第173話 エレメンタラースライム

 スラが進化してめでたしめでたし――――とは終わらない。


「スラ。ここら辺一帯がぐちゃぐちゃだよ~」


【旦那様! 元に戻せばいいのですか?】


「うん? こんな大きなクレーターを残しておくわけにもいかないでしょう?」


【かしこまりました! 僕に任せてください!】


 スラがやる気になったみたい。


 …………。


 …………。


 あれ? 何もしない?


【サリー様にいつまでも踏まれていて動けません……】


「あはは……サリー、スラが何かしたいみたいだから、そろそろ解放してあげて~」


「あい~」


 踏み続けていたサリーが離れると小さく残念がる声が聞こえた気がしたけど気にしない。


 虹色に輝くスラが上空に飛び上がる。


 スライムが空を飛ぶ奇妙な光景だな。


 すぐに僕達全員を虹色の光が包むと、スラ同様に空を飛びあがる。


 急ではあったけど、そこはスラが気を利かせてくれて、ゆっくり空に飛びあがる。


 それに動こうと思えば、自由に動けそうだ。


 すでにサリーが真っ先に動き始める。


【エレメンタラー『土』!】


 スラが土色に光ると、クレーターの中央部から土が溢れ出る。


 水が溢れるように土が出てくる光景がとても神秘的な光景だ。


 森一帯を全部飲み込んでいるので、凄い範囲に土が広がって行く。


 そんな珍しい光景に、僕達が魅入られていると、あっという間に消えた地面が土で埋まり、荒野が広がる。


【エレメンタラー『自然』!】


 今度は美しい緑色の光が何もない荒野に降り注ぐと、少しずつ緑色に染まっていく。


 最初は小さな植物だけだったけど、どんどん成長し、木々も生え始める。


 元のヘルギアノス森とは似つかない美しくも広大な森があっという間に完成した。


「凄いね!」


 そう言いながらいつの間にか僕の両手に抱き付くティナとアーシャ。


 あまりにも神秘的な光景に魅入られて気づいてなかった。


「スラ! ありがとう!」


【いえ! いつでも呼んでください! 旦那様!】


 まさか食いしん坊のスラがこんな力に目覚めるとは思いもしなかった。


 ただ…………。


「スラ、これで許して貰えると思ったら大間違いだからね? エリシアさんの大事な物を消したんだから」


 そう言うサリーに頭を握られるスラ。


 あはは……スラはどこまでもスラなのかも知れない。




 ◇




 ヘルギアノス森をどうするかは一旦保留にして、スロリ街に戻って来た。


 戻って来て早々にスラは屋敷の裏に身体を大きく膨らませると、スラの中からとある施設を作りだした。


 真っ白で見た事はないけど、どこか映画に出てきそうなそのフォルム。


 間違いなくミナトさんが作った『サテライト』だろう。


 エリシアさんが嬉しそうな笑みを浮かべているのがその証拠だ。


 突如出現した『サテライト』にサリーが早速両親を連れて案内する。


 すぐにティナとアーシャがそれぞれの両親を連れて『サテライト』を案内。


 最後にアレンが領内に集まった各部門の幹部の方々を案内してあげる。


 一応異世界地球の文化なのは伏せて、それっぽく話す為に『天使族』が残した古代文明遺産とだけ伝えている。


 すっかり元通りの姿で、基地内の動力源として用意されていたのは、スラが自分のオーラで充填する形にしているけど、今のスラなら大した量でもないはずだ。


 スラ曰く、魔導エンジンも元に戻したそうだが、肝心な中身である魔導石がないので空を飛ぶ事は出来ないみたい。


 珍しい建物を披露した事でますます祭りが盛り上がり、その日から三日ほどスロリ街は祭りで大きな笑い声に包まれた。




 ◇




 祭りが終わった次の日。


 全世界にとある告知がされる。


 『ラウド商会より、リバーシの販売を始めます。近々大会を開き、優勝者及び上位者には豪華賞品がございます』


 これはサリーが考えた案で、余程リバーシが楽しかったようで、これを世界的に広める事にした。


 念には念をと、告知には『リバーシの販売はラウド商会のみ。但し、販売ではなく遊ぶためなら自作しても良い』という広告と共に、リバーシのルールが記入された紙も配った。


 正直、リバーシが流行るとは思わないけど、サリーがやりたいなら応援してあげたいのが兄の気持ちである。


 ここまでサリーはラウド商会のために色々頑張ってくれたからね。


 ただ、この時の僕は知らなかった。


 上位者入賞に、まさかの賞品を用意する事で、世界的に爆発的な人気になろうとは、思いもしなかった。




 ◇




 その頃、スロリ街の屋敷では、お母さんが自販機の飲み物を研究し始めた。


 自販機がどういう仕組み作られたのかまでは全く分からないので、複製するのは無理かと思われた。


 そう。


 そう思われたはずだった。


 なのに、お母さんが真っ先にスラを呼び出して、あの自販機だけ作ってくれと頼むと、意外にもあっさり作れたようで、中身の材料がどうなっているのかは全く分からないが、スラのオーラがあれば維持出来る事を知る事が出来た。


 それを知ったお義父様達は、毎日コーヒーが飲めるならと、広い領地をあげるから自販機を置いて欲しいとお母さんに交渉したようで、意外にもお母さんはそれを承諾。


 僕が知らない所でお母さんはとある地域を貰う代わりに、スラから両お義父様の書斎と部屋に自販機を作ってあげた。


 この時、僕の知らない所で、スラを巻き込んだとんでもない行動が起きているのを知るのは、暫く後のことだった。

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