第135話 強敵ブラックボア

「はい、到着地のオゴリオン森だよ~、この森の各地に他のパーティーもいると思うから、鉢合わせになったとき間違って撃たないようにね!」


「「「「はいっ!」」」」


 イレイザ先生の指示で、森を歩き進める。


 今回の目的は森で一日過ごす事であり、野営をしながら一晩魔物がうろついている森で過ごす授業だ。


 森に入ってからは、イレイザ先生は基本的に傍観していて、各組のリーダーであるアリアさんとエルダーさんが作戦を考えて、僕達はそれを見守りながら意見をする。


 渡されている地図に湖のような場所があるので、水の確保のために湖を目指して進む。


 道中、魔物が現れるとアリアさんが連れて来た従魔のガルくんを中心に、アギラくんが鉄球を飛ばしたり、リンピオくんは特殊な能力で相手を遅くしたりしていた。


 珍しいと言われているエスパー能力はアギラくんか。


 リンピオくんは、減速士という能力らいく、魔法ではなく能力自体で相手を遅くする効果を発揮するみたい。


 ただ、減速率はそれほど大きくないし、使用中本人が動けないという弱点があるけれど、ずっと使ってられるらしいので、こういうパーティー戦では大活躍だ。



 それはそうと湖に近づけば近づくほど、魔物が多くなっている気がする。


 いや、気がするだけでなく、実際増えている。


 森に入ってから戦った魔物の数を数えていたけど、入口付近では百歩歩いて一体とかだったけど、深くに入って三倍に増えている。


「みんな、魔物の数が増えているよ。気を付けてね」


 僕の言葉に、戦いの数が増えていると感じていた仲間達が大きく頷く。


 暫く進むと、地面の揺れを感じた。


「地面が揺れてる! みんな! 一か所に纏まって!」


 いち早く反応したアリアさんの号令に、僕達は一か所に集まる。


 気付けば、イレイザ先生は姿を隠しているけど、気配的に木の上で見守っているのかな?


 ガルくんが西方向を向いて吠える。


 揺れもどんどん大きくなる。


「ここは、私が壁を作るね!」


 そう話すエルダーさんが、懐から小さなビー玉のような赤色の玉を取り出して、ガルくんが吠えた場所に向かって投げ込む。


 投げられた赤い玉は、すぐさま光り出し、赤い霧が発生して一帯に漂い続ける。


 緊張が続く地鳴りから数秒後、木々の奥から一際大きなイノシシが突撃してくる。


 見た目的にはビッグボアに似てるけど、ビッグボアとは違って少し色が黒い。


「ブラックボア! 中級魔物よ! みんな気を引き締めて!」


 アリアさんが叫んだ直後にブラックボアは赤い霧に激突する。


 思っていた以上に硬かったらしく、ブラックボアも驚くが、一度後ずさりしてもう一度突くが霧は破れない。


「よし! 次の攻撃で破れると思うから、足を重点的に攻めましょう!」


「「「「はい!」」」」


 エルダーさんの号令に、意外にも声を揃えるメンバーは、リーダーたちを信頼しているからこそ出来る事だろうなと思えた。


 その時。


 隣にいたアーシャが小さい声で話しかけてきた。


「クラウド。私達はあくまでサポートね」


 アーシャは何か思う所があるようなので、頷いて返した。


 直後、ブラックボアが霧にぶつかると霧が消え、そのままブラックボアが突っ込んできた。


 すぐに全員が左右に飛び避ける。


 避ける間にガルくんが攻撃しつつ、アギラくんが手に持っていた短剣二つを飛ばして足に命中させる。


 強靭なブラックボアの足も数回攻撃を受けると、傷が増え走る速度が落ちてきた。


 エルダーさんが青い液体が入った瓶をブラックボアに投げつけると、青い炎がブラックボアの全身を覆いう。


 ブラックボアは悲痛な叫びをあげ、暴れ始める。


 その隙を逃さないように、リンピオくんが速度を低下させている間に、ガルくんの猛攻に加え、僕とアーシャは持って来た普通のロングソードで突いてダメージを増やしていく。


 エルダーさんが使った青い炎はこちらはあまり熱くなく、近くにいるガルくんも被害にあったりはしなかった。


 少し暴れたブラックボアは、遂に力尽きたようにその場に倒れる。


 僕達は最後のトドメを刺して、ブラックボアを倒した。




「ふう……中級魔物でもこんなに大変だとは……」


 エルダーさんが呟くと、聞いていたメンバーの面々が同調して頷く。


「…………」


「クラウド。それは言わないでね?」


 どうやら僕が思っていた事がバレたみたい。



 初めての強敵との共闘を終えたメンバーは、疲れたようにその場に座り込んだ。


 その間に僕は従魔を呼んでブラックボアを捌いて貰う。


 時々召喚して色々斬って貰うのは、僕が子供の頃から従魔にしているハム達だ。


 ハム達の鋭い爪は、魔物を簡単に斬るので、硬い肉も簡単に処理してくれるのだ。


 普段は屋敷でメイド達に交じって料理を手伝っている。


 因みに、最近はコックさんの衣装と帽子を被っていて、とても可愛らしい。


 ハム達が一瞬でブラックボアを捌いて、それぞれ部位ごと分けて箱に入れてくれた。



 箱を受け取って帰って来た僕にジト目でアリアさんが見つめている。


「今日の夕食材料だよ!」


 僕の言葉に座り込んでいたメンバーが大きく溜息を吐く。


 あれ? みんなどうしたんだろうか?


 ハム達を帰すと、何故かガルくんがその場で倒れ込むように横たわる。


「あれ? ガルくん? どうしたの?」


「…………えっと、今の魔物が怖かったの? ガルくん」


 アリアさんの質問に待ってましたと言わんばかりに首を縦に振るガルくん。


「クラウドくん、さっきの魔物ってどういう魔物なの?」


「うちのハム達? ハムはハム達だよ?」


「ハム……? 何処かで聞いた事あるような…………?」


 アリアさんが何かを考え込む。


「まあ、ともかく湖も近いし、そろそろ野営地を作らないと日が暮れてしまうよ~」


「そ、そうだね。さあみんな! もう少しだから行こう!」


「「「「おー!」」」」


 何気なく、みんなブラックボア肉を見ながら、涎を飲み込んでいるから、きっと美味しい肉なんだろうね!

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