第139話 試作ロスちゃん帽子

「はい、本日の課外授業は終わりです。みなさんお疲れ様でした」


 引率してくれたイレイザ先生の激励に、メンバー全員喜ぶ。


 学園の中でも随一の人気者である先生に合格点を貰えたら、そりゃ嬉しいよね。



 森を出る間も、襲ってくる魔物をみんなで協力して倒した。


 僕とアーシャは、普通のロングソードでトドメを刺す役しかしてないので、戦いにあまり参加していない。


 みんなも僕達の力をある程度知っているからか、何も言ってはこなかった。


 森を出る事には、昼過ぎになり、学園まで馬車に乗り込み、数時間程揺れる間、ずっとロスちゃん帽子の事をアリアさんと話すアーシャを横耳に時間を過ごす。


 エルダーさんも少し興味深そうに聞きながら、意見を話したりすると、ガールズトークな感じで三人で盛り上がっていた。


 僕達男性陣はアリアさんの頭に乗っているロスちゃんに癒されながら、馬車に揺られた。




 王都に着いて直ぐに解散となり、僕達はそのまま帰宅した。


 アーシャがウキウキしていて、何処かに寄るなんて事は不可能に近かった。


 家に帰ると、サリーとティナ、アレン、エルドも課外授業を終わらせたようで、丁度近いタイミングで帰って来たみたい。


 すぐにロスちゃんをティナの頭に載せて、アーシャが絵を描き始めると、サリーも獲物を見つけたようにアーシャに交じってロスちゃん帽子の案の練り始めた。



 それから数日後。


 試作ロスちゃん帽子一号が数点やってきた。


 一つは持って来てくれた母さんの頭の上。


 他の帽子はそれぞれサリー、ティナ、アーシャ、アリアさんの頭に被せられる。


「本当にロスちゃんが頭に載っているみたいだね」


「ええ! 質感も最高ね! これも『洋裁組』のサイちゃんのおかげね! 彼女の抜群な選別眼のおかげで、ロスちゃんの質感にとても近づけたわ!」


 サイちゃんというのは『洋裁組』のリーダーをしている魔族の女性の事だ。


 アーシャの一番弟子になっており、彼女は類まれない選別眼を持っていて、注文した質感の素材を探せる。


 スロリ街の『洋裁組』には、現在世界で手に入れられる全ての素材が集まっているので、その中から質感で探す事は、彼女にとって造作もない事だ。


 女性陣が頭にかぶっているロスちゃん帽子を触ってみると、本当にロスちゃんの触感に似ていて驚いた。


「ロスちゃん」


【あい~】


「えっと、みんなの頭にロスちゃんの姿を模した帽子が載っているけど、ロスちゃんは嫉妬したりしない?」


 僕の質問に、ロスちゃんよりも反応したのは、言うまでもなくアーシャだ。


【いい~、私が本物だから、ご主人だけ本物~】


「あはは……ロスちゃんらしいね」


「クラウド? ロスちゃんは何て言ったの? 怒ってたりしてない?」


 心配そうに話すアーシャ。


 きっと、無我夢中で作ったはいいけど、実物であるロスちゃんの許可は取ってなく、僕から言われて初めて気づいて心配になったみたいだ。


「あ~大丈夫。ロスちゃんから、自分が本物で、僕の頭に載っているのが本物だから嫉妬はしないらしい」


「良かった…………ロスちゃん。ごめんなさい。ロスちゃんに相談もしないで作ってしまったわ」


 ロスちゃんの頭を優しく撫でると、片前足をあげて【あい~】と答える。


 聞こえてはいないだろうけど、苦笑いを浮かべつつも、ロスちゃんの許可を得れたので、一安心するアーシャ。


「しかし、ロスちゃん帽子は温かそうだね?」


「そうね。素材がこの通りだから、保温性が高いし、寧ろとある魔物の素材だから、頭にかぶっていると温かくなるわね」


「って事は、夏は微妙なんだね」


「!? ………………」


「でもこれなら冬用に白いコートに合わせれば、ロスちゃんに似せた白いバッグも一緒に持たせたらとても人気が出そうだね」


「!? それね! ありがとう! クラウド!」


 アーシャが抱き付いて来る。


 余程嬉しかったんだろう。


「わたしも~」


 と言いながら、ティナも横から抱き付く。


「え! サリーも!」


 今度はサリーが逆側の横から抱き付く。


「ふふふっ、あら? アリアちゃんは行かないの?」


「へ!?」


「ふふふっ、こういうのは早い者勝ちだよ? 母さんも頂こうかしら~」


 今度は後ろから母さんが抱き付く。


 な、なんだこの、人達磨状態は!


 父さんやアレンくん達が腹を抱えて笑い転げた。




「こ、今度は行くわ…………」


 ボソッとアリアさんがそう呟いた気がした。




 ◇




 その頃、とある王国。


「くっくっくっ、バカなやつらめ。千載一遇を逃すとは、面白いやつらだな」


「ボス、あいつらにそんな頭がある訳ないでしょう~」


「それもそうだな。ヘルズ王国の馬鹿共に最後の花火を見せてやれ!」


「あいさ!」


 傷だらけで包帯を撒いている男が告げると、小さな身体の男の子が嬉しそうに飛び跳ねながら去って行く。


「くっくっくっ、これで長年めんどくさかったヘルズ王国もお終いか」


 男の怪しい声が部屋中に響き渡る。


「おろおろ~随分と派手に遊んでいるみたいですね~」


「…………何の用だ」


「ちょっと冷たくありません~?」


「もう貴様らに借り・・はないはずだが?」


「まあ、そう構えないでください~僕達のじゃないですか」


「…………おい、貴様。セスリオンではうちの者も流しておいて、仲だ?」


「あ~あれは残念な事故・・でしたね~」


「くっ! ふざけるな!」


 男の剣が、不思議な仮面の男に振り下ろされる。


 仮面の男がそのまま剣を受け、真っ二つになりその場に落ちる。


「あははは~そんなに嫌わないでくださいよ~だってああしないと貴方達が苦労すると思ったんですよ~」


「いらないお世話だ!」


「ふふふっ、これはサービスですが~、まもなく貴方の強敵が立ちはだかりますよ~その時、どうしても力が足りないときは、このネックレスで僕達を呼んでください~」


「…………」


 二つに分かれた仮面の男はその場で灰となり消え去った。


 灰の跡には、不気味な色に輝く黒いネックレスが一つ置いてある。


「ちっ…………『ソロモン』め…………」


 男は消えた灰からネックレスを取り上げて、懐にしまいこんだ。

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