第138話 寝ても覚めてもファッション

 イレイザ先生の過去話が終わった頃、泣き疲れたようでアーシャと共に眠りについた。


 僕もアギラくんと交代して貰い、眠りについた。




 ◇




 ――――――ま。


 ん? 誰か呼んでいる?




 ――――ド――――ま。


 誰かが僕を呼んでいる気ががする。




 ――――ウド――――さま!




 ◇




 誰かに呼ばれた気がして、起きると見慣れない天井だ。


 ゆっくり昨日の出来事を思い返すと、野営していた事を思い出す。


 外に出ると、日の出が始まっており、焚き火の前には最後の夜番のエルダーさん達が出迎えてくれた。


「クラウドくん、もう起きて大丈夫なの? もう少し寝ていいよ?」


 エルダーさんが心配そうに声を掛けてくれる。


「ありがとう。何だか目が覚めてね。多分大丈夫だから。心配してくれてありがとう」


 そう話すと僕の頭の上にいつもの感触が乗って来た。


 その姿に、二人は一瞬引きずった笑顔を見せる。


 アリアさんも込みで、まだメンバー全員がロスちゃんに慣れないようだ。


 こんな可愛い見た目をしているけど、あのオーラを全面的に見せられたらトラウマになるよね。


 もうあれから一年近く経ってるけど、まだ克服出来ないみたい。


「ロスちゃん。見張りありがとう」


 片前足をあげて「あいよ~」と言いたげな表情を見せるロスちゃん。


 慣れない二人だけど、少しは和んでくれたかも知れない。


 僕はロスちゃんを膝の上に載せて、アーシャが用意してくれたカップに紅茶を葉を入れてお湯を注いだ。


 ふんわりとして良い香りが広がる。


 手元に持って良い香りを楽しんでいると、僕が持っているカップにロスちゃんが顔を突っ込んだ。


「ロスちゃん!?」


【おいし~!】


「ええええ!? ロスちゃん、紅茶飲むの!?」


【飲むよ~】


「ええええ! ロスちゃんが紅茶を飲むの、初めて見たよ!?」


【うん~エマに言われて飲んだら美味しかった~】


 母さん…………犬に紅茶を勧めてよかったのかな?


 そんな僕達を見つめていた二人が、大声で笑う。


 少しすると、テントの中からアーシャとイレイザ先生、アリアさん、アギラくんが出てくる。


 きっと笑い声で起きてしまったのかも知れない。


「クラウド? どうしたの?」


「えっと、ロスちゃんがまさか紅茶を飲むと思わなくて」


「あら、本当ね? いつから飲むようになったのかしら? 今度からロスちゃんの分も用意するね?」


 アーシャは紅茶のカップに頭を突っ込んでいるロスちゃんの頭を優しく撫でる。


【あい~よろ~】


 あはは……アーシャに聞こえてはいないだろうけど、伝わったと思う。


 そんな姿を見ていたメンバーも少しずつロスちゃんに対する拒否感が薄れていった。


「ほら、ロスちゃんって可愛いでしょう?」


「そ、そうね。あの時のオーラが嘘みたいだ」


「うんうん」


 恐る恐るロスちゃんを撫でるアギラくんとリンピオくん。


 その姿を後ろから覗き込んでいたエルダーさんも勇気を出して、ロスちゃんに触れると「やわらかい~!」と喜んでくれた。



 野営の片付けをした後、ロスちゃんは何故かアリアさんの頭の上に乗っていた。


「何がどうなってアリアさんに乗っているの?」


「あはは……ガルくんと遊んでいて、私がガルくんと一緒に撫でてあげたら、私に乗ってしまったの」


「へぇーロスちゃんが頭に乗るなんて、僕達家族以外では珍しいね」


「そ、そう?」


【アリアの頭、気持ちいい】


「あはは……アリアさんの頭の上、気持ちいいみたい」


「ま、まあ、それならいいけど。えっと頭の動かし方が難しいわ」


「それなら大丈夫。もう頭に付着してるから、頭を自由に動かして大丈夫だよ」


 そう話すと、アリアさんは頭を優しく右左に傾けてみる。


 ロスちゃんは重力の仕事を完全に無視して、アリアさんの頭の上に付着したままだ。


「凄いね! 何だかくっ付いている帽子みたい!」


「………………!?」


 アリアさんの声に、最も強く、そして一瞬で反応して飛んできたのは、アーシャだ。


「アーシャちゃん?」


「アリアちゃん、こうしてああして、こうしてみて」


「え? え、ええ。分かったわ」


 頭にロスちゃんの載せたまま、アーシャに言われたポーズを取るアリアさん。


 そんな二人を眺めている男性陣が少し鼻の下を伸ばしている。


 アリアさんも美人さんだからね。


 僕はどちらかと言えば、アリアさんの頭の上で眠り目でくっ付いているロスちゃんが気になるというか、とても可愛らしい。


 今までだと、母さんやサリー、ティナ、アーシャの頭の上は見たけど、アリアさんはアリアさんなりの良さを感じる。


 暫くアーシャの注文が続いた後、


「ロスちゃん帽子を作るわ! 人形にもなって、帽子にもなれるからみんなから愛されると思う!」


 と喜びの声をあげる。


 課外授業に来てまで、新しいファッションアイデアを獲得する当たり、アーシャは天性のデザイナーなんだろうなと感動した。


 しかし、


 すぐ次の言葉に、その場にいた僕と男性陣には少し負担が大き過ぎた。





「可愛らしいロスちゃんを模様にして、女子の下着を作ったらそれはそれでありかしら……?」


 いや、ありじゃないと思います。

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