第196話 領主
冬になっても――――というか、冬になってますますスロリ街の人気は増していく。
その一番の要因は、やはり何と言っても温泉プールだ。
温泉プールは温水で形成されていて、年中快適に遊べる施設となっていて、寒くて雪が降る冬でも室内は暖かく過ごしやすい施設となっている。
さらに人気となった理由として、ベルン領とディアリエズ王国民だけでなく、ホルン王国民とシレル王国民と訪れるようになった件も大きい。
既にディアリエズ王国で試して素晴らしい成果をもたらした4日働いて2日休む週間制を採用。ただディアリエズ王国と同じ日にちだと温泉プールの満員にもなるとの事で、各国がそれぞれ6日のうち休日2日をずらして取る事に合意。
例えばディアリエズ王国が1日2日が休日なら、ホルン王国が3日4日が休日、シレル王国が5日6日を休日にして、各国が休日を上手くずらしてバランスを取る形となった。
昔なら各国が手を取り合うなんて、まずないんだけど、ヘルズ王国がなくなった事が拍車をかけ、サリーの奮闘により大陸中に『クラウド神教』が広がったのが大きい。
そんな冬もベルン家に関わってくれる各部門の従業員達のおかげで、大陸はますます平和が進み、生活がより豊かになっていき、娯楽も増えていきながらも、『クラウド神教』という強大な枷により道を外す人もなく、能力があっても搾取されるような人々が生活しやすい環境へと変貌していった。
◇
本日はソワソワ気持ちで集まった人々を何故か王様が座る玉座よりも派手な作りになっている玉座に座り見下ろしている事となった。
「さ、サリー」
「うん?」
「僕はこんな椅子は似合わないと思うんだ……」
「ダメっ! お兄ちゃんは神様なんだよ?」
「僕は神じゃないよ!?」
「お兄ちゃん? いい? 今のお兄ちゃんは世界の人々の心の支えなのよ? お兄ちゃんがそこに座っているだけで心が救われる人がもう大陸中の全ての人と言っても過言じゃないわ」
「うっ…………」
すっかりスロリ街を『クラウド神教』の神都として呼ぶ人も増え、スロリ神都と呼ばれていたりする。
うちの屋敷は僕の結婚式と同時進行でどんどん大きくなっていき、もはや屋敷ではなくお城に近い大きさになった。お城というよりは大聖堂というべきか。
サリー曰く、神徒達の中でも上層部とされている司教達は屋敷で住んでいるそうだ。最近出入りしている人達が多いなと思ったら神徒達だったんだね…………。
そんな『クラウド神教』の本拠地となったうちの屋敷には、僕達が座る事が許されている『神座』と呼ばれる椅子が作られた。
こういうのも変だけど、大陸のあらゆる富を象徴した物で作られた『神座』は、もはや座って良いモノかと悩むほどに贅沢なモノとなっている。
そして、本日。
僕の学園卒業が間近という事で、これからは領主としてこの地に戻る予定なのだが、すぐに結婚式が開かれる予定でもあるので、先回りして『誓いの儀式』を行う事となった。
『誓いの儀式』というのは、貴族位を継ぐ際、配下に爵位を授かるから我が家で働いてくださいという感じの儀式だ。よくあるのは、父になら付いていくが、息子が爵位を継承したらもう付いていかないから出て行くという配下も多いんだとかなんとか。
ちなみにベルン家で古くから働いてくれた人は存在しない…………。
「鍛冶組、カジとゲルマン!」
サリーの号令に「「はっ!」」と大きな声をあげてカジさんとゲルマンさんが前に出て来る。
「ベルン家の新しい領主クラウド様にその忠誠を違うか?」
「「はい! 忠誠を誓います!」」
二人が跪き、僕が感謝を伝える。
それから狩人組からケリンさん。
建設組からメアリーさん。
栽培組からレーラさん。
警備組からキルアさん。
ラウド商会からキリヤさん。
魔道具組から エンハスさんと隣に立っているサリー。
物流組からヘイリくん。
飲食組からルリさん。
東ベルン領大森林公園の管理を任せている公園管理組からスルドさんという方。
僕が知らなかったけど、サリーから言われた魔法組という部門からサリーと学園長。
陰ながらすっと支えてくれるボランティア組から母さん。
同じくずっと支えてくれる執務組から父さん。
そして、意外にも外交組というのが存在していて弟のアレン。
最後に洋裁組からアーシャ。
それぞれの担当の人からベルン家当主として忠誠を貰い、僕は労いの言葉と、その忠誠に対する証として『ベルン家の証』と授ける。
これを左胸に掲げるだけで、ベルン家の配下だと知らしめる事が出来る。
「本日は忙しい中、集まってくれて本当にありがとう。僕がベルン家の領主をようやく受け継ぐ事が出来、これだけの大勢の配下に愛される領主になる事を嬉しく思う。この場にはいないが、ずっとずっと大勢の人がベルン家を支えてくれた事をこの場で感謝を伝えたい。どうかこの先もベルン家の安寧と発展に尽力して欲しい。僕もまだまだ足りない事が多いと思う。これからもみんなの言葉に耳を傾けられる領主を目指して尽力していくので、困った事があれば迷うことなく相談して欲しい。ここにいるみんなだけでなく、配下の全てに伝えよう。これからも僕と共に進んで行こう!」
「「「「「おー!」」」」」
スロリ街が大きな歓声が包まれた。
『誓いの儀式』から数日後。
学園の卒業パーティーに出席した。
今までなら見送る側だったが、今回は見送られる側である。
右手にティナ、左手にアーシャと手を繋ぎ、会場に到着すると同級生達や後輩達から大きな拍手で迎え入れられた。
一人一人と挨拶を交わし、最後にイレイザ先生と握手を交わす。
「クラウドくん。3年間本当にありがとう」
「いえ、僕こそ、イレイザ先生と出会えて本当に良かった。楽しい3年間をありがとうございました」
「うん…………これからもスロリ街に行ったら、たまには会ってくれると嬉しいな」
「もちろんです! イレイザ先生はこれからもずっと僕の先生ですから」
「ふふっ。何か教えられた気がしないのだけれど、とても嬉しいわ。これからも大勢の人を助けるために頑張ってね」
「はい」
こうして3年間過ごした学園を卒業して、僕は正式的にベルン家の領主となった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます