第168話 水玉の正体

「クラウド様!」


 警備隊のリーダーのキルアさんがやって来た。


「キルアさん」


「クラウド様、あの方向は我々が住んでいた『ヘルギアノス森』の方向でございます」


「ヘルギアノス森…………あれ? 何か最近聞いた事あるような~ないような~」


「元々我々が住んでいた森であります。非常に強力な魔物が多く住んでいる地域です」


 そう言われれば、ハイエルフ族が元々住んでいて、ダークエルフ族が最近まで住んでいた森だね。


「あの水玉に見覚えはありますか?」


「えっ? クラウド様?」


「はい?」


「…………どこをどう見ても…………クラウド様の従魔様なような?」


「へ?」


 あれ?


 赤くて、水玉のような従魔…………。


「まさか! スラなの!?」


【旦那様~お呼びですかぁ~?】


 目の前に赤いスライムのスラが出てくる。


「あれ? スラ? あの水玉の正体知らない?」


【はい! あれは僕の本体ですぜ~!】


「本体……犯人は君だったのだね」


【あれ? 旦那様? 先日、森の害虫駆除をしてもいいかと聞いたところ、良いと返事してくださいましたよね!?】


「森の害虫ってスロリ森じゃなくてあの森だったの!?」


【やだな~旦那様~スロリ森に害虫なんでいる訳がないじゃないですか~イア様達がいらっしゃいますもん~】


 なんか騙された気分だよ……。


「それで、スラはあの森で何をしているの?」


【はい? 害虫駆除ですよ?】


「害虫って魔物の事?」


【ですぜ~! とても美味し――――いえ、ベルン領に押し寄せて貰う前に駆除していたんです――――ひい!?】


 急に驚く声をあげて、身震いするスラ。


 その後ろに仁王立ちで目を光らせているサリーの姿が。


「お兄ちゃん? あれはスラなんでしょう?」


「うん? そうみたい。本体らしいよ」


「うふふ、ぷろちゃん!」


 サリーがぷろちゃんを呼ぶと程なくして上空から小さく白い子ドラゴンが降りてくる。


「お呼びでしょうか~ご主人様~」


「通訳して!」


「あい~」


 ぶるぶる増えているスラ。いや、元々震えているか。スライムだけに。


「クラウド? 違うと思うわ。きっと恐れているのよ」


 そっか……。


「スラ!」


【は、はいっ! サリー様!】


「は、はいっ! サリー様!」


 スラの挙動から言葉使いまでぷろちゃんが真似をする。


 ぷろちゃんも震えているのは気のせいだろうか?


「あの森には古い遺跡があるらしいわ! 今すぐ探して!」


【か、かしこまりましたっ!】


「か、かしこまりましたっ!」


 へぇー?


 遺跡なんてあるんだ。


 全く初耳だけど、サリーはいつもこういう事をどこから知るのだろう?


「お兄ちゃん!」


「は、はいっ!」


「お兄ちゃんも行くわよ!」


「はっ!」


 僕と両側にスラとぷろちゃんが敬礼ポーズをした。




 ◇




 ロクの背中に僕とエリシアさんが乗り、ヘルギアノス森に向かって飛んで行く。


 向こうに付いたらみんなを呼ぶ予定だ。


「ヘルギアノス森というのか? その森は」


「ですね~名前に聞き覚えがあるんですか?」


「…………ああ。知っているさ」


 どうやら話したくはないみたいだけど、知っているみたいで驚いた。


 ヘルギアノス森の上空に到着すると、赤く透明な水玉が森全体を覆っていた。


 水玉の中に沢山の魔物が浮かんでいて、暫くすると消えていった。


「これも君の従魔なのか?」


「ですね。ここまでやってるとは思いませんでしたけど」


「…………まるで」


 そのあと何も話さないが、何かあるのかも知れないな。


 近くの地上に降りて、みんなを召喚する。


「スラ!」


【はいっ!】「はいっ!」


「本体を絞らせなさい!」


【はいっ!】「はいっ!」


 スラとぷろちゃんが完璧にシンクロして返事をする。


 すぐにスラの本体がどんどん小さくなり消えていった。


 少しして、向こうから10体の赤いスライムがぽよんぽよんと音を出しながらやってくる。


【サリー様! 小さくしました!】「サリー様! 小さくしました!」


「よろしい! 遺跡に案内しなさい!」


【はいっ!】「はいっ!」


 魔物が一掃された森をスラの案内で進めていく。


 思いのほか不毛地帯のようで、木々に葉もなければ、植物も全然見つからない。


 でも木々が多いので、見通せない部分はあるかな。


 それでも道のようなモノが続いていて、僕たちが続いて歩けるようにはなっている。


 周りに魔物も全くないので、みんなで散歩している形だね。




 ◇




 クラウド達が歩いて向かう中。


 少し距離を取ってクラウド一行に付いていくエリシア。


 その頭の上に、とある従魔が飛んできて座りこむ。


「久しいな」


「私は二度と会いたくなかったわよ」


「…………何故この時代に生きている?」


「ミナトのおかげよ」


「そういう事か…………彼はもういないんだな?」


「…………ええ。それにしても貴方は見違えるほど変わったわね?」


「俺様もびっくりしたぜ」


「そうね。私も自分の目を疑ったわよ」


「だろうな。今の俺様を見たら、昔の連中も驚くだろうよ」


「ねえ、貴方はこのままクラウドくんに従うの?」


「いや、俺様はクラウド様じゃねぇ、サリー様に従うんだよ」


「…………本当に変わったね」


「そうかも知れない。大きなしがらみから解き放たれたからな。まあ、来たるべき日にどうなるか楽しみだぜ」


「来たるべき日ってくるの?」


「間違いなく来るぜ」


「そう…………じゃあ、それまで見守ってあげるよ」


「なに傍観者気取るんだ。お前だって当事者だぞ」


「……………………私はもう死んだ身だから」


「ふん。剣聖姫の名が泣くぜ」


「懐かしい名ね」


「まあ、お前も少しは身構えとけよー」


 そして、その従魔はエリシアから離れていく。


「まさか、貴方に心配される日が来るなんてね…………」

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