第197話 新たな始まり
遂にその日はやって来た。
僕はあまりの緊張に久々に吐き気を感じながら全力でロスちゃんとドラちゃんをもふもふして気を紛らわせる。
「クラウド? そろそろだよ」
「う、うん!」
部屋を出ると目の前に父さんと母さんが優しい笑みを浮かべて待っていてくれた。
「父さん。母さん」
「クラウド。しっかりな」
「クーくん? ティナちゃんのためにもしっかりするのよ?」
「う、うん!」
そのまま二人と共にとある場所に向かう。
部屋の前に着くと執事のゼイルが扉にノックをして、扉を開ける。
中には穏やかな表情で僕達を迎え入れてくれるバルバロッサ辺境伯様ことお義父様とお義母様、そしてティナが待っていてくれた。
ゆっくり部屋の中に入って行く。
後ろから閉められた扉の音なのか、自分の心臓の音なのかも分からないくらいに、緊張で胸が張り裂けそうだ。
でもそんな事を言っていても何も始まらない。僕が出来る事を、今精一杯やらなくちゃ。
「ほ、ほ、本日は、え、え、えっと、えっと、ありがとうございます!」
うわあああああ!
目の前が真っ白で何を言ったのか全然覚えてないよ!
お義父様達も父さん達もクスッと笑ってる気がする。
「クラウドくん。そう緊張するでない。既に我々が家族同然なのだからな」
「は、はいっ! てぃ、ティナさんを、ぼ、ぼ、僕んのっ、お、お、お嫁しゃんに、お願いします!」
部屋中が大きな笑い声に包まれた。
「お父様。長い間、わたくしを育ててくださりありがとうございました」
「うむ。わしの自慢の娘じゃからな。幼い頃から辺境伯の娘として、色々我慢させられた事も多々あっただろう。だが世界はクラウドくんのおかげでここまで平和になった。素晴らしい彼を隣で支える良き妻になって欲しいと父として辺境伯として願っているぞ」
「はい……お父様っ!」
ティナは美しい目に大きな涙を浮かべて、お義父様とお義母様に抱き付いた。
世界で一番幸せな奥さんにしてあげないといけないなと、心の中で小さく誓った。
今日は結婚式直前、奥さんの両親に結婚の承諾を求める婚姻前挨拶の日だ。
アーシャのところには明日行く予定で、本日は第一婦人となるティナの番だ。
挨拶が終わり、屋敷を後にしようとしたその瞬間。
辺境伯邸の庭から大勢の黒い人影が出現した。
「父さん! 母さん! 僕から離れないで!」
「「分かった!」」
急いでロスちゃんとドラちゃんを召喚する。
「貴様がベルン家の領主と嫡男だな?」
「ナンバーズ!?」
「ほぉ……我々を知っている……?」
黒い人影が姿を現すと、その顔に取り付いていた仮面が、以前倒したナインと全く同じモノであった。
数は全員で6人。
あのナインよりも強いのが6人か。
「ロスちゃんは母さんを、ドラちゃんは父さんを守ってくれ」
『『あいっ!』』
「クーくん!」
「大丈夫! 二人ともロスちゃんとドラちゃんに従って!」
ナンバーズが僕に向かって飛んだ。
その隙を見て、周囲に風の魔法を広げて、屋敷に逃げられる道を作り、ロスちゃん達を走らせる。
それにしてもナンバーズの6人は誰も母さん達を狙わない?
「俺達の目的は領主じゃない。嫡男のお前だ」
「っ!?」
6人が僕を取り囲む。
次の瞬間、足元に不思議な魔法陣が展開される。
「クラウド!?」
屋敷の方でティナの驚く声が聞こえ、次の瞬間目の前の景色が切り替わった。
◇
ふう…………ひとまず、ナンバーズの6人は制圧と。
それにしてもここはどこなのだろうか?
被害がなさそうだから身構えるだけだったけど、まさか『転移魔法』だったなんて、思いもしなかった。
それにしてもこの『転移魔法』非常に便利だね。
僕も真似で使ってみようと思う。
ただ、今は僕を襲ったナンバーズの連中を調べるのが優先事項だね。
それとこの場所。
不思議な結界で覆われていて、外に声が届けられない。ロスちゃん達にも声は届かないし、コメ同士の会話も届かないんだね。
まさかこんな事態に陥るとは想像だにしなかったから、対策も考えておかないといけないかな。
「き、貴様…………い、一体……何者…………」
やっとナンバーズの一人が意識を取り戻したようだ。
「僕はクラウド。君達が狙っていたベルン家の
「そ、そんな……ばかな…………我々を……一瞬で………………」
「以前ナインとやらと戦った事があるからね」
「っ!? まさか……ナインを殺したのは……お前か!」
「殺したつもりはないけど、仮面が取れてしまったら亡くなってしまったよ……」
「くそがあああ! ナインの仇! く、あ…………はあはあ…………絶対……許せな…………」
「言い訳にはなるかも知れないけれど、戦いは君達から先に仕掛けているし、君達の『呪魔術』のせいで大勢の人の命が亡くなったよ。少なくとも君達も責任があるからね?」
「そ、そんなこと……人類なんて……滅びればいい…………人間なんて生きるに値しないっ!」
彼から凄まじいほどの増悪が伝わってくる。
理由は知らないけれど、人を嫌う何かがあったのかも知れない。
でも…………。
「君達が人々を恨んでいるのは十二分に伝わって来たよ。でも、だからと言って人々の命を勝手に奪っていい事にはならない。君達も彼らと同じ事を人にやっているんだからね」
「そんな……屁理屈だ! 我々が受けた悲しみは、貴様に永遠に分からないだろう!」
「そうだね。僕は生まれてからずっと愛されてきたから、君達の気持ちは理解出来ないかも知れない。でもね。愛されてきたからこそ、分かる事もある。人は誰かを愛し、愛されたいと思う。だから君達の怒りも悲しみも全て僕が請け負うよ」
「そんなことが出来るはずもない!」
「大丈夫。ベルン家の領主として君達を受け入れるから。でも罰は受けて貰うけどね」
「ふ、ふざけ――――」
次の瞬間、通路の奥から殺気めいた魔法が飛んできた。
――――【注意喚起】――――
シリアスさんが降臨してクラウドくんに戦いを挑んだ模様です。
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