第141話 ホワイト森
うちの王国の町を出て、シレル王国との境目を通り過ぎて、道の先にある大きな町が見える。
二つの町は目と鼻の先で、王国領の境目にもなっていて、交易も頻繁に進んでいるはずだ。ただ魔族の件が片付いて、兵士達の雰囲気はピリピリしている感じだ。
僕達が町に入る時、バビロン学園生徒証を見せると、兵士さん達が露骨に喜んでくれる。
凄く歓迎されているのは理解出来た。
それにイレイザ先生も有名なようで、イレイザ先生も歓迎されているのが分かる。
ただ、僕達の目的はここではなく、ここから東に進んだ場所になるホワイト森だ。
そのまま馬車を走らせ、ホワイト森の手前にある『バイス町』に辿り着いたけど、今日はもう夕方なので、町で一泊していく事にした。
珍しい馬車というのもあり、町の多くの人達が一目見ようと集まっていて、降りてきたティナ達に大きな歓声をあげた。
まだ世界に浸透していないミニスカート。
馬車から次々美しい女性がミニスカートで出てくると、町の女性達から黄色い声と、男性達はニヤニヤしながら大半が鼻血を流し夢中になって見つめていた。
「ディアリエズ王国のラウド商会をお願いします~! クテアブランドのミニスカートが販売中です~!」
ちゃっかり大声で宣伝するティナ。
他国で宣伝しても良いのだろうか? と思いながら、サリーとアーシャも大声で同じく宣伝をして、本日泊まる予定の宿屋に入って行った。
この町で一番の高級宿らしく、幻想的なホワイト森を主軸に観光名所となっているこの町だからこそ、王都の高級宿に負けないくらい豪華な宿で、アーシャの意見により最上階のフロアを貸切る事にして、他の客の立ち入りを禁止してくれと頼むと、宿側も快諾してくれた。
王族だったり、貴族が泊まる事もあるらしく、セキュリティもしっかりしていて、宿側も慣れた動きを見せる。
部屋に着いて少しすると、数々の郷土料理が運ばれて来て、くどい説明はなく、紙に料理名やどの地名の郷土料理なのかが書いてあった。
これも気に入られるようにとシレル王国の狙いなのだろうとイレイザ先生が話していた。
最上階に設置されている各部屋にはテラスが作られていて、そこから広いホワイト森の眺められる。
夜なのに、月明かりで照らされた真っ白なホワイト森は、素晴らしい幻想的な雰囲気だ。
「綺麗だね、クラウド」
「そうだな。向こうにロスちゃんがいても全然気づかなさそうだね」
「ふふっ、ロスちゃんも白くて可愛いからね」
ティナとベンチに座って、ティナの膝の上に乗っているロスちゃんを優しく撫でる。
「先日スロリ街に行った時、ヴィアシル先輩達に会ったよ」
「ヴィアシル先輩は警備隊に配属されたんだっけ?」
「うんうん。早速警備隊副隊長に任命されたみたいで、キルアさんと一緒に活躍していたよ~」
ああ見えて、ヴィアシル先輩はとても強いし、頼りにもなる。
バビロン学園学年トップの成績で終えているので、とても力になるはずだ。
「先輩達がベルン領で活躍してくれたら、後輩としても嬉しいな」
先輩達の現状をティナから教えて貰いながら、深まる夜景を楽しんだ。
◇
次の日。
「さて、本日は予定通り、一日中ホワイト森でホワイトラビットを狩るわよ! 目標は皮を傷つけずに、極力傷なしで捕まえる事! 今日のみんなの働きで、クラウドくんの力になるんだから、頑張ってね!」
「「「はいー!」」」
先生!?
課外授業でしょう!? 僕のためになるってどういう事!?
すぐに各パーティが散っていった。
アーシャとアリアさん組はイレイザ先生と三人で出てしまって、僕だけ一人残された形だ。
「あれ……? 僕の相棒は……ロスちゃんか!」
【あい~ご主人、よろしく~】
緩く返事するロスちゃんだけど、珍しくやる気に満ちた目をしている。
現在はホワイト森の西側になる。
ここからみんなでそれぞれ方向に散っているね。
アーシャ達が東側に、ティナ達が南側に、エルドくん達が北側に向かった。
僕とロスちゃんはこのまま入口付近の西側になるかな?
ゆっくり歩いていると、向こうからホワイトラビットが見える。
「よし、ロスちゃん! いつも……の…………咆哮…………えっと」
【うん~】
「ごめん、お願いしていいかな?」
【いいよ~それと、気にしなくて大丈夫】
「…………」
【あの子達も喜んでる。ご主人のためになるから。人と感覚が違うから大丈夫】
「そうか…………ごめん。お願いします」
【あい~】
僕を見つけたホワイトラビットは近くに来て、そのまま跪く。
近づいたロスちゃんの緩い咆哮でその場に倒れ込んだ。
既に息絶えているホワイトラビットを見て、複雑な心情だけど仕方ない。
魔物はいずれ魔素からまた生まれるので、大丈夫だとロスちゃんは言っていた。
ただ、僕としては全く反抗しない魔物を一方的に倒すのに、小さな良心が揺れ動いている。
他のみんなにお願いしたままの方がいいかな?
と思っていた――――――のに。
地平線が真っ白な色に染まり、真っすぐ僕の前に飛んできて跪いてきた。
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