第194話 一つに繋がりゆく世界

 夏が終わり、秋がやってきた。


 秋になって真っ先に行うのは、東ベルン領スロリ街から『シャングリラ』で行ける『東ベルン領大森林公園』のオープンだ。


 こちらは入場料は無料だが、『シャングリラ』の搭乗にはお金を払わないといけない。値段は大体馬車の2倍くらいだ。


 こういった乗り物をベルン領の公共交通機関と呼ぶ事にして、公共の物はある程度税金収入で賄っているので、安価で提供する事にして、『東ベルン領大森林公園』も公開自体は無料だ。


 それと母さんから気になったのは、大森林公園入口から中央まで少し遠いので、子供達が歩くと大変かも知れないとの事で、入口から左右から2本長い滑り台を伸ばして、滑り台に乗れば歩かなくてもそのまま森を進み、中央部分に着くように設置した。


 後日談ではあるが、これが意外にも子供達に大好評で、この長い滑り台に乗りたいから大森林公園に行きたがる子供も多数増えたとか。


 その他にもラウド商会は順調で、他の事業も順風満帆で何一つ心配事がなく時が過ぎて行く。


 そして、スロリ街では未だかつてないとある会場の準備が進められていた。


 出来れば慎ましく済ませたかったのに、領民達の大反対で僕の結婚式を盛大に行う事が決まった。


 北ベルン領と同じく、まさか全領民からお願いの署名まで集めて嘆願されたら、仕方ないよね……。


 ベルン領ないの全ての街が結婚式の催し物の準備に忙しい中。


 とある二組の一団が王都にやって来た。




「クラウド~お客様だよ~」


 ティナが緩く僕を呼びに来る。


「ん? 珍しいね? 学園にわざわざ来るなんて」


「そうね~緊急事態だからだと思う~」


「……ティナ? とても緊急事態とは思えない感じがするけど、一体誰が来たの?」


「んとね~王様


 僕は一目散に学園の外に向かった。




 ◇




「は、初めまして。クラウドと言います」


「おお! クラウド。初めまして。儂は隣国ホルン王国の国王でございます」


「初めまして。儂はシレル王国の国王でございます。以前は我が国を助けてくださりありがとうございます」


 まさか二人の王様が僕に会いに来るとは思いもしなかった。


 お二人はそれぞれ僕の右手と左手を握り、嬉しそうに笑顔を見せる。


 う、うん…………オーラを見ると心の底から喜んでくれるのが良く分かる…………。


「あ、あの……ここだとあれですから、僕の家に来ていただけませんか?」


「「もちろんですとも!」」


 あはは……。


 ティナにお願いして学園には事情を説明させて、一緒にいたエルドくんにお願いして王城に報告に向かわせて、僕はお二人を連れて屋敷に向かった。




「お帰り~」


「あれ? 母さん?」


「ティナちゃんから聞いたから急いで紅茶の準備をしたわよ」


「ありがとう!」


「おお!! 聖女のエマ様ではありませぬか!?」


「あら? 初めまして、クラウドの母、エマでございます」


「おおお! エマ様。儂はエマ様の大ファンですじゃ。ぜひ握手をお願いしてもよろしいでしょうか」


「もちろんです~」


 母さんと握手を交わすホルン王様。


 そもそも『大ファン』という言葉はラウド商会が広めた言葉で、ティナ達が衣装を宣伝してくれる時、ティナ達を好いている人々を『大ファン』というと世界中に広めていた。


 そんな言葉はいつの間にかすっかり馴染んでしまって、王様まで使うようになったんだね。


 お二人を客間に通して、紅茶をゆっくり飲み始める。


「えっと、お二人はどうして僕に?」


「うむ。代表して儂が話しましょう」


 ホルン王様の方が代表して話してくれるみたい。


「実は我々がここに来たのは、ラウド商会及び『アルカディア』の運行をお願いしたくて来たのですじゃ」


「ええええ!? えっと…………こういうと失礼かも知れないけど、僕って一応お二人の敵国の貴族ですよ?」


「ガーハハハッ! その事は百も承知ですじゃ。以前なら儂らもここまでクラウド様を崇めたりはしなかったのですじゃ」


 え!? あ、崇める!?


「既に世界の女神教は数を減らしております。それも全てはクラウド神教のおかげでございます。今の教皇になってからまだ少しはマシになったのですが、元々教会の寄付脅迫などがありました。それにずっと悲しい想いをしてきたのも事実。ですがクラウド神教は違います。何も求めず、ただただクラウド様を崇めるだけで救われる。ここに我々の忠誠を示しましょう」


 二人の左手の甲を前に出す。


 そして。


 手の甲に眩い魔法陣が光り輝く。


「さ、サリぃいいいいいいい」


 思わず、その犯人・・と思われる妹の名前を叫んでしまった。




 ◇




 その日。


 世界初となる全国平和条約が提携された。


 元々各国は仲が悪い事で有名だったのだが、ホルン王国とシレル王国が無条件平和条約を携えてディアリエズ王国を訪れたと多くの人々を驚かせた。


 ただ、その裏に『クラウド神教』となる存在がある事を、既に多くの国民達が理解していた。


 そして、その事実は女神教に取って、とてつもなく大きな事件となり、色んな波紋を呼ぶ事となる。



 だが、『女神教』の総本山であるディアリエズ王国の女神教会の広場にて、大きく聳え立つ『女神様像』の前に一人の天使・・が降り立った。


 その姿はまさに女神様そのものであった。


 大勢の信者達は涙を流し喜んだのだが、次に放たれた言葉により『女神教』と『クラウド神教』の深い溝が一瞬で埋まる事となった。




「私の名前はティナ・バルバロッサ。女神様より『聖女』を授かった者です。最近世界に急速に広まっている『クラウド神教』ですが、神教の教皇であるクラウド様はわたくしの許嫁であり、年が明ければ私の夫となります。つまり、『クラウド神教』は『女神様』にとって息子・・と言っても過言ではありません。信者達よ。『クラウド神教』と事を構える事はおやめください。わたくしが愛するかのお方を我が女神様の信者達が嫌うのは決して見たくありません。どうか、お互いに手を取り、我々の母である女神様のために、平和に手を添えてください」




 『女神教』と『クラウド神教』は母子・・教関係と変わり、全国の『女神教』にもラウド商会の援助が始まり、教会で提供されるモノも全て無料・・へと変わった。

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