第199話 悲しみの連鎖

「貴様なら分かってくれると思ったんだがな。人間の傲慢さを」


「残念ですが、僕の周囲には明るい人ばかりですから。少しいたずら好きな妹には困っていますけどね」


 目に見えるほどの黒いオーラが僕にぶつかってくる。


 僕を包んでいるオーラとぶつかり、周囲に激しい衝撃波を生み出した。


「ほぉ……ナンバーズを全て倒したのは伊達ではないな? オーラが全くないと思ったら、中々どうして」


「一つ聞きたい事があるんですけど」


「よかろう。ここにたどり着いた事だ。聞くといい」


「向こうの設備。あれは何ですか?」


「あれか。あれは――――――人造人間ホムンクルス生成器だ」


「っ!? まさか……ナンバーズ全員!?」


「ああ。そうだとも」


「…………もう一つ。どうしてみんな同じ・・何ですか?」


「ほお? お前には同じに見えるのか?」


 同じというのは、ナンバーズ達のオーラの事だ。


 ナインの時には彼一人だったから分からなかったが、ここに来た時のナンバーズ6人は全員が同じオーラの色と形をしていた。大きさはそれぞれ違うモノの、同じオーラを見れたのは人生初めての出来事だ。


 例えば、僕と妹のサリー、弟のアレンは同じ血筋であっても、オーラは全く違う。


 それは僕達家族だけでなく、他の家族もそうだし、中には双子なんかもいるけど、外見は全く一緒でもオーラは全然違う。


 それ程までオーラとはそれぞれ個人の形を作っているんだ。


 なのに。


「オーラは人間それぞれが違う形を持っています。なのにナンバーズは同じ色、同じ形で違いといえば大きさだけですから」


「くっくっくっ。俺が思っていた以上に、貴様は良く出来ているな? 貴様の予想通り、『ホムンクルス』は、決まった血をコピーしているのだ。それは――――魂すらもな」


「っ!? 魂すら!?」


「ナンバーズはただの生物ではない! それぞれが意識を持つが、結果的には全て俺の分身そのものになる! 生きる俺自身なのだ!」


「…………それともう一つ」


 僕はここまで一番の疑問をぶつける。


「どうしてナンバーズがアレンに似ているのか…………いや、僕達に似ているのか。貴方ならその理由を知っていますよね?」


「くっくっ。もちろんだとも。それを知りたければ――――」


 一瞬枢機卿の身体が揺れる。


 息を一呼吸すら出来ない刹那、彼が身体が僕の目の前に現れる。


「俺を倒してみるといい」


 怒りが込められた拳が僕を強打する。


 急いで防御は間に合ったけど、後方に大きく吹き飛ばされ、壁に激突した。




 壁を3つくらい破壊するほどには吹き飛んだのか。


 思っていた以上にずっと強くてびっくりした。


 まぁ、ナンバーズの事を思えば、当たり前なのかも。


 それにしても、あの拳に纏いついたのは、間違いなく呪魔術の類の力か。


 彼のオーラ自体も呪魔術で大きく強化されている感じだ。


 特に身体にはダメージはないか。


 さて…………仲間を呼ぶことは難しそうだから、このまま一人で枢機卿を止めなければな。


 と、思っているど、足元に転がっている何かに足を取られた。


 これは…………。


 っ!?


 床に散らばっているそれらがなのかくらい予想するのは簡単すぎることだ。


 『ホムンクルス』は命を人の手で作り出す事。


 それがそう簡単・・に成功するはずもないじゃないか!


 どうして僕はそんな簡単な事にも気づかなかったんだ!


「あ……うぅ…………」


 暗い部屋の片隅で声が聞こえる。


「だ、大丈――――っ!?」


「お、ね……が…………」


「…………ああ。ごめんね? 僕がもっと早く気づいていれば、君達が辛い想いをしなくても済んだのに。あとは任せておいて。君達と同じ目には合わせないから」


「あ……り……が…………」


 僕はその部屋ごと、周囲を消滅・・させた。




 ◇




 クラウドが戦っていた頃。スロリ街では。


「みんな……ごめんなさい…………」


「ティちゃん! 謝らないで」


「で、でも……」


「お兄ちゃんは多分わざと・・・捕まったんだと思う」


「わざと……?」


 ベルン家――――もとい、クラウドに関わっている全ての戦力が集まっている中、謝るティナをサリーが宥める。


 そんなサリーは、以前兄から相談されていた事を話し始める。


「みんなも覚えていると思うけど、エンド王国での戦いの最後にナンバーズのナインを覚えているよね? 知らない人もいると思うけど、黒幕と思われる人物で、でも彼の裏には間違いなくナンバーズという組織があって、その組織を牛耳っている人物がいるはずなの。お兄ちゃんはずっとその事を気にしていたの。だからいつかナンバーズが暗躍する事なんて見通していたのよ!」


「そ、そうだったの!? でも私には一言も…………」


「お兄ちゃんは周りに心配させたくないって、私とアレンくんにだけ相談していたの」


「うん。サリーちゃんの言う通り、僕とサリーちゃんだけに相談してくれてたよ。兄さんは」


「そう……だったんだ……」


 肩を落とすティナに、サリーが肩に手をあげて首を横に振る。


「もしもの時。どうするかはお兄ちゃんと話し合っているの。でもそれは私とアレンくんだけじゃ絶対に無理なの。だからみんなの力も貸して貰うよ! 特にティちゃん。ティちゃんが一番の鍵なんだから」


「私!?」


「うん。だってティちゃんは――――――」


 サリーの言葉に驚いたティナの目が大きく見開く。


 普段から言われた事がないのだが、自分を深く認めるようになったサリーに心から嬉しさを感じたティナは、婚約者クラウドの意思を尊重すると決意した。

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