第154話 刀を持った女性

「初めまして」


「…………敵に挨拶とは、面白いな」


 彼女の口から綺麗な声による返事が返って来る。


 戦場で戦っている兵達は機械のようで、声一つ出していなかったのに、彼女からは人の気配を感じる。


 何よりも、兵達にはオーラが全くなく、彼女には静かで美しいオーラが見えるのがその証拠だ。


「貴方は人間のようでしたから」


「…………お前はあれらの正体を知っているのか?」


「いえ、予想でしかないんですが、機械・・ですか?」


「…………お前、普通じゃないな? あれを機械人形オートマタと呼ばない人は久しぶりに出会った」


 久しぶりにって……僕とそれほど年齢が変わらなさそうなんだけどな。


「えっと、僕はクラウドっていいます」


「…………敵に名乗るか。まあ、いいだろう。私はエリシア。ここの『呪怨砲』を守るのが役目だ」


 彼女の口から『呪怨砲』という言葉が出た時、一瞬怒りが込み上がる。


「ほぉ…………良い表情をするじゃないか。そうでなければ、ここに来た意味がないという事だ。お前が何を思ってここに来たかは分からぬが、ここに来た以上、私はお前を斬らねばならない」


 彼女はゆっくり刀に手をかける。


 カジさんが鍛冶組を率いて多くの武器を作ってくれて、その武器達は殆ど目に通している。


 その中には一本も存在しない。


 むしろ、この世界に刀が存在している事に驚いた。


 それだけで彼女には聞きたい事が出来たという事だ。



 直後、彼女は抜刀した刀で斬り掛かってきた。


 僕も反撃がてら召喚した神器『紅蓮ノ外套』で刀を防ぐ。


 紅蓮ノ外套は手足のように自由自在に動かせるので、刀を防ぐのも難しくない。


「っ!? 私の刀を防ぐか……」


 一撃で斬れなかったことに驚いたようで、すぐに距離を取る。


 すぐに構えて、次々剣戟を放つ。


 僕が想像していたよりもずっと強い。


 今まで会った中で一番強い人と選ぶなら、間違いなく魔族のグラハムだろう。


 そんなグラハムとも対等に戦えるくらいの強さを感じる。


「まさか私の攻撃が一切効かないなんて……」


「今度はこちらからも行かせて頂きますね」


「っ!」


 軽く右手で彼女を殴ってみる。


 出来る限りゆっくり殴ってみると、思いのほか受けずに避けた。


 避けた場所に風の渦が出来る。


「くっ! 奥義、臥龍閃斬!」


 彼女の刀に真っ赤な魔力が灯り、流れるような剣戟が僕を襲う。


 ペチッ


 彼女の刀を右手の甲で叩く。


 刀身が根本から折れ、遥か彼方に飛ばされる。


「なっ!?」


 彼女の姿勢が一瞬崩れた隙に、もう一度ゆっくり腹パンを決める。


 音なく彼女はその場で気を失った。


「ロスちゃん、ロク、彼女を連れて、アーシャのところまで向かってくれ。捕虜にするから、拘束しておいてね」


【あい~】【了解~!】


 気絶したエリシアさんを乗せ、ロクが本陣に向かった。



「さて……これを普通に壊していいのだろうか?」


 目の前の巨大な『呪怨砲』を見つめる。


 色のテイスト的に赤黒を採用していて、ますます嫌な感じがする。


 まあ、白とか青とかだと、性能と逆転しすぎてるから、ある意味嫌な感じがするかもだけど。


 取り敢えず、一回殴ってみようか。


 右腕にオーラを集中させる。


「炎龍極絶拳!」


 少し本気を出した拳から放たれた火の龍が『呪怨砲』を飲み込むと、一瞬にしてその姿を灰にする。


 意外にも防御性能はそれほど高くないね?


 とにもかくにも、これで『呪怨砲』も壊したんだし、グラハムたちに合流しようか。


 念のため、『呪怨砲』が複数台あるかも知れないから、警戒はしながらね。




 ◇




 数刻後のエンド国。


「なっ!? オートマタ軍が全滅だと!?」


「は、はい……」


「ばかな! あいつらは『呪魔術』で強化しているんだぞ!? それがどうすれば全滅するんだ!」


「わ、分かりません……視察隊からシレル王国軍の旗が近くで見えたとのことで……」


「あんな雑魚国が勝てる訳がないだろう!?」


 激しい怒りを露にする男に、周囲も困った表情をみせる。


「ヘルズ国軍ですら滅ぼした力だぞ!? 一体なにがどうなっているんだ……」


 その時、一人の男が一歩前に出る。


「オートマタ軍が全滅したのは驚きだが、あんなのまた作ればいい。それよりもエリシアと呪怨砲はどうなったんだ?」


「そ、それが……呪怨砲も姿一つ見えなく、エリシア将軍も……」


「何だと!? 呪怨砲のバリアを貫ける存在がいたという事か!?」


「ボス、それが一番やばいかもな。エリシアが帰って来ないって事は、恐らく死んだのだろう。俺達が思っていた以上に、シレル王国軍が強かったのかも知れない」


「そんなバカな…………あんな雑魚国の分際で…………」


「それに付いて、俺の意見もあるが、いいか?」


 ボスと男に、もう一人の男が手をあげる。


「カリー、何か気になる事でもあるのか?」


「ああ。ボスは気にしていないようだが、実は今回の戦争でディアリエズ王国もシレル王国軍側に参戦すると表明してだろう?」


「ディアリエズ王国…………南の大国か」


「あの国が西の魔族を殲滅した事は覚えているか?」


「……」


「今回我々に刃を向けたのは、シレル王国軍ではなく、ディアリエズ王国軍の可能性がある」


「おいおい、ディアリエズ王国が参戦を表明したのは、まだ数だぞ!?」


「その数刻で来たという事も視野に入れるべきだ」


「まじかよ……ボス、どう思うんだ?」


 二人の男がボスを見つめる。


 見える肌は殆ど包帯を撒いているボスと呼ばれている男は、一度深呼吸をし、周りを見つめた。


「カリーの言っている事が正しいかも知れない。それがなかったとしても、何かしらの脅威が俺達に敵対しているのは間違いない。これからその対策を練る」


「ボス。ソロモンという線は?」


「それはないだろう。――――――むしろ、以前会ったとき、強敵が立ちはだかると言っていた。その時に援助・・はいつでもしてくれると言い消えていったからな」


「…………またソロモンの力を頼るのかい? ボス」


「…………場合によっては、だな」


 ボスは今一度、ソロモンが残したネックレスを見つめる。


 いずれ使う事になるかも知れないと思いながら。

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