第190話 東ベルン領の新たな事業

 夏が終わりを見せた頃。


「クラウド様! お待ちしておりました!」


 スロリ街に集まっている鍛冶組が全員嬉しそうに僕を出迎えてくれた。


 今日はゲルマンさんからとあるモノが完成したと連絡届いて、早速確認に駆けつけた。


 そんな僕達の前には――――


「こちら『アルカディア号』でございます!」


 ゲルマンさん達が嬉しそうに紹介してくれるのは、以前作った『アルカディア1号』とは打って変わり、とても小さな・・・船が見えていた。


「今作れる全ての機能をふんだんに盛り込んだ0号は、小型だからこそ実現出来た『超高速移動』が使えるようになりました! ただ『超高速移動』は船体に負担がかかるため、甲板を撤廃し乗り物専用として安定を図らいました! この0号なら1号の10倍は早く飛べます!」


「10倍!?」


 ゲルマンさんが胸を張って説明してくれる中の10倍という数字に驚いてしまった。


 『アルカディア1号』での性能は東ベルン領スロリ街を基準に、バルバロッサ辺境伯領都エグザまで15分、ガロデアンテ辺境伯領都ギシリアンまで120分、王都まで180分、北ベルン領貿易街エンドレスまで300分、北ベルン領都ヘルザイアまで420分(エンドレス経由の場合480分)である。


 その時間から単純計算で10倍ということは、エグザまでは2分だし、アーシャの故郷まで10分ちょい、王都なんて20分くらいで行けちゃう。北ベルン領なんて40分くらいで行けちゃうのがまた凄すぎる気がする。


 もちろんこれで一番喜んだのは、他ならぬサリーであった。


 行きたい場所があっても、基本的に僕が『従属召喚』を使って送り届けているんだけど、この船があれば僕がいなくても好きなように大陸全土を自由に行き来出来るからね。


 0号は定員20人までらしくて、体重軽減魔法となるものが施されているらしい。それで人数で制限が掛けられるって凄いね。




「クラウド様! ぜひこちらもお願いします!」


 ゲルマンさんがまた嬉しそうに0号の隣にとあるモノの前に案内してくれる。


「おお! 遂にこれも完成していたんですね!」


「はい! クラウド様から提案された時は本当に驚きました。我々鍛冶組がこのような大作に関われた事、誇りに思います!」


 ゲルマンさんだけでなく、鍛冶組全員が嬉しそうだ。


 もちろん、この事業に鍛冶組だけが関わっているわけじゃない。


 物資を集めてくれたラウド商会や運んでくれるヘイリくんが率いる物流組、設計を担当してくれた建設組のメアリーさんなど、裏方の仕事も大いに活躍してくれたおかげだ。みんなにボーナスを支給しなくちゃね。


「では――――――公開させていただきます!」


 ゲルマンさんの声が響いた工場内に大きく布で隠れていたモノがその堂々たる姿を見せた。それは――――




「お兄ちゃん~! 凄い~! 何これ~!」




 サリーが真っ先に声をあげるが、他のみんなも、かくいう僕も歓声をあげるほどのその雄々しい姿に感服する。




「こちらは空を飛ぶ『アルカディア』とは打って変わり、クラウド様の提案により地面を浮遊して走る『シャングリラリニアモータ風浮遊列車』でございます! 速度は『アルカディア』には遠く及びませんが、大勢の人々を距離の場所に運ぶ為の列車と呼ばれる乗り物となっております! ただ、通常の走りでも非常に早い為、そのまま走るのは危険なのですが、そこをサテライトで手に入れた『空中真空滑走路』という技術を用いまして、水色の大きな配管のようなモノで駅と呼ばれている場所同士を繋いでおります! まだ始まったばかりですのでスロリ街からエマ様提案の『東ベルン領立大森林公園』まで直通となっておりますが、これから東ベルン領を繋ぐ予定でございます!」




 こちらは、『アルカディア』で大勢の人々を移動出来るようにはなったが、どうしても長距離移動で未だ近隣には馬車でしか移動が出来ないため、何かないかなと悩んでいた時、前世での列車を思い出した。


 通常の列車にはレールを引かなければいけないし、そのための安全策も考えなくちゃいけないんだけど、そこを解決してくれたのが、ミナトさん考案の『空中真空滑走路』という技術で、水色の大きな配管のようなモノで中と外を完全に区切った上に、『真空』状態にすることにより『サテライト』が宇宙まで飛び立つまで何かに接触しないような作りになっている。さらに、空間の中心部に風を流す事により、何もしなければ中で中央に浮く事が出来た。


 これにより列車はレールが必要なく、そのまま真っすぐ浮遊したまま、滑走路風な配管を通って進む事が出来る。


 速度も『アルカディア』で風圧などを耐えられるように作ったので、景色を楽しめる範囲の速度にしてスロリ街から東ベルン領立大森林公園まで遊びに行く事が出来るようになったのだ。


「クーくん! 『東ベルン領立大森林公園』が完成したのね!?」


「母さん。驚かせようと言ってなかったけど、完成したよ」


「嬉しいわ! ありがとう! クーくん!」


 列車にはしゃぐサリーと、新しく整備した大森林公園に母さんが喜び、二人が僕に抱き付いた。

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