第195話 悪徳商会への鉄槌

 秋も通り過ぎ、気が付けば冷たい風が頬を刺激する季節になった。


 前月から準備を進めていたホルン王国とシレル王国に『アルカディア』飛行場の建設を進め、ついに冬となるこの季節に完成を迎えた。


 飛行場はそれなりの面積を用意して貰えて、飛行場の機能だけでなくラウド商会の玄関口となれるようにベルン家のお店が並ぶ作りとなった。


 実はこれも王国側からのお願いだったりする。


 自国民がラウド商会の商品を買うには隣国に行かなければならず、ラウド商会から仕入れる商会も数少なく、その中には悪徳商会も多いため、銀貨十枚の商品が金貨を超える法外な値段で売られたりするそうだ。


 その事情を最近知った僕達だが、ラウド商会の理念として、ラウド商会の商品は決して転売・・は許さないとしている。例えば銀貨十枚の商品を購入して、それを同じ額もしくはそれよりも安い額で売るのは問題ない。


 しかし、それよりもく売るのは厳しく禁止しているのだ。


 それにより、両王国の転売が確認出来た商会は全て入店禁止とし、王国を通して損害賠償を求めた。


 だが、それに簡単に応じる商会があるはずもなく…………そこで立ち上がったのが――――。




「はい! この契約書にサインして!」


 サリーが一枚の羊皮紙をホルン王様に突きつけた。


「ラウド商会の転売に関わった全ての商会の弾圧・・を認める…………かしこまりました。これも全て『クラウド神教』のためでしょう」


「ええ。『クラウド神教』の理念は、悪者から貪り食われる弱者を守ること。悪者をそのまま野放しには出来ないわ。私はクラウド神様に代わり、彼らに鉄槌をくださないといけないの!」


「ははっ。これも全てクラウド神様の御心のままに」


 王様が羊皮紙にサインをして、正式的に受領される事となった。


 …………二人とも? 本人の前で御心とか言わないで欲しいよ……?




 ◇




「バリオ商会は聞きなさい! 王様の許可により、ラウド商会の商品を転売した罰則を払いなさい!」


 サリーがとある店の前にコメの声が響く魔法を使って声を轟かせる。


 中から支配人と思われる人がアタフタ出て来た。


「ふ、ふざけるな! そんな法外な値段、払えるわけないだろう! 金貨500枚って無理だ!」


「それが払えないなら、あなた達は全員『罪人』として捕まるけど、それでもいいの?」


「何故我々が罪人にならないといけないのだ!」


「元々ラウド商会は『転売』を厳しく禁止していたわ。あなた達がラウド商会の商品を150倍で売りさばいた事実は確認済みよ!」


「く、クソ! だがここはホルン王国! お前らの管轄じゃないぞ! 今すぐ衛兵を呼…………え?」


 彼が見つめる視線の先には、サリーと多くの衛兵が並んでいた。


「我々ホルン王国兵はこれから詐欺師バリオ商会頭を捕まえるぞ!」


「はあ!? ふ、ふざけるな! たかが商品を転売しただけで何でそんな思い罪になるのだ!」


「ラウド商会は『クラウド神教』の想いが込められているわ! その商品は大勢の人は汗を流して作り出来る限り安価で民達に回しているのに、あんな達はそれを逆手に取り、転売という手法で弱者から莫大な富を奪い取った世界の罪人よ! 今すぐに出頭しなさい!」


「ち、ちくしょ!」


 バリオ商会頭はそのまま商会に引きこもる。


「まあ、それでも構わないわ。みんな!」


「はっ!」


 いつの間にかサリーの隣に20人の変なローブに身を包んだ人達が並ぶ。


 すぐに周囲から「おお~!」という歓声があがった。


「我々『クラウド神教』は、弱い者の味方! 全てクラウド神様の教えのままに悪人を許してはいけないわ! 神徒達よ! 悪人に裁きを!」


「「「「悪人に裁きを! 世界にクラウド神様の光を!」」」」


 20人の神徒達が手を前に突き出す。


 彼らの手に魔法が灯る。


 まさか…………あ~やっぱりそうなりますよね…………。


 彼らから放たれた魔法がバリオ商会を粉砕し始めた。


「や、やめてくれえええええ!」


 バリオ商会頭の叫ぶ声が街に木霊した。




 粉砕した商会から罪人と思われる数人をホルン王国兵が逮捕していく中、残った店員達がサリーの前に跪いた。


 それにしても彼らが使った魔法。中々考えた込まれた魔法だと思う。


 本来なら魔法って人を傷つけるものだけど、あの魔法は決して人を傷つけない魔法だ。建物があれだけ粉砕されても店員さん達や罪人達はかすり傷すらない。


「貴方達!」


「「「「は、はいっ!」」」」


「貴方達は罪人達が転売を行っているのを知りながら、知らないふりをしましたね?」


「「「「はい……」」」」


「ですが、神徒ではない人に『クラウド神教』の教えを適用するのも、押し付けるのもやってはいけません。ですから、貴方達に罰を与える事は決してありません。ですが、貴方達も『正義の心』を持って生きて欲しいと願います。此度の事により、失職したのは我々『クラウド神教』のせいでもあります。こちらに失職に対する対価を与えましょう。これはラウド商会でのみ使えるお金となっております。さあ受け取りなさい」


 いつの間にか準備していたラウド商会の商品券を彼らに渡す。


 意外としっかりと準備していたんだな……。


「さあ、我々は次の――――」


「お待ちください! 我々は『クラウド神教』には入れないのでしょうか!?」


「入信でございますか。ですが、貴方達にはいばらの道となりましょう」


「構いません! これから正義の元で生きていきます!」


「よろしいでしょう。この街に我がクラウド神様を祀っている教会があります。ぜひ入信を受けてください」


「あ、ありがとうございます!」


「おお~ここにまたクラウド神様の御心を覗けた羊がいます。どうか彼らが正しい道に導かれますように」


「「「「導かれますように」」」」


「クラウド神様!」


「「「「クラウド神様!」」」」


「「「「クラウド神様!」」」」


「忠誠を誓います!」


「「「「忠誠を誓います!」」」」


「「「「忠誠を誓います!」」」」


 サリーの言葉に呼応するかのように神徒達から住民達まで声をあげた。




 …………僕は目の前で神徒が増えていく様を目の当たりにしてしまった。


 はぁ…………。

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