SS.妹と兄の妹
※三人称視点です。長文です。
※読まなくてもストーリーには全く問題ありません。が、力作ですので、ぜひ読んで彼女を応援して頂けたらなと思います。
その日、サリーは目の前にあるリバーシの盤面を真剣に見つめる。
思うのは、リバーシと初めて出会った日の事。
兄から教わった内容を思い出しながら、もう一度あの一戦を繰り返す。
「はぁ…………」
サリーは大きな溜息を吐いて、座っているソファーに寄りかかり、後ろに大きくのけ反る。
「何度やってもお兄ちゃんに勝てないな…………」
少し落ち込んでいたサリーだったが、外から慣れた足音が聞こえる。
「え!? この時間に?」
サリーは体勢を戻して知らないふりをする。
少しして、ノックの音が聞こえて、扉が開く。
「サリー、ここにいるかな?」
「ん? お兄ちゃん? どうしたの?」
全く知らなかったと言わんばかりの表情で兄を迎えるサリー。
「大した事はないんだけど、時間が余ったから、この前相談があるって言っていたじゃん?」
兄の言葉にサリーは笑みが零れてしまう。
それ程真剣に相談した訳では無い。
ただ夕食を食べながら流れ話しになって、お願いがあるから相談があると話した
それを当たり前のように覚えてくれた兄が愛おしい。
「うん!」
兄が対面のソファーに座る。
「ん? リバーシの練習中だったの?」
「うん! リバーシでやりたい事があって」
「そうなの?」
「えっと、お兄ちゃん? リバーシの…………」
一瞬口が籠る。
兄ならきっと聞いてくれるだろうけど、もし断られたらどういう顔をしたらいいか分からず、言葉が詰まってしまった。
「リバーシの?」
「え、えっと…………」
「う~ん? えっと、大会とか開きたいの?」
時々言葉に詰まると兄はいつも自分の悩みをすぐに当ててくる。
「う、うん…………」
恥ずかしさと、申し訳なさの想いが込み上がって来る。
「ふふっ。いいんじゃない? サリーがやりたいようにやってみようよ! 僕が手伝える事なら何でも言って!」
「ほ、本当に!? いいの?」
「うん! せっかくやるなら最近王様から頂いた王都の催し物開催の権利を使って、広場で開いてみよう!」
「お兄ちゃん! それすっごくいい! それがいい!」
「じゃあ、早速ラウド商会のキリヤさんに相談しに行こう~!」
「うん!」
いつの間にか大きくなった兄の背中を追っていく。
「スラ~」
兄の前方にスライムが一匹現れる。
従魔のスライムで最近魔王クラスに進化したスライムで、最近では母もよく
現れたスライムは兄に何かを言われると、嬉しそうにぴょんぴょんと飛ぶ。
すぐに飛行魔法で飛んで行くのだろう。
――――と思っていたら、自分の足元にやってくる。
きっと踏んで欲しいのだ。
この従魔も兄に
思いっきり踏んであげると喜んでくれて、飛行魔法で飛び上がる。
そのまま超高速で元エンド王国のベルン領に向かって飛び上がった。
数分後。
「いらっしゃいませ、クラウド様、サリー様」
「お疲れ様です。キリヤさん。今日は相談があってきました」
「何でも仰ってください!」
キリヤの目が光り輝く。彼も兄に忠誠を誓っている一人だ。
「妹がリバーシの大会を開きたいんですが、この前手に入れた権利を使って王都の広場で開きたいなと思いまして」
「それはいいですね! サリー様! ぜひやりましょう!」
「うん! やりたい! キリヤくん。よろしくね!」
「はい! お任せください! 早速日程とか準備します。ただあまりに早いと、まだ広まったばかりのリバーシですから、少し待ってからの方が良いでしょう」
「あ、キリヤさん。それなら、大会があるって告知してしまいましょう。それなら多くの人が参加してくれそうですから」
「かしこまりました。恐らく人数が多そうなので、近々各町で予選を行いましょう。とんでもない大会になると思います」
「そんなにですか?」
「ふふふっ。クラウド様? これはサリー様が好きな遊びなのですよ? 世界が熱中しない訳がないじゃないですか」
「え? 私?」
「サリー様は何でも見通すお方です。リバーシが世界的な遊びになるのは間違いありません。この大会はその布石となるでしょう。期待しててください!」
そこから大会までの予定が次々決まり、各町で予選が開催される。
サリーの予想では、参加者はあまり多くないと予想していた。が、その予想は大きく外れて、世界中がこの大会に熱狂する。
たった20日なのだったが、リバーシ熱が世界を包む。
そして、始まった各町の予選は、参加者が数百人から、数千人参加する町まであった。
そこから決められた地域からブロック分けとなり、最終的に640人纏められ、王都で決勝予選に参加資格が与えられた。
それから10日。
王都に大勢の人が駆けつけて、初めてのリバーシ大会を楽しみにした。
◇
「サリー様。賞品をどうしましょう?」
ソファーにウトウトしていたサリーに優しい声で相談をするのは、ラウド商会の王都支店長のイザベラだ。
「あれ? 私、眠ってた?」
「ふふっ。初めての大会で気が張っていたのかも知れませんね」
