…………クラウド…………」


 いつも気丈に振舞っているティナが肩を寄せてくる。


 それ程にあの怪物からは絶望がありふれているのだね。


【ご主人】


「うん?」


【全力出す】


「分かった」


【あい】


 ロスちゃんと短い会話を終えると、ロスちゃんとドラちゃんが僕の上半身から飛び出した。


 二人とも全身から眩しい光を放つと、どんどん大きくなり、光の中から白色の狼と黒色の獅子が姿を現した。


 以前、僕を止めてくれた白い狼さんって、やっぱりロスちゃんだったんだね。




 地上にいる怪物を観察する。


 怪物は脚が6本で、その顔はカエルのようで大きな口があり、外からでも分かるくらい鋭い牙が見える。


 背中には無数のトゲが生えていて、そのどれもどす黒い煙を周囲に吐き出していた。


「みんな! 背中から出ているのは毒煙だと思う! 絶対に吸い込まないように!」


 最初の姿から随分と大きくなったロスちゃんとドラちゃんだけど、あの怪物には到底及ばない。


 まるで虫のごとく、気にすらしないが、その瞳はロスちゃんとドラちゃんを捉えていた。


 ――――くる!


 そう直感した時には、既に怪物の口に大きな炎が見え、前方に爆炎が放たれた。


 黒赤い炎は、大地を飲み込み全てを溶かしていく。


「セイントスマッシュ!」


 爆炎の進路にティナの全力魔法がさく裂すると爆炎は大爆発を起こして進行を止めた。


「ロック! クロ! スラ! ロスちゃん達を援護して!」


 すぐにロック、クロ、スラを召喚する。


【待ってわ~あんな化け物なんて、今すぐ倒してやるんだから~!】


【主! 必ずや、あの化け物を倒しましょう!】


【旦那! 僕も全力で手伝いますよ~!】


 3体の従魔がロスちゃん達の後を追う。


 後方からスラの魔法による援護が的確に放たれ、4体の従魔達が怪物のあらゆる場所を攻撃し始める。


 だが、怪物の大きさも相まって、攻撃が効いている感じが全くしない。


 従魔達が引き留めている間、空の彼方から一隻の船が超高速で接近してきた。


「お兄ちゃん~!」


 船の中から一際目立つ光が僕の胸に飛び込んでくる。


「サリー!」


「ケガとかしてないよね!?」


「もちろんだよ。ありがとう」


「あのデカブツは?」


「ロスちゃん曰く、ガイアという最強魔王みたい。神様が封印していた魔王らしいよ」


「ふう~ん。ロスちゃん達でも苦戦しているくらいね」


「そうだね」


「だけど、私が来たからにはもう大丈夫!」


 自信満々にそう話すサリー。


 いつの間にこんなに大きくなって、頼もしくなったんだね。


 幼い頃、二人のためにお金を貯めて才能啓示儀式を受けさせてあげたくて奮闘していた僕に、泣きながらお兄ちゃんが一緒に遊んでくれないと駄々をこねていたあの少女が、すっかり大人になって、小さな背中に重いモノを沢山背負うようになったね。


「ぷろちゃん~!」


「あいあいさ~!」


「必殺技行くよ~!」


「あいあいさ~! お任せくださいっ!」


 サリーのオーラとぷろちゃんのオーラが共鳴・・し始める。


「神器解放、星雲の冠ネビュラティアラ!」


 サリーの頭の上に可愛らしい冠が現れ、周囲に大きな魔力の波を放ち始める。


 この神器はエンハスさんがロスちゃんの爪で作った神器で、使用者が男性ならクラウンに、女性ならティアラになる。


 僕が使っている外套は着用者の力をまっすぐ攻撃力に変えてくれる。


 アレンが使っているベルトは着用者の力を周囲の仲間達に広げてくれる。


 サリーの神器は、着用者と心を通わせたすべての者を繋いで・・・くれるのだ。


「みんな! 繋がったよ~!」


 サリーの言葉が口を開かずとも、一瞬で頭に到達する。


 さらにサリーの従魔であるぷろちゃんから、大きな光の波動が伝わってくる。


「みなさん! ガイアは光と闇の力以外はすべて無効化しますよ~! 僕の光の力をまとわせます~!」


 ロスちゃん達の身体が美しい光に包み込まれる。


 地上でクロが体当たりを試みる。


 今までびくともしなかった怪物の巨体が、クロの体当たりに大きく後退りを見せる。


「では、私たちも行くよ~! 究極魔法『メテオアサルト』~!」


 サリーの上部に大きな魔方陣が展開され、無数の岩が怪物に注ぎ始める。


 僕の従魔達とサリーの攻撃により、怪物は悲痛な叫びをあげながら周囲に無差別に攻撃を試みるが、そのどれも当たるはずもなく、ロスちゃん達の攻撃の餌食となっていった。

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