第157話 その名は、純白ノ勇者

 クラウド達がエンド王都での戦いを始めた頃。


 ヘルズ王国方面に向かったメンバーは、最初の町にたどり着いた。


「ヘイリーくん。機械人形は任せたよ!」


「かしこまりました! お任せあれ!」


 ヘイリーはウル達を率いて、入口を守っている機械人形に攻撃を仕掛ける。


 普通の攻撃は効かない機械人形であったが、ケルベロスの眷属たるウル達の攻撃は機械人形のバリアをあっさり切り裂く。


 たった数分で、入口を守っていた機械人形を殲滅、すぐに町の中央にいる巨大機械を守っていた機械人形の殲滅にかかる。


 あっという間に占拠したのだが、ウル達では肝心な巨大機械に傷一つ付けられなかった。


「アーシャ様! どうやら巨大機械のバリアは硬いみたいです!」


「クラウドの予想通りね。イチくん! お願い!」


 アーシャの首に巻かれていたイチくんが目を覚ます。


 お互いに言葉は通じなくとも、長い時間一緒に過ごし意思疎通はお手の物となった二人。


 イチくんの身体に紫色の魔力が灯り、激しい雷の魔法が放たれる。


 轟音と共に、巨大機械のバリアが割れ始め、ものの数秒でバリアごと貫いた。


 すぐさまアリアが指示を送ると、ウル達が一斉にファイアブレスを放ち、巨大機械を燃やして廃すら残さなかった。


 阿吽の呼吸で簡単に事を終えたアーシャとアリアはハイタッチを交わし、町の住民達に事情を簡潔に伝え、次の町へ移動した。




「…………その指示、僕が出したかったな…………」


 小さく呟いたヘイリーはアリアの後ろ姿を悔しそうに見つめた。




 ◇




 クラウドが王城へ走り去った後、中央軍が大々的にぶつかり合っていた。


 フェアレーター軍は、呪魔銃を用いて遠距離魔法攻撃を仕掛けてくる。


 それを鉄壁のアイアンとベルン領のハイエルフ族の警備隊による防御魔法で防ぐ。


 その間に、後方からサリー、エルヴィス達による大魔法が空を埋め尽くし、フェアレーター軍に降り注ぐ。


 既に半数近く数を減らしていたフェアレーター軍だったが、二度目の大魔法の攻勢にまたもや多くの数を減らした。


 すぐに十傑とベルン領の警備隊はフェアレーター軍に襲い掛かり、次から次へと壊していく。


 そんな戦いの最中に、大きな爆発が起きて、ベルン領の警備隊の大勢が吹き飛んだ。


 幸い、死者は出なかったが、警備隊の面々に大きなケガが見られる。


 事態をいち早く把握していたグラハムがその場に急行した。




「お前が俺の相手か?」


「おうよ。俺様はグラハムだ!」


「お~熱い漢が嫌いじゃないぞ! 俺はベラリル! 四将軍の一人だ!」


「お前が四将軍か! 探していたぞ!」


「そうかよ、それにしてもお前つえーな?」


「ガーハハハッ! こう見えてもクラウド様の右腕・・だからな!」


「右腕……? お前が一番強いんじゃねぇのか!?」


「まさか~、ほら、見てみろ。あそこの三たいの魔王たちを」


「あ~あれ気になってたんだよな。なんで魔王たちがこちらに牙を向けてるのか気になってた」


「お前達が怒らせた方の従魔よ!」


 グラハムの言葉を聞いたベラリルの顔がひきつる。


「魔王を従えたやつまでいんのかよ…………こりゃボスだけでなんとかなる相手じゃねぇかも知れねぇか…………ここはさっさと終わらせて向かわせて貰うぞ」


「ガーハハハッ! ――――――やれるならな?」


「っ……」


 ベラリルは目の前に佇む漢から放たれるオーラに顔をしかめる。


「くそが……こっちも一筋縄ではいかないか……」


 右手でかかってこいと合図を送るグラハムに、大きなため息を吐いたベラリルは、その顔を笑みに染めた。


「上等だ! その挑発に乗ってやらぁ!」


 ベラリルの身体から赤黒いオーラが立ち昇り、次の瞬間目にも止まらぬ速さでグラハムに殴りかかる。


 グラハムも自身のオーラを全開で受け止め、お互いに殴り合う。


 超高速の攻撃が戦場に爆音を鳴り響かせるが、二人とも止まる気配は全くなく、むしろ楽しそうな笑みを浮かべ、お互いに一歩も引かない。


 数分の殴り合いでも決着はつかず、しびれを切らしたのはベラリルの方だった。


「ちっ、こっちはボスが心配だからよ! これで決めてやら!」


「おう! こい!」


「呪魔術、デモンソウル!」


 ベラリルの身体に赤黒のオーラが纏い、段々と姿形を変えていき、背中に黒い羽と、全身真っ黒い悪魔の姿となった。


 悪魔姿となったベラリルの攻撃は、今までの攻撃と一つも二つも次元を超え、グラハムをたった一撃に吹き飛ばす。


 大きく吹き飛んだ先で姿を現したグラハムは、ボロボロになった身体を覗かせながら、その顔は歓喜の笑みを浮かべていた。


「ここまで戦える相手がいるなど、あの時代ぶりだ! ガーハハハッ! 俺も久しぶり・・・・に本気を出そう! 解放――――――――















 『純白ノ勇者』」


 グラハムの全身が真っ白な光が輝き、その身体に美しいとさえ思える真っ白な鎧や盾、剣の姿を現す。


 勇者を知らしめるかのような真っ白なマントがなびかせ、グラハムは久しぶりに滾る血を抑えられないように笑みを浮かべる。


「この力を解放するのも久しぶりだ! ベラリル! お前は最高の相手だったぜ!」


 グラハムが右手に持った『聖剣』を振り下ろす。


 ――――。


 ――――。


 ――――。


 グラハムからベラリルが立っていた場所が一瞬歪み、次元が切り裂かれる。


 ベラリルを纏っていた悪魔の姿をしたオーラが、一瞬ではじけ飛び、その場で倒れ込んだ。


「心配せずとも、聖剣で人は切れぬ。お前の邪悪なる力だけ斬らせて貰った」


 真の力を解除したグラハムは、楽しそうに大笑いしてクラウドが向かった場所に親指を立てた。




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