「そうね……お兄ちゃんが用意してくれたから、ちょっと気を使い過ぎてるのかも」
「サリー様はお兄様が大好きなのですね」
「うん! イザベラ、賞品って何だっけ?」
「大会の上位8名様にスロリ街の居住権利なのですが、準優勝者と優勝者にはどういう賞品にしますか?」
「う~ん。じゃあ、その二人には豪邸でもあげたらいいんじゃない?」
「うふふ。かしこまりました」
「でも、これだけの内容だと面白くないわね」
「ですね~出来れば、色んな方にサリー様とクラウド様のリバーシも見て貰いたいですけどね~」
「え? 私とお兄ちゃん?」
イザベラの言葉を聞いて、サリーが何かを閃いたように考え込む。
「イザベラ! それ凄くいいわ!」
「あら?」
「優勝者は私とエキシビションをする!」
「うふふ。それはとても良いですね~賞品は何にしますか?」
「う~ん――――――――――私の彼氏」
「サリー様!?」
「私がストレートに優勝者に勝ったら、お兄ちゃんと対戦にしよう!」
「え!?」
「それをやれば…………うふふ! よし! それでいこう!」
イザベラの予想に反して、サリーはとてもやる気になった。
◇
アーサー選手が優勝を決め、サリーとの対戦が決まった。
ソフィアの紹介で広場に集まった大勢の客から歓声があがる。
そこから始まったエキシビションは――――――サリーの圧倒的な勝利だった。
「私が圧勝したので、これからお兄ちゃんと対戦します!」
「「「「わああああああ!」」」」
驚く兄を指さして「お兄ちゃん! 私と対戦よ!」と声をあげるサリー。
苦笑いを浮かべて仕方なくステージに上がる兄。
周囲は割れんばかりの黄色い声があがる。
「お兄ちゃん! 今日は負けないからね!」
「ふふっ。楽しもうね~」
緩い笑顔に対するサリーは燃えるように戦いに臨む。
早速始まった戦いは、あっという間に初戦をクラウドが勝つ。
二戦目は初戦を踏まえて、慎重に攻めるサリーだったが、最後の最後に押し切れる。
三戦目は防御一方のサリーに対して、緩い笑顔とは思えないほどに鋭い攻撃を続けるクラウドに、サリーのストレート負けが決まった。
広場に歓声があがる。
クラウドの強さを知る事が出来た人々は顔が真っ青になっているが、まだ良く分かってない大勢の人は歓声があげる。
その時。
「サリー」
「う、うん? どうしたの? お兄ちゃん」
「僕はどうしてもサリーに勝ちたかった」
「へ?」
普段はあまり勝ち負けに拘らない兄から信じられない言葉が出てくる。
「サリーに勝った人に、サリーの彼氏になる権利があるんでしょう?」
「へ? う、うん……そう……だね」
「ふふっ」
いつもに増して光り輝く笑みを見せる兄。
そして、
「サリー、君の彼氏になりたいんだ」
クラウドから放たれた言葉にサリーの心臓は止まるほどに衝撃を受ける。
衝撃を受け過ぎて世界が止まる。
世界が灰色に変わり、何が起きているのか理解が及ばないサリー。
「サリー」
お、お兄ちゃん?
「サリー」
目の前に兄がいるのだが、兄の声が遠くから聞こえる。
「サリ~」
お兄ちゃん!? どこ!?
「サリ~!」
「えっ!?」
「もぉ……サリー? 居眠りなんて珍しいね?」
目の前に顔を近づけて優しい笑みを浮かべた兄が覗いていた。
「お兄……ちゃん?」
「はいはい。サリーのお兄ちゃんですよ~サリーの好きな紅茶を淹れたからね~」
テーブルには美味しそうな紅茶が並んでいた。
何が起きているのか理解出来ないまま、紅茶を手に取り飲み始める。
美味しい紅茶が口の中に広がる中、
――――「サリー、君の彼氏になりたいんだ」。
兄の告白を思い出して、顔が火照っていく。
「ん? サリー? もしかして風邪?」
兄が自分のおでこに手を当ててくる。
「っ!? ち、違うの!」
「ん~熱はなさそうだね。疲れたらすぐに休んでね?」
「う、うん!」
その時、とある人が部屋に入って来る。
「クラウド~サッちゃんと話し合いは終わった~?」
クラウドの婚約者ティナだ。
「うん。サリーが少し疲れたみたいだから、すぐに行くよ」
「分かった~サッちゃんもあまり無理はしないでね?」
優しい笑みを浮かべるティナにサリーは現実を突きつけられる。
そうか……全部…………夢だったんだ。
「…………私……お兄ちゃんの……妹なんだもんね……」
「ん? そうだね。僕はサリーのお兄ちゃんですよ?」
「う、うん…………」
心の中から寂しさが溢れてくる。
ティナが羨ましいとさえ思えてくる。
「ふふっ。サリー?」
「うん?」
「僕の妹でありがとう――――――大好きだよ」
――「大好きだよ」
――――「大好きだよ」
――――――「大好きだよ」
「お兄ちゃん! 早く行かないとバーベキューが終わっちゃうよ!」
「そうね」
兄を手を引いたサリーが部屋を出て行く。
その顔は兄には見えないが、真っ赤に染まって嬉しそうな笑みを浮かべていたサリーであった。
これはあったかも知れない、ないかも知れない、淡いサリーの――――――
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