第149話 大災害の日
秋はクラスメイト達と課外授業に出掛けたり、みんなの訓練を見てあげたり、後輩達の訓練も見てあげたりして、気付けば雪が降る季節になっていた。
そういえば、アイラ姉ちゃんに会いに行く行くと思いながら、お互いに忙しそうだからやめておくことにした。
冬になって真っ先に行うのは、ずっと準備していた『ホワイトロスちゃんセット』の販売である。
真っ白なコートに、ロスちゃん帽子に、ロスちゃんの身体に似せたバッグは、開け口がロスちゃんの頭の形をしている。
遠くから見ると、頭にロスちゃん、手にもロスちゃんを抱いているように見える。
これが意外とサリーのような少女だけでなく、母さんのような淑女にもとてもお似合いだった。
可愛さだけでなく、美しさを目立てさせてくれるのは『ホワイトロスちゃんセット』の力だと思う。
そして、販売の日。
王都で販売する『ホワイトロスちゃんセット』は、ワルナイ商会王都支店で販売する事になっている。
それはいつもと変わらずに同じだ。
その日は、念の為に僕達も立ち会う事にしていた。
そして、僕の前に広がる光景はとんでもない光景だった。
今回は貴族訪問販売も行わない。
それもあってか、貴族や平民に、メイドさん達が店の前からとんでもない長蛇の列で並んでいる。
あまりにも並んでいるので、列は広場のお店から広場を一周した上にそのまま続き街王都の入口にまで続きて、そこから折り返して違う入口に並び続けている。
あまりの長さに職員だけでは列を守れなくて、王都の兵士さん達も大急ぎで参戦した。
王都全ての女性が集まっていると言っても過言ではない。
それにしても列に割り切ったり、喧嘩する人も出ると思ったんだけど、全くそんなことがない。
意外にもみんな仲良く並んでくれている……?
「クラウド。うちは列に割り込んだ人とか、喧嘩したお客様には二度と販売しないってルールがあるのよ?」
そのルールって、ちゃんと守られているんだ……。
最初販売した時に、列が酷い事になっていて、それを防ぐために流れで決めたルールだったんだけど、意外にもちゃんと守ってくれて嬉しい。
「それにしても、王都の全ての女性が並んでいる気がするね」
「そうね……貴族の方々もそうだけど、どうやらメイドさん達も休暇を貰ってまで買いに来たみたいよ?」
「えっ!?」
「三点セットであの値段はとても安いから、今日手に入れたいと思っているみたい。うちの商品のおかげで給金の差とか、身分の差もなくなって来てるみたいだから、メイドさん達にも大人気なんのよ」
「そ、そっか……」
思っていた以上にうちの商品の需要は高いみたいだね。
最近商会に集まっているお金の量もとんでもない額が集まっているし、当たり前なのかも知れないね。
それにしても、この貯まったお金をどう使うべきかも考えていかないといけないかもね。
アーシャとそんなやり取りをしていると、遂に店舗が開き、店舗の奥に山のような『ホワイトロスちゃんセット』が見えると、待っているお客様達から大きな歓声があがる。
それに呼応するかのように、店舗は見えないが歓声を聞いた並んでいるお客様達も歓声をあげ、王都中が歓声に包まれる。
少ししてサリーの可愛い声で「まもなく開始します~」「在庫は沢山あります~」と王都中に木霊する。
うちの職員だけでなく、王都兵士さん達の協力もあり、ゆっくりと列が進み『ホワイトロスちゃんセット』がどんどん売れて行く。
買って行く女性達はみんなが嬉しそうに笑顔を浮かべて買ってくれた。
アーシャだけでなく、洋裁組の頑張りがないとこんなに売る事が出来なかった。
これも全てベルン領の領民達のおかげだね。
年が明けたら、領民達に何か還元してあげたいな。
夏に開かれるプールは領民優先にしたり、税金を免除したりと父さんに色々相談してみよう。
『ホワイトロスちゃんセット』が売り出された日は、王国全土で女性達が一か所に集まるとんでもない日となり、のちに王国で『ラウド商会大災害の日』と呼ばれるのだが、それはまだ僕が知らない話だ。
◇
次の日。
王都の屋敷にとある方が訪れてきた。
「宰相様! 土下座はまずいですよ!」
「クラウド様…………どうか、今度は色んな場所で販売してくださいませ! このままでは王国が潰れてしまいます!」
「ええええ!?」
その後、宰相様から昨日の『ホワイトロスちゃんセット』発売日に起きた色んな被害を話してくれた。
兵士さん達の非常出勤から何やらと、金額で解決出来そうなモノは、ラウド商会から出す事にした。
そもそも王国にとんでもない迷惑をかけてしまったので、こちらでも出来る事は頑張るつもりだ。
◇
『ホワイトロスちゃんセット』が大ヒットした今年の冬。
冬の終わりが見え始めた頃、今年の学年も終わりに近づいてきた。
今年こそは、うちに入りたがる生徒も少ないはずだ。
はずだ…………。
なのに…………。
「宰相様…………」
今年、三度目の宰相様の土下座。
「クラウド様ぁああああ! このままでは王国が潰れてしまいます! どうか……どうかバビロン学園の生徒達を説得してくださいませ!」
「ええええ!? また内定申請書出されてないんですか!?」
「そうなのです! 一人も……たったの一人もありませんでしたああああ!」
「ええええ!? どうして!? ティナ? 何か知らない?」
僕達を優しい目で見つめているティナに聞いてみる。
「知っているよ?」
「えっ? どうしてなの!?」
「ベルン領に就職すると、ラウド商会の新商品をいち早く買えるし、王国よりも給金が高く、
「…………母さんの手料理……」
「お義母様の手料理はとんでもない破壊力だからね~」
何となく納得してしまった……。
宰相様に申し訳ないけど、それを説得しろは難し過ぎると思うんだが……。
「このままでは王国の人材不足で、どんどん廃れてしまいます! クラウド様は我が国を潰す気でございますか!?」
「宰相様、お言葉ですが、彼らを説得するほどの給金や待遇で応じるべきです! 私達のせいにされても困ります。あまり無理難題を仰るのでしたら、お父様にご相談させていただきます」
「ティナ!? お、落ち着いて!?」
珍しく怒るティナに、宰相様は遂に大泣きしてしまった。
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