第187話 捧げる忠誠よりも先にあるモノ

 ヘルザイアで挨拶周りを終えて、これから旅客船『アルカディア』でスロリ街にも定期船が飛ぶと伝えると、住民達から歓喜の声が上がった。


 生活もだいぶ元通りにはなったようで、住民達の表情もとても良いし、子供達も楽しそうに笑みを浮かべている。


 念のためにと各町の戦孤児だったり、ひとり親の子供達がいないか調べさせようとしたんだけど、それは既にサリーと母さんが行っているようで、今の北ベルン領に貧困で苦しんでいる子供はいないそうだ。


 ただ、中には親の事情で貧困になる子供も多いそうだが、何故かほぼ全員が貧困から脱却する事が出来て、今では全ての住民達が生きる事にやりがいを感じ、人生を謳歌しているとの事だ。


 それに一番と言っていいくらい活躍したのは、意外にもリバーシのおかげらしく、大会があるからというより、今ではベルン領では誰でも楽しめる娯楽として楽しまれている。


 お金を賭けて戦う『賭けリバーシ』は商品の権利を持っているラウド商会が禁止しているが、実は一つだけ裏技というか、逃げ道を作っている。


 それは直接な金銀ではなく、酒場限定で飲み物や食べ物を賭けたリバーシなら許しているのだ。


 これは各酒場の復興のためでもあるし、飲み物を賭けた戦いならそれほど大きな額も動かなければ、ほどほど健全な賭けリバーシになると思ったからだ。


 ただ隠れて賭けリバーシを行った場合、王国とベルン領内では重罪に当たるので、王国内の場合は重罪として問答無用で強制労働送りで、ベルン領はベルン領から追放となる。今のところ、一件も見つかってないのが嬉しい。






 ヘルザイアの元気な姿を見れたので、今度は元エンド王国の王都だった北ベルン領貿易街エンドレスにやって来た。


 東ベルン領であるスロリ街から真っ先に北ベルン領に物資が届く町がこちらの貿易街エンドレスだ。


 意外にもこの街には『和風』な雰囲気を感じる建物や調度品が目に入る。


 一番古くから伝わっているのは、約千年前にこの街の名前が『エド』だったこと。


 それがいつの間にか『エンド』となり、最終的に王国の名前になったから王都の名前は『エンドレス』と変化したそうだ。


 早速やってきたエンドレス街に降り立つと――――――


「えええええ!? み、みなさん! 顔をあげてください!」


 目の前に住民達が俺に向かって土下座していた。


「「「「クラウド様! お帰りなさいませ!」」」」


 恐らく街の全住民が集まっていると思われる人数が一斉に「お帰りなさい」と大気を震わせた。


 これだけの人数が一斉に声をあげると凄い音圧になるんだな……。


「みなさん~! ただいまです! えっと、そろそろ起きてくださいませんか?」


 すると一番前にいた男性が3名起き上がり、沢山重なった紙を持って前に出て来た。


「お久しぶりです。クラウド様」


「お久しぶりです。ハンゾウさん。一体これは……?」


「ははっ。驚かせてしまい、大変申し訳ございません。ですが、もう今日しかチャンスがございません」


「え、えっと、チャンスってどうしたんですか?」


「こちらの書類を受け取ってくださいませ」


 凄い量の書類が僕の前に並べられた。


「それはこの街だけでなく、北領都ヘルザイアも含み、北ベルン領の全ての領民からの署名・・でございます」


「署名!?」


「クラウド様」


「は、はい!」


「どうか我々愚かな下民共にチャンスを与えてくださいませ」


 愚かな下民!?


「北ベルン領の発展はとてつもなく目覚ましく、戦争が起きる前よりも遥かに快適で有意義で素晴らしいモノになっております」


「そ、それは良かったです」


「ですが!」


「ですか!?」


「このまま発展を続けますと、最初にクラウド様と交わした約束・・を守らねばなりません!」


 約束……? どんな約束だったかな…………う~ん。発展すると~?


「このままでは北ベルン領はいずれ独立せねばなりません!」


「そ、それはそうですね。皆さんの復興のために一時的に北ベルン領になって貰っていますからね」


「それが問題なのです!」


「ええええ!?」


「どうか、我々に永久にベルン領民になれるチャンスを与えてくださいませ! そちらの署名は現北ベルン領民全ての民がクラウド様にベルン領民となるチャンスをくださいと願いを込めて集めた署名でございます! まだ意思が持てない子供以外のすべての民はベルン領民になりたいのでございます!」


「ええええ!? 皆さん!? 独立しなくていいんですか!?」


「「「「したくありません!」」」」


「ええええ!?」


 まさか北ベルン領民の方々がそんな事を思っているなんて……。


「お兄ちゃん~」


「サリー?」


「ハンゾウくん達もお兄ちゃんの為なら命を捧げてもいいと思うくらいなの」


「え!?」


「それはハンゾウくんだけじゃなくて北ベルン領民全員がそうなの」


「へ!?」


「彼らをこのまま見捨てると可哀想だとサリーは思うな~」


「ええええ!?」


「「「「クラウド様! ――――――

















 命を捧げます!」」」」


 命は捧げないでよおおおおおお!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る