第183話 母エマの奮闘③

 その日の夜。


 早速家族会議が開かれた。


「今日の議題はお客様をどうやって連れて来たらいいかだよ!」


「はいっ!」


 真っ先に手を上げるサリーちゃん。


「全員スラを使って空を飛ばせるっ!」


「出来なくはなさそうだけど、空が大変な事になりそうだし、出来れば定期的に出来る方法がいいよね」


「う~ん」


「はい!」


 今度はティナが手を上げる。


「向こうにも作ってあげたら?」


「それも考えたんだけど、スロリ街の5棟分で2年掛かってるからね。他の事業がなければ、もっと早いんだろうけど……それに働く人も確保するのは、意外と大変そうな……?」


「う~ん。ラウド商会で募集したら一瞬で埋まると思うよ?」


「そ、それもそっか……」


 ラウド商会の働き口はものすごく人気があって、以前各町で某集した時、応法があまりにも殺到するので一度某集を破棄した事があったっけ。


「クーくん。ちょっといいかしら?」


「母さん? どうぞ?」


「えっと、それなら私から一つ提案があるのだけれど~」


「提案?」


 母さんが一枚の紙を前に広げる。


「お父さんとも相談して作ってみたの。お父さん、こういうの得意だから~」


 父さんが少し苦笑いを浮かべる。大方母さんに言われて仕方なく考えてみた感じだろうね。


 紙の内容としては、ひと月が全部で90日あり、今の王国の現状としては、5日ごとに区切り、4日働いて1日休むを繰り返している。


 この紙に書いてあるのは、なんと、6日ごとに区切り、4日働いて2日休むを繰り返す提案だった。


 今まではひと月で18週分があったね。週の分け方はしてないけど。


 それが休みを1日増やす事で、15週分になるので、計算もしやすいとの事だ。


「でも王国がそう簡単に受け入れてくれるかな?」


「受け入れてくれるわよ」


「そうなの?」


「ええ! クーくんの承諾さえ得れば、私が説得にいくわ」


「母さんが!?」


「あら? これでも最近はとても上手に説得・・出来るようになったわよ?」


 以前は貴族というだけで避けていたのに、いつの間に母さんがこんなに逞しくなったのだろうか。


「ベルン領がこんなに大きくなったのも、クーくんが頑張ってくれたからね。父さんは事務の仕事でクーくんを支えているのに、私は何も出来ないんじゃいけないと思って、色々頑張ってみたのよ!」


 いや……母さんはずっと料理で支えてくれたのにな。


「クーくんが学園に行っている間、色々考えたの! かい――――――こほん。色んな方のアドバイスを聞いて私も色々挑戦してみたのよ!」


 今、一瞬だけかいって言い掛けたけど、なんの事だろうか。


 それはともかく、僕が学園に行っている間、母さんは母さんなりにずっと頑張ってくれたんだな。


「分かった。母さんがやりたいなら僕は応援するよ」


「本当!? ありがとう! クーくん!」


 満面の笑顔になる母さん。


「あ! それともう一つあるわ」


「もう一つ?」


「これはこの件にも結び付くんだけど、スロリ街にお客様をどう連れてくるか色々悩んでみたんだけど、父さんが良い事を教えてくれて思い付いちゃった!」


「ん~――――――――船?」


「うん! 船を作ろうと思うの!」


「でもこんな大きな船を作ったら、川を進ませるのは大変だと思うけど……?」


 この世界で船といえば、川の渡る船くらいだ。


 目の前の設計図に掛かれている船は、旅客船くらいの大きなモノになっている。


 そもそも海が遠ければ、海を使った交易も全然進んでないというか、海沿いに大きな街が存在しないのも相まって、こんな大きな船を見るのは、前世ぶりかも知れない。


「うん! だって、これは――――――」


「えええええ!?」


 母さんからまさかの計画が告げられる。


 僕はともかく、家族全員満場一致で決まったし、僕も断る理由がないので、その企画と進めるようにした。




 ◇




 数日後の王城。


「へ、陛下! 大変です!」


「外が騒がしいな? どうした」


「は、はい! ネメア様が王城の広場に降り立たれました!」


「それはまずいな。急ごう」


 ディアリエズ王は執務室を後にして、急いで王城広場に向かった。




「お待たせしました」


「お久しぶりです~王様」


「久しぶりでございます。エマ


 火竜ネメアから降りたエマに頭を下げるディアリエズ王。


 本来ディアリエズ王国の守護神として有名なネメアは、加護を与えた人間が王になるという伝説が伝わっている。


 ディアリエズ王国が始まった時、ネメアによる加護を受けた初代王によって、大陸の南を統一出来たと言われている所以だ。


 ただ、それは嘘でも物語りでもなく真実であり、ディアリエズ王家にはその真実が残されていた。


 そんな事があり、現在、ネメアのであるエマは、ディアリエズ王国内で、ディアリエズ王よりも高い身分になっている。


 さらには今のディアリエズ王が王の座を譲ると言ったときに、エマがそれを断固拒否。そんな事をしたら王都を火の海にすると冗談で言ったのだが、当のディアリエズ王はそれを真に受けて、エマ様には決して逆らうなと裏勅命を下している。


「えっと~うちのクーくんの承諾は得ています。5日のうち1日休日を取っていた法を変えたいんです! 4日働いて2日休んでを繰り返したいのですが、王様的にはどう思いますか?」


「ふ、二日!?」


「はい~スロリ街に新しくオープンした『温泉プール』にお客様が全然来てくれなくて……休みが二日あれば泊りで遊びに来れると思いまして~それと各街からスロリ街に行けるも準備しますから~」


「こ、こほん。それはとても素晴らしい提案でございます。『温泉プール』に行きたいと長期休暇を出して来た貴族があまりに多くて悩んでいたのです」


「あ! そうだったんですね~これはとても良いタイミングで来れたみたいで良かった~」


「エマ様。その休日の案は私から通しておきましょう」


「本当ですか! ありがとうございます! 王様!」


「ははっ。こちらこそ、ありがたき幸せ…………それでですね。エマ様」


「はい?」


「大変恐縮ではございますが…………その船とやらが完成したら初日の搭乗券を8枚程売っては頂けませんか?」


「あら? いいですよ~特等席を8つ準備しておきますね~」


「あ、ありがたき幸せ! ありがとうございます!」


 ディアリエズ王は頭が取れるんじゃないかと思われるくらい、エマに頭を下げるのであった。

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