第147話 冒険者ギルドと鍛冶組

 夏も予定は順調に進み、ラウド商会はますます繁栄を続け、『洋裁組』の人数も確保の為、王国全土から手先が器用な人々を募ると、意外にも応募者が沢山いた。


 張り出した瞬間から数時間で定員をオーバーしてしまったけど、手先が器用は人は中々見つける事が出来ないので、オーバーした人数も試験を突破出来た人は全員雇う話で進んだ。


 さらに水面下で進んでいた『鍛冶組』も、冒険者にターゲットを移し、良い武器を出して高評価を獲得すると、冒険者ギルド本部から冒険者ギルドと協力して武器を納めて欲しいと提案があった。


 本来ならこういう独占にも近いやり方は拒否するのだが…………。




 その日の執務室。


 僕達の前にはちきれんばかりの筋肉のおじいちゃん一人と、細マッチョで爽やかなイケメンなお兄さんが一人、少し年齢を重ねたけど美しい面影が残っているおばあちゃんが一人の計三人が僕の前に土下座をしている。


「み、みなさん! 土下座はまずいですよ!」


「いえ、クラウド様。我々は多くの冒険者たちの命を預かっている身。ベルン領から生まれる武具は安くて素晴らしい性能を誇り、その上下の幅もとても広い。それに『神器』を作りし鍛冶師が二人も所属していて、なお今でも精力的に活動している鍛冶場なんて聞いたこともありません。どうか、若い冒険者たちがこれからの安全のために武具を卸して頂けるまで、この老体はこの場から動くつもりはありません!」


 他の二人も同じ意見のようで、頭を深く下げて土下座している。


 この三人。


 ディアリエズ王国の冒険者ギルドを纏めている総帥さんで、女性の方が副総帥、若い方が冒険者ギルドマスターの代表である。


 冒険者ギルドは王国に属してはいるが、決して王国とは関わらず、王国民の為に存在するという理念がある。


 王国も依頼を出す際、正当な金額で依頼を出さないと見向きもされない。


 そんな事もあって、王様と同等の力を持つと言われている総帥と副総帥。


 王国の冒険者を取りまとめているとても大切な方々なのだ。


「ですが、それは独占販売に繋がりかねません。それでは僕達ラウド商会の理念に反します」


 ラウド商会は、良いモノをより安く広く・・提供する事が理念となっている。


 アーシャがクテアブランドを立ち上げた時に、ラウド商会はそうなるべく動き始めた。


 既に素材を卸しているペイン商会とワルナイ商会にもその事は伝達済みで、両商会も決して法外な値段にして売り出したりはしていないのは、時々直接確認している。


「それに関してはこの老体にお任せください。決して冒険者ギルドが得をするようには致しません。それに我々は冒険者達が安全に帰ってこれて、より生存率をあげれば自然と利益も上がります。ですのでクラウド様が卸してくださる武具に関しては一切の利益は求めません。クラウド様が指定する値段で出してくださっても良いです」


「わたくしからも一つ提案させてくださいませ。クラウド様はラウド商会を週に一度、ペイン商会やワルナイ商会の支店内で開かれていますね? では我々冒険者ギルドにも定期的にめぐって頂くことは出来ないでしょうか! 各町に移動する間の護衛は冒険者ギルドが全力でお守り致します!」


「クラウド様。私も長年冒険者ギルドに所属しておりました…………私の手の届かない場所で多くの命が失われています。それも戦いの最中に武器が折れたり、若いモノが武器を維持出来ない収入しか得られず、無理をして命を落とす者を幾人も見て来ました。今でこそ我々の代でそれを出来る限り食い止めていますが、夢を追う冒険者達にとって、一発当てたいという願望を消すことはできません。それなら我々が出来るのは、よりよい武器をより安く提供出来るように頑張りたいのです」


 三人からそれぞれの想いを聞き、その心に嘘偽りがない事が、三人のオーラが証明している。


 それに歳も遥か低い僕に迷わず土下座をして、頭を床に付けている当たりがその必死感や誠意が伝わって来る。


「クラウド、一ついいかな?」


 一緒に聞いていたティナが話す。


「たしかに冒険者の皆さんが危ない目にあって、帰らぬ人になったり、もう二度と働けない身体になった方も沢山見て来たわ。エグザ領都の冒険者ギルドに回復で何度か応援に行っていたから、彼らは決して嘘を言ってる訳ではないと思うわ。それに――――」


「それに?」


「お父様は、冒険者ギルドが依頼を受ける時、必要最小限の額で依頼を受けていると仰っていたわ。冒険者ギルドは私利私欲を働いていないから、もしも将来困ることがあるなら、冒険者ギルドを頼りなさいと言われていたの」


 辺境伯様も認めている冒険者ギルド。


 そんな彼らに手を差し伸べる事は、ひいては多くの民の為になるかも知れないね。


「分かりました。ですが、いますぐ返事は出来ません。近日中に何かしらの返事を致しますので、それまで待っていてください。悪いようにはしませんから」




 そんな感じで冒険者ギルドの依頼をカジさんと相談の上、無理のない範囲で王国内の冒険者ギルド内部で武具を販売する事を決めた。


 武具を生産していると、成功作品が生まれる中、失敗した作品が生まれる。


 全く使えないわけではないが、本来の7割の力しか発揮できない。


 冒険者ギルドにはこの失敗作・・・を格安で卸す事にした。


 さらに、武具というのはその人に合ったモノを使えば、本来より十二分の力を発揮できる。


 なので、鍛冶組のが一緒に販売に回り、格安で『オーダーメイド』を受ける事にした。


 これでほぼすべての冒険者は『オーダーメイド』を作るはずだろうし、それが完成する間に失敗作を使って待つ事になるだろう。


 それとうちの失敗作だけど、これでも王都では上のグレードの品だとの事だった。

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