第158話 その名は、黄金ノ勇者

 グラハムが戦っていた頃、アレン達は工場に攻め入っていた。


 工場も沢山の機械人形によって守られていたが、アレン達の前には無力に等しかった。


 そんな彼らに一人の男性が姿を見せる。


 どす黒いオーラに、アレン達が顔をしかめる。


「どうやら四将軍の一人なんでしょうかね」


「だと思います。アレン様。ここは一つ我々が先に仕掛けます」


「分かりました。気を付けてください、お義父様・・・・


 聖騎士団長ノアは聖騎士を連れ、四将軍に立ち向かう。


「俺は聖騎士団長ノアという」


「…………ガロ」


「ガロ殿だな。人数不利などは言うまい、ではいざ参る!」


 ノアの仕掛けに他の聖騎士もタイミングを合わせ、ガロに攻撃を仕掛ける。


 数秒打ち合うも、思っていた以上にノアたちが強く、ガロは少しずつ顔を歪める。


 口に出さなくてもイライラしているのが分かるほどだ。


「グアアアアア!」


 ガロの急な叫びに、ノア達が距離を取る。


 その身体から真っ黒いオーラが立ち昇り、ガロの身体を纏い始める。


 そして、真っ黒いオーラはやがて悪魔の姿になった。


 聖騎士達はオーラを全開にするも、悪魔姿となったガロに太刀打ち出来ず、一瞬で全員が吹き飛ばされる。


 辛うじて、ノアだけがその攻撃を受け止めていた。


 その一瞬、後方から無数の光の剣がガロに突き刺さり、その隙にノアがアレンの元に戻って来た。


「お義父様、あれはマズイですね」


「ですな……まさかあれほどの強者がいるとは…………それにしてもあの力、気になります」


「はい……ですが、今はまず彼に勝つ事が優先です。次は僕も相手します!」


 すぐに飛んできたガロの攻撃をノアが防ぎ、アレンが攻撃を試みる。


 二人の阿吽の呼吸で数合打ち合うも、ガロの悪魔姿の破壊力は凄まじく、二人はすぐに劣勢となり少しずつ傷を増やしていき、ついにはノアまで吹き飛ばされる。


 アレンは全力で光の剣を召喚し、ガロに放つも全く効かず、ガロの凄まじい殴りをもろに喰らって大きく吹き飛んだ。




 ◇




 僕が勇者を開花した時は、どうして兄ではなく自分なのかと悩みが尽きなかった。


 僕よりも遥かに凄い兄の背中をずっと追ってもなお、その悩みは尽きる事はなかった。


 学園に入学して、兄はますます大きな力に目覚めた。僕なんかと比べられないほどに。


 その時、どうして僕が勇者なのかを知る日がやってきた。


 兄に光の剣について色々伝えると、なんと、勇者ではない兄が光の剣を使えるようになった。


 ――――ああ、これが僕が生まれた意味なんだと確信した。


 もう兄には僕など必要ないと思うと、僕は生きる気力が全て無くなる気がした。


 それから数日、僕の悩みなどそこら辺に転がっている小石のように、全く関係なくどんどん強くなっていく兄に、どこか寂しささえ感じてしまった。


 これで、僕は兄から忘れられてしまうんだと悔しくて涙が止まらなかった夜もあった。


 そんなある日。


 兄から一人の女性を紹介される。


 彼女の名はソフィア。


 僕が出会った中で最も美しいと思った女性だ。


 彼女は勇者である僕に用があると言ったけど、彼女はまだ兄の力を知らない。


 彼女が僕なんかの意思を確認したところで、結局は兄の力の前では全て意味がないはずだ。


 ただ、ソフィアさんの事を思うと、どうしては心が温かくなって、僕は悩みを忘れらるようだった。


 それから数日ソフィアさんと言葉を交わし、彼女を知れば知るほど忘れられない存在になった。



 そんなある日。


 妹のサリーちゃんがやってきて、僕にとんでもない相談をした。


「アレンくんってさ、ソフィアさんが好きなんでしょう? でもこのままでは――――お兄ちゃんに奪われるよ?」


 その言葉に、何も言い返せなかった。本当に泣きそうで、でもどうしようもなくて……。


「だから、お兄ちゃんより先にソフィアさんとくっつけばいいのよ! さあ、私が考えた作戦があるからその通りにしてね?」


 迷うことなく二つ返事で、妹の作戦を実行した。




 結果的に僕はソフィアさんと婚約を結べるようになったし、兄が僕を――――――愛してくれている事を実感出来た。


 だから、僕は思うんだ。


 兄さんの影に隠れた勇者だけど、それがどうした?


 兄さんに愛されるなら、僕が勇者であっても弱くたっていい。


 でもそれだけなら僕は兄さんに何をしてあげれるというんだ?


 ソフィアさんとめぐり合わせてくれたのも、僕が勇者としてベルン領で好きなように過ごせたのも、全て兄さんのおかげなんだ。


 そんな兄さんのために、僕は何が出来るのか。


 それはたった一つだけだ。


 僕は勇者として、兄さんの力になる。


 兄さんが困った時、僕の勇者の力で兄さんを助ける。


 兄さんの手が及ばない場所を、僕が守る!


 それだけの力が僕の中にあるはずだ!


 なんせ――――――僕は、兄さんの弟なんだから。














「解放、黄金ノ勇者」


 僕の心の中に眠っていた『専属武装』に光が灯る。


 ずっと灰色にくすんでいたそれは、金色に光り輝いている。


 ああ…………そうか…………君は僕の中にいた兄さんへの想いそのものだったんだね。


 今まで君に蓋をしていた僕を許してくれてありがとう。


 これから僕と一緒に兄さんのために力を振るって欲しい。


 さあ、共にいこう、僕の新たな相棒・・


 僕の隣に立つ黄金色に輝く獅子は、前方に咆哮をあげるとガロや工場もろとも一撃で吹き飛ばした。

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