第176話 母、襲来!

「「「「クラウド先輩! 本日もありがとうございました!」」」」


 訓練場に集まった後輩の1年生達が大声をあげる。


 僕の従魔達との稽古が終わって、みんな笑顔で訓練場を後にする。


 本当はあまり稽古は見てあげたくないんだけど、イレイザ先生の頼みとなれば、断れないし、断りたくもない感じだ。


 今日も授業が終わり、帰ろうかなとアーシャとアリアさんと帰り支度をしていると、大急ぎ足で教室に入ってくる影があった。


「クラウド様! クラウド様はいらっしゃいますか!」


 確か、同級生の生徒会の人だ。


「は~い。僕に何か用ですか?」


「クラウド様! 大変な事が起きました! どうかこのまま一緒に来ていただけませんか!」


 あまりにも緊迫した表情にすぐに案内して貰うと、学園から入口に向かって行く。


 入口には沢山の生徒達が集まっていたけど、丁度真ん中に人が通れる道は出来ている。


「クラウドくん! 急いで!」


 イレイザ先生が入口から手を振りながら声を上げる。


 急いで入口から外に出る。


 外には大勢の人々が集まっていて、空を見つめていた。


 空……?


「クラウドくん! あれを見て欲しいの!」


 イレイザ先生が指差す空の向こうを見ると、晴天の空が広がっているのだが、その中に異質な色が見える。


 赤い点が……見える?


 王都に緊急事態を知らせる鐘の音が激しく鳴り響く。


 緊急事態!?


「ティナ~あれってなに?」


「多分だけど、伝説の火竜じゃないのかな?」


「火竜!?」


 火竜って、あの火竜!?


 うちの先祖様が契約して、不可侵条約を結んでうちの王国に北西側のホルン王国の侵略道を封鎖して、その功績を讃えるためにうちが永久貴族になれたと聞いている。


 うちの王国は北西にホルン王国、北東にシレル王国と2つの国から攻められていたのもあって、かなり大きな功績だったそうだ。


 そんな火竜は不可侵条約を結んでいるから、火竜の住処『キュシレ山脈』から出てこないはずなのに……。


 少しずつ赤い点が大きくなっていき、羽ばたいている翼のようなモノが見え始める。


 絵に描いたようなドラゴンの姿がどんどん大きくなる。


 火竜といえば、王国に取っては一番の恐怖の象徴だ。


 そんな火竜がこのタイミングで王都に向かってくるのは、一大事なのだろう。


 王城でも学園長が急いでバリアを張って、守りに入る。


「クラウド? 先に迎撃した方がいいんじゃないかな?」


「う~ん。でも……どうしてこんな時に? ホルン王国も戦争を仕掛ける感じはないはずだし…………」


「どうしてなんだろう」


 一緒に首をかしげるティナ。



「――――ドくん~」



「ん? 誰か呼んだ?」


 後ろを見るとみんな首を横に振る。


 あれ? 気のせいかな? 誰か呼んだ気がしたんだけど。


 おっと、こうしている場合じゃなかった。火竜をどうしようか考えないと。



「――――ウドくん~」



「あら、誰かクラウドを呼んでいるわね」


「やっぱり? 僕もそれが気になってさ」


 ティナとアーシャと一緒に回りを見渡しても、誰も反応してくれない。


 僕を呼ぶ声に気を取られていると、火竜があっという間に王都の上空にたどり着いた。


 こうなったら攻撃される前に――――



「クラウドくん~」



「へ?」


 いや、はっきりと僕を呼ぶ声が聞こえたけど、この声って凄く聞き慣れた声だよね?


 でも母さんが王都にいるわけがないのに…………?



「クラウドくん~こっちだよ~」



「へ?」


 声がするのは――――上空だ。


「母さん!?」


「クラウド~母さんはここですよ~」


 火竜の頭の上に寝そべて、こちらに手を振る母さんが見える。


「ま、まずい!」


 急いでコメに声を響かせる魔法で「火竜は敵じゃないよ!」って木霊させた。




 ◇




「おっき~!」


「うふふ。サリーちゃんも乗せて貰ったらいいよ~凄く大人しい子だから、もうクーくんの従魔なの」


「え!? 火竜様がいつの間に僕の従魔に!?」


 学園の前の広場に降り立った火竜は、その雄々しい姿に大勢の人々が集まって火竜の姿を見ている中、火竜から降りてきたのは、他でもない僕の母さんとぷろちゃん、スラだった。


「クラウド様~! エマ様が従魔にしようって連れて来ました!」


「母さん…………ぷろちゃんがとんでもない事を言ってるけど…………?」


「うふふ。うちの先祖様が火竜様と契約したと言われていたから、クーくんも同じ事をしてティナちゃん達の凄い旦那さんになって欲しかったんだよ~」


「ええええ!? その為だけに火竜様に会いに行ったの!?」


「そうだよ? ぷろちゃんがスラくんなら話せると思うって教えてくれて、行ってきたの~」


 火竜様はすっかりサリーと仲良くなったようで、サリーが背中を滑り台の代わりに遊び始めている。


 いくらスカートの中にレギンスを履いてるからと言って、はしたないっ! 後で注意しておこう。


「えっと……火竜様? 僕の従魔になるんですか?」


 火竜様がじっと僕を見つめる。


 そして、















【貴殿がクラウド様でありますね? 残念ながら儂は貴殿の従魔にはなりません。儂は――――――エマ様の従魔でございます】


 まさか、母さんが火竜様を従魔にするなんて、想像だにしなかった。

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