第198話 邂逅
廊下の奥から飛んできた強烈な炎を吹き飛ばす。
「君達は仲間じゃないのか?」
肌を刺すような殺気がする方に視線を向けると、ナンバーズの一人がこちらを睨んでいた。――――――僕ではなく、仲間を。
「仕事もまともにこなせないゴミは仲間ではないね」
そう話す彼はもう一度炎の魔法を放つ。
もちろん、その目標は僕ではなく、僕の後方に倒れ込んだ6人のナンバーズだ。
「…………そいつらはお前の敵だろう? どうして助ける」
「失っていい命なんてない」
「くっくっ……くはははは、あははははははははは~!」
彼は狂ったように笑い始めた。どこか悲しみを込めて。
「そいつらは
我々は作られた
「っ!? 作られた?」
その時、建物全体に響く魔力の波動を感じた。
「…………運がいいな。マスターがお会いになるそうだ」
今のは思念波の類だったのか? 特に言葉は乗せられた気がするんだけど。
「分かった。でもこの子達の命は奪わせないよ」
「いいだろう。そんなゴミ共でも一応
弟か……何となくだけど、アレンを思い出した。
そういや、以前死なせてしまったナインの素顔はアレンに酷似していた。
あれが今でも忘れられなかったりする。
廊下の奥に消えていく彼を見届けて、僕は倒れているナンバーズ達を見る。
「一つ聞いてもいい?」
「…………」
「君達の仮面は、命そのものだと考えていい?」
「…………ああ」
「そっか。知らなかったとはいえ、ナインを亡くしてしまったのは謝罪するよ。でも何度も言うけど、君達が先に始めた戦争だからね。君達も大勢の人達にちゃんと謝って貰うから」
「……」
悔しそうに床を見つめる彼を残し、俺は廊下の奥に向う。
まず、この建物の作りは、サテライトに近いモノを感じる。
真っ白い壁が継ぎ目もなく繋がっていて、窓なんて全くないのに周囲が明るい。だからと言って照明器具があったりもしない不思議な建物だ。
歩いている感じから素材もサテライトの素材に非常に似ている。
強度はサテライトのモノよりも遥かに高そうだから、僕の従魔達でも壊そうと思うと一苦労しそうだ。
長く続く廊下を進むと、先程魔法を撃ったナンバーズが扉の前で待っていてくれた。
「お待たせ」
「ふん。マスターに失礼のないように」
「分かった」
扉は両面にスライドされる形で開いた。これもサテライトと全く同じだね。
そして、中に入る。
「っ!? こ、これは!」
思わず声に出してしまった。
想像だにしなかった光景が目の前に広がっていて、そのあまりの衝撃にまるで鈍器で頭を殴られたかのような衝撃を覚える。
こんな事が…………こんな事が許されていいのか!
「ほぉ…………ナンバーズを制圧したのはそいつか」
「はい。スリー達がしくじったようで、ベルン家の嫡男だそうです」
「ふむ」
禍々しい部屋の光景。
その奥にはまるで絵本の中に出て来るような、悪魔の象徴と言っても過言ではない雰囲気の椅子があり、無数の黒い管が繋がっており、赤く光る小さな光がとめどなく椅子に吸い込まれていた。
「あぁ……どこかで見た事があるなと思ったら、なるほど。ベルン家の嫡男でもあるし、
「貴方が
以前――――といっても、もう十年前になるが、アレンが『勇者』を開花させた次の日に、お義父様と一緒に
あの時は、教会の綺麗な衣服を着ていたが、どうにも怪しいと思っていた。でもその後、関わる事もなかったのだが、久しぶりに見かけた彼は、以前とはあまりにもかけ離れた別人のように見える。
真っ黒いローブを着込んでおり、顔には不思議な紋章が描かれている。
「犯人?」
「はい。ナンバーズを使って、世界を混沌に陥れ――――」
「それは誤解だな」
「えっ?」
「お前が見たのは、ナインの事だろう?」
「そう……ですね」
「あれはナインの単独行動だ。まぁ、そう仕向けたと言えばそういう事にはなるがな」
「どうして世界を陥れるんですか?」
「くっくっ。そんな事、簡単な話ではないか」
ゆっくりと玉座から立ち上がる。
穏やかな表情を見せる彼は、とても慈悲深い瞳をしている。それはやはり枢機卿らしい深さだ。
しかし、次の瞬間。
彼の瞳が憎悪の色に染まっていく。
「人間など生きるに値したいのだ! お前もこの世界に生を受けて見て来たのだろう? 人間とはいつの時代にもどす黒い想いで、他人を踏みつける事しか考えていない! 自分のためなら平然と人を殺める! 時には家族にすらその刃を向け、自分の欲望のためだけに他者を踏みつけるのだ! お前も上に立つ者なら見て来たのだろう! 人間の醜さを! 人間の自分勝手さを!」
そのどれも
彼は…………そういう人生を送って来たんだ。
怒り狂う感情の荒しがオーラに乗り、周囲に放たれる。
その怒りは…………あまりにも残酷で、悲しい想いが込められていた。
一体どういう人生を送れば、ここまで人を恨む事になるのだろうか。
一体どういう仕打ちを受けてくれば、ここまで人を拒絶するのだろう。
「貴方の怒りが本物なのは分かりました。ですが、僕が思う人というは、温かくて、お互いに支え合うような素晴らしい人々です。確かに中には私利私欲ために他人を平然と踏みつける者もいます。それは間違いない事実です。でも全員が全員、そういう訳ではない。僕は知っています。人々は本当に心温かく優しいことを」
枢機卿の憎悪に染まった瞳が僕を睨みつけてきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます