第160話 フェアレーターのボス

 遠くから大きな爆発の音があちらこちらで聞こえてくる。


 遠くから微かにティナの声が聞こえた気がした。


 そのままエンド王国の王城の中に入って行く。


 ここに来るまで、誰一人いなくて、機械人形すら一体も見当たらない。


 ボスと呼ばれている人は、既にこちらの戦力をある程度読んだ上での判断なのだろうか。


 玉座の間に入ると、玉座に包帯をぐるぐると巻いている男性が一人、僕を見下ろしていた。


「初めまして」


「……まさかこんな青年が一人でここに来るとはな」


「みんなが道を開いてくれましたから」


「…………仲間か」


 男の瞳が憎悪の色に染まる。


 仲間達が負けた事に怒りを感じているのだろうか。


「つくづく世界は俺が気に入らないらしい」


 ゆっくりと玉座から立ち上がる男は、その右手から真っ黒い炎が燃える剣を取り出した。


 禍々しい気配を感じるその剣は、普通の武器ではない事くらい簡単に感じられる。


 攻撃の気配を感じたので、紅蓮ノ外套を解放させるとすぐに男の禍々しい剣が僕を襲う。


「!? デスパイアーを受け止めた!?」


 あの剣の名前ってはデスパイアーというらしい。


 軽く左拳で彼の腹部を強打する。


「ぐはっ!」


 少し吹き飛んだ男がそのまま玉座に座る形で飛ばされた。


「くくくっ」


 男の目がますます怒りの色に染まっていく。


 次第に身体から真っ黒いオーラが立ち昇る。


 これは『呪魔術』を使う時に見られる『呪魔素』だ。


 男の身体を『呪魔素』が覆い、段々と形作る。


 全身を覆ったそれは、悪魔のような姿となった。


 先程とは比べられないほど強くなった男が僕に剣を振り下ろすが、僕の紅蓮ノ外套で再度防ぐ。


 強くなったみたいだけど、先とあまり変わらないので、同じく殴る。


「ぐはっ!」


 今度は飛ばない当たり、強くなったのは間違いないね。


 今回は半分くらい力を込めて殴る。


 男は後方に大きく吹っ飛んで、玉座を壊しながらさらに後方に転がる。


「く、くそがあああああ!」


 剣に大きなオーラを纏わせ、斬りかかってくる。


 外套で防いでみると、僕の後方の壁が勢いよく吹き飛んで外が丸見えになってしまった。


 それにしても、この剣がとても気になる。


 手にオーラを纏わせ、彼の剣を握る。


 『呪魔素』の嫌な感じが手に伝わってくるけど、僕のオーラは超えられないようなのでそのまま剣ごと、男を振り回す。


 男は必死に剣にしがみつくが、耐える事ができず、僕の手に剣を残し、開いた城の外に大きく吹き飛んだ。


 デスパイアーを手でしっかり握ってみると、剣から意思のようなモノが伝わってくる。


【光の者を殺せ――――】


 光の者?


【光の者を殺せ――――】


 それって、アレンやティナ達の事だよね?


【光の者を殺せ――――】


 …………ちょっとこの剣はこのままにしておけないね。


 両手と右ひざにオーラを全力で纏わせ――――真剣真っ二つ折り!


 金属が割れる鈍い音がして、デスパイアーの刀身が見事に割れる。


 直後、折れた刀身の中から『呪魔素』とみられる気配を外に漏れていく。


 これもこのまま放置するのもいけない気がするので、僕オーラで封じ込める。


 デスパイアーに入っていた『呪魔素』を全て封じ込めると、拳くらいサイズの黄色い玉になった。


 中から強力な魔力が感じられるので、このまま魔石として使えそうだ。


 後でサリーにあげたら喜ぶかも知れない。




 デスパイアーはこれで使い物にならなくなったので、お城の外に出て行くと、吹き飛んだ男は悪魔の姿が解除になって敵軍の真ん中に落ちていた。


 外は既に決着がついているようで、敵軍は壊滅状態で、機会人形の骸が沢山転がっている。


 …………うちが悪者の雰囲気を感じるのは気のせいだよね?


 そのままみんなに合流する頃、男が立ち上がった。


 意外にもタフだね。


 包帯をぐるぐる巻いてるから、てっきり耐性とか落ちてると思ったんだけど……。


「く、くそが!」


 周りを見渡す男は真っ赤に充血した瞳で汚い言葉を叫び続ける。


 神を呪うとかまで言ってるんだけど、それほど悲しい事でもあったのだろう……オーラが酷く悲しんでいる色をしている。


 その時。


「リヴァイ!?」


 僕の後方から、イレイザ先生の声がした。


「――――!? い、イレイザ!?」


「リヴァイ!」


 イレイザ先生が男に走って行こうとした時、僕がイレイザ先生を阻止した。


「先生、知り合いですか?」


「く、クラウドくん! 知り合いなの! お願い! 彼と会わせて欲しい!」


「…………駄目です」


「っ!?」


 興奮気味の先生が手に持った武器を持ち上げる。


「僕から前に出ないと約束するならいいですよ」


「っ!? い、いいわ! それでいい!」


「分かりました。決して彼に近づかないようにお願いしますね」


 イレイザ先生はその目に大きな涙を浮かべて、大きく頷いた。


 僕がゆっくり男に近づいていくと、イレイザ先生も決して僕から先に行かないように後をぴったり付いてくる。


 先から叫んでいた男はイレイザ先生を見ると、驚いた表情のまま固まっていた。


 彼の前にたどり着いて、簡単に声が届く距離に着いた。


 後ろにいるイレイザ先生のそわそわした雰囲気と、男の目線がずっとイレイザ先生に向かっている。


「初めまして、僕はクラウド。名前をお聞きしても?」


「り、リヴァイだ…………」


「リヴァイさん。貴方はここにいるイレイザ先生と知り合いですか?」


「も、もちろんだ! イレイザは…………俺のかけがえない………………人……だった…………」


 どうやらリヴァイさんにも事情がありそうだ。


「分かりました。リヴァイさん。こちらのイレイザ先生も貴方を知っているそうです。ですが今回の戦争で貴方は大きな犠牲を出してしまいました。だからこのまま抵抗せず、捕まってくださいますね? 事情はその後から聞きます」


「…………ああ、分かった」











 しかし、その時。


「それでは困りますね~」


 周囲に響く声。


 声はリヴァイさんから聞こえる。


 リヴァイさんの声ではない、違う人の声だ。


 直後、リヴァイさんの懐から黒い光と共にネックレスが一つ宙に浮かんだ。


 そして、ネックレスは巨大な竜の姿へと変わっていった。

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