第155話 捕虜とメイド
「おかえり~」
「ただいま!」
迎えに来てくれたロクに乗り、シレル王国軍の野営地に戻ってくるとアーシャが出迎えてくれた。
「彼女は手錠に掛けているわよ」
「ありがとう。よく分かったね?」
ロスちゃんにはそう言ったけど、どうやって伝わったのだろう?
「帰って来たロスちゃんが、手錠を咥えたからね。すぐに分かったわ」
手錠を咥えたロスちゃん……ちょっと可愛いかも知れない。
暫くして、右翼と左翼に攻め入ったメンバー達も戻って来た。
誰一人怪我する事なく帰って来て、心から安堵する。
真っ先に飛んできたサリーは、「女の匂いがするわ」と呟いていた。
◇
「気分はどうですか?」
僕の質問に目の前の女性は無表情のまま真っすぐ僕の目を見つめてくる。
「良くも悪くもない感じだ」
捕虜になっているエンド国の人間兵士さんのエリシアさん。
見た目は僕とそう歳も変わらないが、その落ち着きからは長年生きている者の気配を感じる。
「それで? 私を捕まえて何が聞きたいんだ? エンド国の上層部のことでも聞きたいのか?」
「そうですね。それを教えてくださると、とても助かるのですが」
「話すつもりはない」
そう簡単には話してくれないよね。
「では質問を変えましょう」
「…………」
「この武器はどこから手に入れたのですか?」
彼女が使っていた武器――――刀の柄部分を見せる。
「? ただの剣が不思議なのか?」
「いえ、これはただの剣ではありません。これは――――
刀という言葉に、エリシアさんは顔色一つ変えないが、オーラが激しく揺らいだ。
ここまでオーラが揺らいだのに、表情が変わらないなんて、凄い人だなと思う。
「いや、私も初めて聞くが……?」
「分かりました。そういう事ならそういう事で構いません」
「…………」
「ではもう一つ聞きましょう。貴方は『呪怨砲』の性能を知っていて使う事をためらわなかったのですね?」
「…………ああ」
「エリシアさんが人の命を軽く思うとは到底思えません、どうしてあれを使ったのですか?」
「ッ! お前に私の何が分かる!」
やっと怒りの感情を見せるエリシアさん。
「僕は貴方がどういう方なのかは分かりません。ですが、貴方のオーラは――――あまりにも綺麗なんです」
「くっ!」
「なぜ貴方が人を滅ぼそうとしたのかは分かりません。ですが、これ以上人々を傷つけさせはしません。エンド国は僕達が何とかします。だからそれまでここでゆっくり過ごしていてください」
「…………」
僕は悔しがる彼女を残し、テントを後にした。
「ムーちゃん!」
僕の呼び声に呼応し、目の前の地面が揺れ、その中からメイド姿の小さな女の子が一人現れる。
「主様。お久しぶりでございます」
「ムーちゃん、久しぶり。中々呼べなくてごめんね」
「いえ、私に授けてくださった命がございましたから、それだけで嬉しいのです」
僕はムーちゃんの頭を撫でてあげると、無表情だった彼女の顔が少し緩む。
彼女は土の精霊『ノーム』。
他の精霊達と違い、人の姿になれるそうで、こうして僕に仕えたいと女の子の姿になっている。
通常の姿はただの大きな石なので、ふと見ただけでは普通の石と全く判別がつかないくらいだ。
そんな彼女は、仲間になったときに、ムーという名前をつけてあげた。
現在はベルン領で道路舗装事業を手伝ってくれて、土を平らにならしてくれるおかげで、工事もとてもスピーディーに進んでいる。
「このテントの中にエリシアという敵軍の兵士さんがいてね、エンド国と決着がつくまで付きっ切りで面倒を見て欲しいんだ」
「かしこまりました。拘束は解除しますか?」
「ムーちゃんの判断に任せるよ。剣を持たせるととても強いから気を付けてね」
「はい、主様にまた褒めて頂けるよう精一杯務めさせていただきます」
あはは…………褒めるくらいいつでも出来るし、ムーちゃんの事は、というか精霊達の事はみんな褒めたいと思っているけどね。
ムーちゃんにエリシアさんの事を任せて、僕はカジさんを呼び刀を預けた。
初めての刀を見たカジさんは目から火が出る勢いで興奮して刀を端からは端までなめまわすように眺める。
傷はつけないように分析を頼んで、うちで生産出来る武器に刀を追加するように伝えるとカジさんもとても喜んだ。
父さんとグラハムが集まっているテントに入ると、丁度タイミングよくキロレンさんが召喚で呼んで欲しいとのことで、一度従属召喚で呼び寄せる。
キロレンさんは、戦いの後、すぐにエンド国の内情を調べて貰っていた。
「クラウド様、エンド国の首都を見てきました。意外にも住民達は普通に生活しており、兵はやはり機械人形でした。現在、ボスと言われている者とその下の四将軍のうち三人が首都に集まっています」
四将軍か…………もしかして、その一人はエリシアさんなのか?
「それと王都から少し離れた場所に機械人形が厳重に守っている場所がございました。クラウド様が仰っていた工場というモノで違いないでしょう」
「ありがとう。父さん、あとはアレンくん達がヘルズ国の実情を確認したら、戦力を分けよう」
「そうだな。リーダー格が四人いるから一人はクラウドにお願いするとして、他の三人は誰にするか考えておくよ」
父さんは色々作戦を組み始める。
いくつかのパターンを考えていて、どうなっても対応できるようにしている父さんの指揮能力の高さに息子として嬉しく思えた。
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