第172話 消えた遺産
「エリシアさん?」
「そ、そんな…………魔導エンジンが?」
階段を急いで降りたエリシアさんが何もない部屋に茫然とする。
「ここにあるはずの魔導エンジンが…………」
どうやらこの場所に魔導エンジンと呼ばれていたモノがあったみたいだ。
確かにここだけ広い作りになっていて、何もない事に違和感を覚える。
「お兄ちゃん、あれ!」
サリーが指差した場所には大きな穴が空いていた。
「大きな穴……?」
「そ、それはミナトが噴射口と呼んでいた場所なの。元々開けているの」
あ~ロケットの噴射口的なあれか。
噴射口にやってくると、所々から光が差し降りる。
微妙な隙間があるのかも?
まあ、土の中だから微妙な隙間くらいあるか。
「魔導エンジンはミナトが一所懸命に作ったモノで、敵軍の魔王を倒した時に手に入った大きな魔導石を使っていたのよ」
「魔導石?」
「魔王級の魔物を倒した際に生まれる魔石の事よ」
ふむふむ。
エリシアさんが敵軍と言うくらいだから、その魔王級の魔物を倒した際に手に入ったんだろうね。
そんな貴重なモノが無くなっているのか……。
「う~ん」
「サリー? どうしたの?」
「なんだか、最近無くなった気がするのよね」
「え? 最近?」
「もしもあの穴が昔からあったのなら、この部屋中は土で埋まっているはずなの」
言われて見れば、この部屋は昨日作りましたと言わんばかりに綺麗。
「それに、この土からほこり一つ落ちてないのが不思議だな~」
サリーが目を瞑り何かを考え始める。
何となくみんながサリーに注目して数秒。
そっと目を開けるサリー。
そして、とある名前を告げる。
「スラ」
【はいっ!】「はいっ!」
サリーの前に飛ぶ勢いで前に揃う二匹。
気のせいなのか、二人とも凄く震えている。ぷろちゃんは心配しなくていいと思うんだけどな。
「ここに穴が空いているの」
【は、はいっ!】「は、はいっ!」
「この中にあった全てのモノがきれいさっぱり無くなっているのね」
【ひ、ひぃ!】「ひ、ひぃ!」
「スラ。まさかとは思うけど…………」
一歩ずつ近づくサリーに一歩ずつ後退る二匹。
「ここにあるモノ、全部、食べたわけじゃないよね?」
笑顔のサリーに僕達まで悪寒を覚えるレベルである。
その時。
後退るスラの身体から眩い虹色の光が溢れ出る。
「スラ!?」
【ええっ!? もしかしてここにあった石を食べちゃったから!?】
やっぱりスラが犯人じゃんか!
溜息を吐く暇もなく、スラの全身から溢れる大きなオーラに包まれてしまう。
【だ、旦那様~! 今の僕では抑えられません~!】
「す、スラ!? 落ち着いて! 深呼吸だよ!」
【旦那様。僕、深呼吸出来ないんです】
「意外と冷静じゃん……」
【ほ、本当にごめんなさい! うわあああああ!】
そう叫ぶスラは、一瞬にして周囲の全域を飲み込んだ。
◇
ベシッ! ベシッ!
何もないクレーターの中心で虹色に光り輝くスライムがサリーに踏まれていた。
【んああああ、サリー様! もっと!】
スラ。お前ってそういうキャラだっけ…………。
「サリー? そろそろ許してあげて?」
「お兄ちゃんは甘い! スラの所為で重要な遺跡が全部消えたのよ!?」
サリーの言った通り、スラがここ一帯周辺の
正直言って、スロリ街やベルン領じゃなくて良かった。
「それで、スラ? 色々説明してくれる?」
【はいっ! 森におやつを食――――掃除に来まして、どんどん食――――掃除していたら身体が大きくなりまして、旦那様がスロリ街に戻られたのを感じたので、身体から分離してスロリ街に戻ったんです。その後、僕の身体がここら辺一帯を食い尽く――――――掃除し終えたみたいでして…………】
あ、うん。
掃除と食べる件はもういいから……。
【気付いたら地下にとても美味しそうな石があったので、それを食べたんです。最初は消化出来なかったですが、段々消化していったら、あんな感じになったんです】
「はぁ…………エリシアさん。ごめんなさい。やっぱり魔導エンジンを食べたのはスラだったようです」
そう聞いたエリシアさんの何とも言えない表情を浮かべた。
「食べた魔導エンジンを少しずつ消化させていったら、ああなったようで…………スラの身体が虹色に光っているけど、これはどうしたんだろう」
【ご主人~】
ロスちゃんとドラちゃんが僕の頭と肩に乗っかって来る。
「ロスちゃん? 何か知ってる?」
【うん~。これは魔王クラスに進化したみたい】
「ええええ!? スラが魔王クラスに進化したの!?」
確かに元のスラとは比べものにならないオーラだ。
何なら…………。
「ロスちゃんより強そう?」
【うん~。あの子が飲み込んだのが、魔王クラス最強のタルタロスの魔石だと思う~】
「タルタロス?」
「タルタロスは私達の時代で倒した敵幹部魔王の名ね」
「そっか。魔王クラスの中でも一番強いタルタロスの魔石を飲み込んだから、今のスラは凄く強くなったって事だね?」
【うん~】
何だか、スラが一番強くなりましたと言われても、目の前ではサリーに踏まれて喜んでいるだけなんだけどね。
「それで、スラ? どんな種族に進化したんだ?」
【はい! 旦那様! 僕は『ジャイアントスライム』から――――――
『エレメンタラースライム』に進化しました!】
へぇー!
『エレメンタラースライム』ってなんだか、かっこいいね!
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