第170話 サテライト

 遺跡と聞いていた場所は、ミナトさんという方が作ったサテライトという場所だと判明した。


 サリーを先頭にサテライトの中に入って行く。



 サテライトの中は一言でいえば、多くの映画で見た宇宙船っぽい雰囲気だ。


 壁は基本的に白色一色で、ロスちゃんを壁にくっつけてみると、同化してくっ付いていることに気付かないと思う。


 建物の作りとしては、入って数人が通れる廊下があり、その先を進むとサテライトの中央に当たる広間に入れる。


 広間は凄く広くて、食堂があったり、休憩スペースがあったり、他にも色んな遊びの場所があり、そこから出口も込みで十字クロス方面にそれぞれ部屋がある。


 正面には操縦席が作られていて、3人くらいで操作できるような作りだ。


 ということは、サテライトは基地というより、宇宙船をイメージして作ったのかな?


 他の部屋は全部で6つあり、一つはトイレ、一つはお風呂場、一つは植物を育てる部屋で植物プラントという名前だった。


 残り3つは全部寝室で、二段ベッドが2つずつ入っており、一部屋4人で計12人が泊まれるようになっている。


 率直な感想としては、思ったより小さい事だ。


「ミナトは宇宙というのに出ると、あまり大きくは作らなかったのよ」


 やっぱりサテライトは宇宙船な感じで作ったんだね。


「お兄ちゃん~! これってなに?」


 サリーが大事そうにとある物を持って来た。


「ん? 懐かしいね~これはリバーシというんだよ」


「リバーシ?」


「これは二人で勝負をするゲームでね、見回り終わったら教えてあげるよ」


「うん! 楽しみ!」


「でも持ち出しはダメだよ? 元の場所に戻しておいてね」


「分かった!」


 久しぶりに前世の品を見つけて懐かしくなる。


 リバーシはやった事がないけど、別な方なら何度かやった事があるから、サリーに教えてられる。


 他の競技も色々あるけど、僕はあまり興味がなかったから、はっきりと覚えているのはリバーシくらいだろうか。


「クラウド~これはなに?」


 興味ありげに自販機のような物を指差しているティナ。


「それはそこに書いている文字のボタンを押すと、飲み物が出てくる仕組みだよ」


「へぇー! 押してみていいのかな?」


「まだ使えると思うし、いいと思うわ」


 一応僕の物ではないけど、エリシアさんがそういうなら使って良さそうだ。


 エリシアさんの返事を聞いてワクワクした表情でボタンを押すティナ。


 自販機が不思議なようでみんなも集まって眺めている。


 ボタンを押すとピンポン! と音が鳴って、真ん中にある取り出し口に紙コップが降りてくる。


 その瞬間にみんなから「おお~!」って歓声があがる。


 直後に上部からティナが選んだと思われる茶色の液体が注がれる。


 全て注がれると、またピンポン! という音が鳴って、取り出し口の扉が上部にズレて開いた。


「ティナ、熱いからゆっくり取ってね」


「うん!」


 恐る恐る両手を入れて紙コップを取り出すティナ。


 紙コップを両手に持ち、みんなに向いたティナが紙コップを上にあげると、またみんなから「おお~!」と歓声があがる。


 みんなの反応がほっこりして自然と笑みが零れてしまう。


 隣で一緒に見ていたエリシアさんがクスッと笑う。


「やっぱり初めて見ると、それやりたくなるのよね」


 なるほど。


 エリシアさんも最初はあの儀式をしたんだね。


 みんなそれぞれ名前しか分からない飲み物を選んで、休憩スペースに集める。


 色とか匂いとかでこれはこういう味だとか色々話し合い始める。


 丁度休憩スペースには空の新しい紙コップが沢山置いてあったので、みんなそれぞれ分けて飲むみたい。


「エリシアさんも久しぶりにどうですか?」


「そうね。私も頂こうかしら」


 エリシアさんは『カフェラテ』を、僕も同じ物を選んだ。


 久しぶりのコーヒーの味が懐かしくて、前世の事を思い出す。


 この世界に生まれ直してから前世の事はあまり考えなくなっちゃったな。


 両親や友人達は元気にしているのだろうか。


 それにしてもここの風景を作ったミナトさんは、どういう想いでここを作ったのだろう。


「ミナトはね。チキュウという場所に帰りたがっていたの」


「やっぱりそうですよね……」


 何となくここを作った彼なら、帰りたいと思ったのかなと予想していた。


 僕は帰りたいかというと、サリーやアレン、ティナ、アーシャを置いては帰りたくないと思ってるけどね。


「でも途中で帰らないと断言してしまってね」


「そうなんですか? 意外ですね」


「ええ。私も意外だったは……………………元々仕方ない婚約だったの。でも長い時間一緒に過ごしているうちに婚約者というより、恋人になって…………」


「ここを作ったのはいいけど…………エリシアさんを好きになってしまって、帰らないと言ったんですね?」


「…………うん………………」


 酷く悲しむ表情のエリシアさんだ。


「僕も生まれたばかりなら帰りたいと思ったでしょう。でもサリーやアレン、ティナ、アーシャ達が一緒にいてくれて、今の僕に帰りたいかと聞かれたら、迷わず『帰りたくない』…………いや『帰らない』と言います。だからミナトさんの想いも理解出来ます」


「…………そっか」


「エリシアさん。今度ミナトさんについて色々教えてください」


「……………………いいわ」


 エリシアさんには辛い事を思い出させてしまうけれど、ミナトさんの事をより知り合いと思うから。


 ふとこちらを見たティナが、満面の笑顔を見せてくれる。


 その笑顔にエリシアさんも少しは元気が出たみたいだ。

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