最終章

第164話 プロポーズ

「マスター、ナインが死にました」


「ふぅ~ん。あんなに大言たいげんしたのに、死んでしまったか」


「我々ナンバーズの中では最後のナンバー…………まだ若かったのでしょう」


「ふむ。それはそうと、魔剣の回収は出来たか?」


「申し訳ございません…………どうやら教会本部にも格納されていないようでして……」


「ほぉ? あの教皇が仕切っている訳ではなかったのか」


「ですが聖騎士達は全員出動していたようです。聖騎士長も出ていたそうですから」


「…………魔剣の回収を全力で急げ」


「はっ!」


 男の前に跪いていた数人のナンバーズが一斉に消える。


「…………『呪魔術』ですら探せないという事は、相当強い封印が施されたのだろう……ここまで来て計画に支障をきたすとは…………魔剣を預けたのは失敗だったか」


 男の焦る声が広場に空しく響いた。




 ◇




「「「「「おはようございます!」」」」」


「ええええ!? ど、どういう事!?」


 僕が学園に入ると、両脇に綺麗に並んだ新入生の一年生が僕に向かって90度に頭を下げる。


 一年生全員いるんじゃ!?


「「「「「クラウド様! おはようございます!」」」」」


「お、おはよう…………?」


「「「「「ありがとうございます!」」」」」


 またサリーとティナの仕業なのだろうか……。


 どうしよう……去年も全員がベルン領に就職に来たのに、まさかイレイザ先生の予想通り今年、来年、再来年までみんなベルン領に来たら、いよいよ王国側と色んな問題が起きそうだ。


 今日は急いで父さん達と相談しないと……。


 その時。


「みんな! これからもクラウドくんに挨拶を欠かさないようにね?」


 奥から美しい赤い髪をなびかせて、豊満な身体の女性がやってくる。


「イレイザ先生!?」


「おはよう、クラウドくん! 後輩達もよろしく頼むわね?」


「い、イレイザ先生! こ、困ります!」


「あら? 後輩達を見捨てちゃうの?」


 見捨てる!?


「「「「「く、クラウド様! どうか、私達にも慈悲をください!」」」」」


「ええええ!? 慈悲ってどういう事!?」


「今の二年生と三年生までしか、クラウドくんの授業やベルン領への道が通じてないから、一年生達だけ見捨てちゃうと、みんな王国に入るしかなくなっちゃうのよ」


「それでいいんです! 王国に入ってください! お願いします!」


「「「「「クラウド様! どうか私達を見捨てないでください!」」」」」


「見捨ててないよ!」


 まさかイレイザ先生の仕業だと思わず、サリーとティナを疑ってしまった……。


 この日から一週間ほど挨拶が続いたけど、何とか説得して毎朝の挨拶を辞めて貰えた。




 ◇




「クラウド」


「う、うん? どうしたの? 父さん」


「今年は卒業の年だな」


「そうだね」


「それで、式はどうするつもりだい?」


「し、式!? え、えっと…………」


「まさか卒業しても令嬢達をあのままにはしておかないよな?」


「…………えっと、どうしたらいいかな……?」


「まあ、クラウドの結婚式となれば、お祭りになるだろうから、街を上げて準備しないといけないから、今から準備させるけど、いいかい?」


「え、えっと、まだ二人に了解は得てないから、今日中に聞いておくよ」


「問題ないと思うけど、しっかりね」


「うん!」



 その日の夜。


 実は今では同じ部屋で一緒に眠っている。


 まだ婚姻を交わした訳ではないけど、何もしないというか、たまーにキスくらい交わすけど、いつも手を握って眠っている。


「えっと、ティナ? アーシャ?」


「「どうしたの?」」


 二人の声が見事に被る。


 そんな二人にベッドの上で正座する。


 二人も何故か正座で座る。


「あ、あの! えっと! その!」


「「いいですよ!」」


「えっ!?」


「「不束者ですがよろしくお願いします」」


 二人が深々を頭を下げる。


 まだ何も言ってないんだけど!?


「それでクラウド? いつにするの?」


「あ、あはは…………二人ともありがとう。でもこういうのはちゃんと言わないといけないと思うから……」


 大きく深呼吸する。











「こんな僕ですが、結婚してください!」




「はい。こちらこそよろしくお願いします」


「ずっと待ってたわ。よろしくお願いします」


 三人で深々と頭を下げて、顔を上げると思わず、笑いが起きた。


「一応予定としては、卒業してすぐを予定してるよ」


「分かった! お父様には私から伝えるね」


「私も~」


「うん。二人ともお願いします」



 こうして次の日に二人をそれぞれの屋敷に送り届ける。


 本来なら僕も同席したいところなんだけど、いかんせん遠いからね……。


 こういうのは会う時でよいと両辺境伯様から言われているからもずっと言われているからね。


 次は父さん母さんにも報告して、最後にサリーとアレンにも報告する。


 意外にもサリーが一番喜んでくれて、子供の頃、あれほどティナとバチバチしていたサリーだからこそ嬉しく思う。


 その日を境に、ベルン領各地に結婚式の日取りが決められ、数日中にスロリ街の全ての宿屋の予約があるという事態に陥った。


 その日から急遽宿屋を建設しながら、街をさらに広くすることになり、どんどん発展が進む事になるけど、それに気付くのは数か月後だった。

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