第191話 日頃の苦労
僕達は新しく出来た『シャングリラ』に乗り込んで、スロリ街の近く『東ベルン領立大森林公園』を目指した。
『東ベルン領立大森林公園』というのは、元ヘルギアノス森と呼ばれていた森。サテライトが眠っていた森だ。
その地の魔物は全てスラが全部飲み込んで、新しく魔法で広大な森を作り上げたのだが、それ以来この地には魔物が住み着いていない。
さらにここに昔のように魔物で荒れないように、僕の従魔で森が好きな魔物の安息の地として利用することになったのだが、母さんが視察に来た時、どうしてもここを『散歩コース』として使えるようにして欲しいと嘆願があった。
それならと森の中を歩いて散歩できるようにしつつ、従魔達や色んな植物を植えて景色を良くして、ベルン領民達に公開する事にした。
各地にトイレの設置や入口の『大森林公園駅』や森の中心部には休憩スペースを設けて、いつでも休憩や食事を取れるようにした。
さらに中央部分には広いスペースを設けて、子供達が走り回って遊べるようにもしてある。
そこから森の最奥まで進むと、まだ完成していないけど、いずれ『キャンプ地』が開放予定だ。
『ペンション』ではそれなりにお金がかかるが、『キャンプ』なら自分達で行う分安上がりにもなるし、家族や友人、恋人と共同作業も良いレクリエーションになると思う。キャンプ用テントは現在洋裁組は大至急増産中だ。
『シャングリラ』から見える外の景色は空の上とは違い、景色がより身近に感じられる。
移動には役20分ほどかかるが、思っていたよりもあっという間に大森林公園駅に着いてしまった。
一番うきうきして真っ先にシャングリラを降りた母さんはティナとアーシャと手を繋いで公園に向かった。
「お母さん嬉しそう~!」
「そうだね。ずっと気にしてたから。最近母さんが色々頑張ってくれたから、喜んでくれると僕も嬉しいかな」
「うん! 私は『シャングリラ』が嬉しいんだけどね!」
「あはは、サリーが参加してくれている魔道具組のおかげが大きいからね。ありがとう。サリー」
「えへへ~」
サリーと一緒にシャングリラを降りようとしたら、目の前に物凄く疲れた顔の――――
「父さん!? 大丈夫!?」
「…………」
父さんから返事はなく、ただフラフラしながらシャングリラを降りていく。
「父さん!?」
「ん? あ…………クラウドか…………」
「そ、そうだよ? 随分と疲れてそうだね? 大丈夫?」
「…………」
父さんの瞳が悲しい色に変わっていく。母さんと喧嘩でもしたのかな?
でもここまで来る間は仲良かった気がするんだけど……?
「クラウド……」
「うん?」
「お願いがある」
「えっ? い、いいよ?」
「…………もうこれ以上の事業は拡げないでくれないかな……」
「えっ!? どうして?」
「…………」
「クラウド様」
父さんの付き添いをしてくれている執事のゼイルだが、何だか久しぶりだね?
「ゼイル。どうしたの?」
「ビリー様は毎日大量の書類の山を受けております」
「そ、そうなの!?」
「本来ならクラウド様に許可を貰うべきですが、まだ学園の生徒たるクラウド様に代わり、ビリー様がベルン領内の事業許可などをまとめているのは知っておりますね?」
「う、うん」
何でもそうだけど、何かをやるのには上の人の決定が必要なのだ。
単純にこれがやりたい! でもそれには上層部が判断して初めてプロジェクトを進められる。
本来なら僕がやるべきお仕事なんだけど、まだ学生だからと父さんが請け負ってくれているはずだ。
「日々新しいモノが誕生しているベルン領です。しかも領民や従業員達が非常に連携力が強いため、どんなモノでも凄まじい速度で進みます」
「そ、そう……だね」
「その量が既に一人では抱えきれないほど増えております。ビリー様は休日すら返上しても全く減らない書類と戦っております」
「うっ……父さん…………」
「うぅ…………」
今にも倒れそうな父さんが何とも不憫すぎる……。
今度は父さんの仕事も手伝うようにしよう。
「父さん。ごめん。気づかなくて。それに関して何とか出来るように頑張るよ」
「ほ、本当!?」
「うん。だから今日はゆっくりして!」
「あ、ああ! ゆっくりするとも! おおお~! 何だか身体の奥から元気が溢れて来た~! 大森林公園ってなんて素晴らしいんだ~!」
父さんが元気になって駅から中に入っていく。
「ゼイル。いつもありがとうね。父さんをよろしく」
「はっ。お任せください」
学園のおかげで執事達が暇になったけど、アレンの執事コウルとサリーの執事レインも何だかんだ色んな仕事を手伝ってくれて僕達がいなくても屋敷が順調に回っていたし、母さんがわりと自由になって動けているのだ。
「さて、僕達も行こうか」
「うん! でもお兄ちゃん? どうやってお父さんの仕事を楽にしてあげるの?」
「ん~何となくだけど、
「あれ?」
「まあ、サリーも楽しみにしておいてー」
「うん! 分かった!」
楽しみが増えたのが嬉しいのか、サリーが小走りで先に行って「お兄ちゃん~! 早く~!」と手を振って来た。
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