第142話 課外授業(狩り)の結果

「えっと…………やっぱりクラウドくんが一番多いわね」


「…………」


 僕の前に積まれているホワイトラビット。


 全てロスちゃんが倒してくれたものだ。


「お兄ちゃん凄い! サリーも沢山捕まえたけど、流石にこれには勝てないよ~」


「兄さん、本当に凄い! あのすばしっこいホワイトラビットをこんなに!」


 サリーとアレンがべた褒めしてくれる。


 それもそうで、三つのパーティーが捕まえて来てくれた量より、僕の前に積まれているホワイトラビットの方が三倍は多い。


「クラウドくんって本当に凄いんだね……見つけにくいホワイトラビットをこんなに……」


 違うんだアリアさん……。


 勝手に来てくれたんだよ……。


「長年冒険者生活をしているけど、珍しい魔物をこんなに簡単に捕まえられるのはクラウドくんくらいだわ」


 先生……だから勝手に…………。


「お師匠様のお兄様って、噂以上に凄い方ですね!」


 ミロさん……その噂が気になるけど、何もしてないんです……。


「クラウドくん、ベルン家で錬金術師は雇ってない?」


 エルダーさん!? それは一番ダメだからね!? 今年こそ生徒達を王国に仕えるようにお願いしなくちゃ……。


 約一名、積まれているホワイトラビットに目を輝かせて「うちのクラウドは最高ね!」と呟いている。




 みんなが捕まえてくれたホワイトラビットと僕の前に積まれているホワイトラビットをスロリ街に送った。




 ◇




「おかえりなさいませ、ホワイトラビットは捕まえるのも大変だったでしょう」


 宿の支配人さんが出迎えてくれる。


「え? えっと……」


「ホワイトラビットを捕まえられなかったと恥じる事はありません。熟練なハンターでさえ、月に一頭しか捕まえられないので」


 どうやら僕達が手ぶらで帰って来たから、勘違いしてくれたみたい。


 こういうフォローもしてくれる当たり、とても良い支配人さんだ。


「ありがとうございます。本当に大変でした」


 色んな意味で大変だったのは間違いないからね。


「それはそうと、支配人さん」


「はい? 何でしょうか」


「ホワイト森に生えている木々って、買う事も出来ますか?」


「ホワイト樹木ですね。残念ながらあの木々は伐採が禁止されております。皆様にも事前にお伝えしたように、狩り中も木々を倒さないようにお願いしたのは、そういう理由がございます」


「そうだったんですね……残念」


「あの木々は高い魔素を含んだ地域じゃないと育ちませんから、この一帯でたまたまああやって広がっているのです。木々を売る事は出来ませんが、手に入れる方法なら一つだけございます」


「本当ですか!?」


 あの白い木々は、庭に植えたらよいアクセントになりそうだなと思ったから、幾つか持って帰りたいくらいだ。


「ええ、ホワイト樹木は持って行けませんが、ホワイト樹木の種ならお売りする事が出来ます」


「種!」


「はい。それもとても安価ですので、もし必要でしたら、明日の朝まで準備してお渡ししましょう」


「ぜひお願いします!」


「かしこまりました。育つまでは数年がかかったり、場所によっては強い魔物に倒されてしまいますので育てるにはご注意ください。では明日の朝までに用意しておきます」


 樹木は駄目でも種を手に入れられれば、ベルン領で育てる事が出来るかも知れない。


 支配人さんに礼を言い、宿泊フロアに上がって来ると、アーシャが興味ありげにホワイト樹木について聞いて来たので、アーシャのために庭を彩らせる選択肢のためだと答えると、凄く喜んでくれた。


 そして、僕達は美味しい夕飯を食べ、休もうとした矢先、皿を片付けてくれたメイドさんから「支配人からぜひお会いして欲しい方がお見えになっておりますが、いかがなさいますか」と言われたので、種の事もあって、支配人さんの顔を立てておこうと思い、承諾すると一階の奥にある貴賓室に案内された。


 中に入ると、貴族の服を身に纏っている男性がソファーに座り待っていた。


 一度立ち上がり、小さく礼をしたので、礼を返し僕もソファーのところに移動する。


「初めまして、クラウド・ベルンと申します。こちらは婚約者のティナです」


「本日は急な訪問、大変失礼する。俺はバイス町を始めとする周囲の地域を任されているエイ・オルエンゴ子爵という」


 やっぱり貴族様で、地域を任されている子爵なら、うちと似た感じかも知れないね。


 挨拶を終えたので、僕と子爵がソファーに座り、僕の後ろにティナが立ったままになっている。


 貴族との話し合いの礼儀で、こういう並びになっている。


「それで、オルエンゴ子爵様がどうして僕なんかに?」


「ふむ。実は町でそちらの婚約者さんが穿かれているスカートが噂になっていてな。一目見たいという事と、それについて聞いて見たくてね。この一行のリーダーは先生ではなく、生徒である其方だと聞いていたので、お願いしてみたのだよ」


 ふむふむ。ミニスカートが気になるのか。


「既に僕の正体は知っておられると思いますが、ディアリエズ王国のバビロン学園から課外授業でこちらに来ました。こちらは現在王国で人気になっている『ミニスカート』という商品で、ラウド商会から販売しています」


「ラウド商会……あまり聞かない名だな?」


「あはは……まだ地方の弱小商会ですから」


「弱小商会の商品が王国で人気か…………其方はその商会と繋りがある感じに伺えるが?」


「えっと、そうですね。うちのベルン家の商会ですので」


 そう話すと子爵様の顔が驚きに変わる。


 まさか目の前の生徒が直接関わっているとは思わなかった素振りだ。



 子爵様はすぐに現状を理解したかのようで、ラウド商会の支店を出さないかと打診を受けたけど、ラウド商会はあくまでベルン領にしか店を構えない方針だからと丁重に断りを入れた。


 それならばと、直接買いにベルン領に行きたいとの事だったけど、意外にもガロデアンテ辺境伯様はこの国の商会を王国内部には通さないそうで、王国境目の町にある商会で販売出来るか検討してみますと伝えるととても喜んでくれた。


 本来ならホワイトラビットの皮を条件に出しても良かったんだけど、既に数年分のホワイトラビットを捕まえたので、その案は出さないでおいた。

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