第148話 恋バナ

 夏は色々開発やらで時間が通り過ぎて、三月…………つまり、秋がやってきた。


 秋は暑すぎず、涼しい風が気持ち良い季節となる。


 この季節はゆっくり景色を眺めながらのんびりする人が急増する。


 そんな季節に、ベルン領で全面出資して作られたエグリオさんの『ペンション』一棟目が完成したとの事で、真っ先に泊まりにきた。


 真っ先というか、来年の春までは僕達のみ宿泊可能となっている。




「凄い~! お兄ちゃん! ここから見える景色がとても綺麗だよ~!」


 珍しくサリーがはしゃいでいるのは、ペンションの広いバルコニーから見える広いベルン領の景色である。


 南方向の綺麗な平原から森が一望出来るように作られたこちらのペンションは、これから複数棟立てて、沢山の家族や集団が泊まりに来るに違いない。


「それにしてもイアにライアもそうだけど、レーラさんとキルアさんも久しぶりですね~」


 スロリ森を管理してくれているドライアードのイアとライア。


 それにハイエルフ族の代表としてレーラさんが、ダークエルフ族の代表としてキルアさんが頑張ってくれている。


 本日はティナに誘われて、二人も駆けつけてくれたのだ。


「え、ええ! 久しぶり~クラウドくん」


 時々ベルン領に戻った時に軽く挨拶を交わしてはいたけど、お互いに持ち場だったり目的が別な場所にあったので、こうして面と向かってゆっくりするのは、一年ぶりかも知れない。


「クラウド様。本日は誘って頂き、光栄でございます」


 すっかり物腰柔らかになったキルアさんだ。


「キルアさんもうちの先輩達を受け入れてくださってありがとうございます。いつもベルン領を守ってくださって助かってます!」


「ッ!? は、ははっ! 光栄でございます!」


 大袈裟に喜びを露にするキルアさん。


「き、キルア……大袈裟だよ……」


「クラウド様に褒められる事など、そうそうないのだ……少しくらい喜んでいいだろう……」


「もぉ……クラウドくんが困っているからそこまでにしてよね」


「わかった……」


 あはは……僕ってそんなに褒めていなかったっけ……ちょっと反省しつつ、今度はちゃんとみなさんを労う日を作った方がいいのかも知れない。


 そんなやり取りをしていると、向こうから美味しそうな匂いがしてくる。


 向こうで手を振るアーシャ。そろそろご飯の時間だよって言う感じだな。


 僕は二人と連れて、バーベキュー場に向かう。


 沢山の家族が並んで、みんなが笑顔で飲み物や食べ物を食べている。


 こういう幸せな時間がいつまでも続いたらいいね。




 暫く楽しい時間を過ごしていると、ふとティナがレーラさん達と話し始めた。


「レーラさん。一つ聞いてもいい?」


「ティナ様、どうぞ?」


「ふふふっ、どちらから告白したの?」


「え、え、えっと…………その…………一応向こうからですけど…………こう何と言いますか、結果的に私が近づき過ぎたせいでもあるんですけど……」


「レーラさんは最初から気にした感じではないの?」


「はい。元々クラウドくんから授かった精霊様の話で色々相談していたんです。私も彼も召喚した精霊様はまだ顕現し切れていないので、よく相談していたんです」


 レーラさんとキルアさんの恋愛話しに女子たちが群がり始める。


 ティナはもちろんだけど、母さんとアーシャ、サリー、アリアさんも食いつきが凄い。


 そういや、レーラさんもそうなんだけど、アイラ姉ちゃんは元気にしているのだろうか?


 僕達というか、アレンくんが入学してしまって、護衛から一時期外れてしまって一年以上会っていない。


 近々会いに行ってみようかな?



「キルアさんかっこいい!」


 どうやらキルアさんが告白した時の話らしい。


 女性陣が盛り上がっている間に、僕は男性陣のところに逃げ込んだ。


「クラウドも大変だな」


「ふう……」


「そういえば、クラウドに聞いておきたい事があるんだけど、いいかい?」


「うん? どうしたの? 父さん」


 珍しく父さんが真剣な表情で見つめてくる。


「今年の卒業生から、うちに入る人は減るのよね?」


「えっと……大丈夫だと思うよ。たぶん」


「たぶん…………」


「あはは……前回はヴィアシル先輩のせいだから~」


「まあ、それはそれでいいか。もう一つ聞いていいかい?」


「どうぞ?」











「ディナ令嬢とアーシャ令嬢といつ式をあげるんだい? そろそろ準備しておいた方がいいと思うんだけど」




 …………。


 …………。


 …………。


「クラウド? あちゃ……また固まったか……」




 ◇




「……くしゅん!」


「あら? アイラさん、風邪なの?」


「う~ん、そんな事はないと思うんだけど、誰か私の噂でもしているのかな?」


「ふふっ、アイラさんは可愛いからね」


「シスターミルスは口が上手なんだから~」


「あら、本当の事よ? 同じ聖騎士様達の中でも大人気だし、他の方々もいつも遠目で見つめているわよ?」


「はぁ…………」


「ふふっ、あのお方からは連絡はこないの?」


「………………ぅん」


「大丈夫。アイラさんはちゃんと可愛いから。次会った時、ちゃんと想いを伝えた方がいいと思うわ」


「お、想いだなんて! わ、私は別に…………」


「あら、でも彼ってそろそろ結婚するんじゃ……?」


「………………うん。たぶん……」


「ではその前に後悔しないように、伝えておくのは大切だと思うわ。奥様達とも仲良いんでしょう? 一度相談してみるといいと思うわ」


「…………今度会えた時に……頑張る…………」


 アイラは自分の想い人が会いに来る日を今か今かと待っているのである。

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