第133話 二年生

 バビロン学園に入学してから一年が経過し、僕達は二年生となった。


 ヴィアシル先輩達が卒業して、新しい生徒会長は生徒満票でサリーに決定した。


 ティナやアレンも候補にあがるのではないかと思ったけど、意外にダントツの人気でサリーだった。


 二年生となった僕には、一つ良い事がある。


 それは――――――





「クラウドくん! 毎日会ってるけど、教室では久しぶりだね?」


「そうだね。やっと帰って来れた気がするよ」


 最近は自分が生徒である事すら忘れていたくらいだけど、やっと特殊科の教室に帰って来たのだ。


 アーシャと一緒に教室に入ると、最近毎日遊びに来てくれるアリアさんが迎えてくれる。


 まだクラスメイト達は不安そうにこちらを見ているけど、以前のような拒否は感じない。


 アリアさんと話していると、担任教師のヒオリ先生が入って来る。


 職員室では毎日会っていたので、久しぶりとかではないけど、教室で見かけるとまた新鮮な感じがする。


「みなさん、久しぶりにクラウドがいらしました。とてもお優しい方ですので、怖がらずに接してください」


 ヒオリ先生も僕の事に様を必ずつけるようになっている。


 どうやらサリーとティナの仕業みたいで、今ではイレイザ先生以外の全ての教師がクラウド様と呼んでくる。


 学園長室で一年も生活していたり、学園長がずっと跪いて来たりするので、もう慣れてしまったのが怖い事かも知れない。


「あはは……みんなに置いて行かれないように、頑張りますのでよろしくお願いします」


 その日から、授業に参加する事が出来た。




 ◇




 その日の夕方。


「クーくん。勉強はどうだったの?」


 ご飯を作りながら母さんが聞いて来る。


「うん。とても楽しかったよ~自分が生徒である事を再認識出来て良かった」


「ふふっ、おかげで父さんは大変だったみたいだけどね~」


 すると、隣で寛いでいる父さんが真剣な顔になる。


「クラウド…………頼むから来年の仕官希望者を増やさないでくれ…………」


「あはは……大丈夫だよ、父さん。あれはきっとヴィアシル先輩の所為おかげだと思うから、来年は多分大丈夫。卒業パーティーで宰相様にめちゃ怒られたもの」


「ええええ!? クラウド!? その話は聞いていないんだけど!?」


 父さんが兎のように、ぴょーんと飛び跳ねてソファから立ち上がる。


「えっと、今年は王国に仕官する生徒が一人もいなくて、王様が困ったらしくて、卒業パーティーにも来れなかったみたい」


「…………」


「代わりに宰相様が来て、頼むから来年からは王国にも仕官するように言ってくれって怒られたんだよ」


「…………」


 父さんは開いた口が塞がらないまま、佇んでしまった。


「父さん? 一応生徒達の自由だから、強くは言えないけどって仰ってたよ?」


「…………」


「あらあら、驚きが想像を越えてしまって、固まったわね」


 固まっている父さんを優しくソファに座らせてあげる母さん。


 その動作に慣れたモノを感じる。


 父さん…………頑張って!


「あ、クラウド。お願いがあったわ」


「どうしたの?」


「クテアバッグを十点ほど貰えないかしら?」


「あれ? 母さん?」


「ん?」


「スロリ街の工場に在庫はないの?」


「あるわよ?」


「?? 在庫があるのにどうして僕に聞くの?」


「だってクテアバッグはクラウドのモノだもの」


 困ったような表情でそう話す母さん。


 その事に僕は少し驚いてしまった。




「母さん? 僕の物は家族の物だよ? クテアバッグでも人形でもお金でも何でも欲しいモノがあったら母さん父さんの好きなようにしてくれていいからね?」




 そう話すと、困った表情から驚いた表情に変わり、すぐに笑顔になってくれる母さんは、僕の隣に座り僕の腕に絡む。


 何だか母さんに触れるのは久しぶりな気がする。


「そうだったわね。変なこと言ってごめんなさい」


「ううん。各所には既に周知させているから、欲しいモノがあったら商会に言ってくれてもいいし、いつでも召喚で送るから直接買ってくれてもいいし、父さんも最近大変みたいだから、ヘルンドール宿屋でゆっくりして来てもいいんじゃないかな?」


「ふふっ、そうね。そうさせて貰おうかしら。そう言えば、ヘルンドール宿屋から相談したい事があるからと手紙を頂いていたわ」


 ヘルンドール宿屋と言えば、恋人が泊まる聖地として有名な高級宿屋。


 ただ、隠れ家的なポジションなのもあって、知る人ぞ知る名家って感じだ。


「母さん? もしかして、商会で管理している銀行からお金とか使ってない訳ではないよね?」


 ベルン家の全ての収入はラウド商会に集まるようにしている。


 元々僕が管理していたベルン家の財産は、ラウド商会で管理され、出費も全てラウド商会で対応するような仕組みに変えて、父さんの巨大なお金の管理の負担を減らしている。


 それもあって、うちは基本的に欲しいモノがあったら商会を通している訳だ。


「えっ? …………う、うん! ちゃんと使ってるわ!」


 絶対嘘だなこれは……。


 母さんが嘘をつけない人なのは、百も承知だからね。


 はあ…………。


「母さん…………」


 悲しそうに僕がそう話すと、「あわあわ、ご、ごめんなさい。忘れていただけだわ! でも必要なモノは全てゼイルくん達に話すと準備してくれるから、生活は全く大変じゃないからね?」と話した。


 今度執事達にお礼を言っておかなければね。


 彼らは学園に入れないので、夕方のお世話の為だけに王都にいさせるのがもったいないと思い、スロリ街の屋敷に残って貰うようにしておいて、大正解だったのかも知れない。

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