第132話 三年生の卒業パーティー
秋が終わり、冬に入ってすぐにうちのラウド商会で、新しい商品を発表した。
高級バッグ『クテアバッグ』だ。
クテアバッグの強みは、一つ目はデザイン性。
ミニスカートで王国内のファッション感覚が大きく進化(?)したので、最近になって『デザイン性』について色んな波紋を広げている。
それも相まって、クテアバッグのデザイン性は王国随一の美しさを誇る。
何といっても、デザイン力最強のアーシャが作ったモノだからね。
強み二つ目は盗み対策。
これはアーシャから頼まれたモノで、高級バッグともなれば、多くは貴族が購入すると思われる。
貴族が持っているバッグを盗む人や奪う人も出てくるだろう。
それに対策を考えて欲しいと言われて、高級バッグに『個人認識魔法』を施した。
登録出来るのは、たった一人のみで、その人じゃないとバッグをそもそも開けられないようになる魔法だ。
僕より強い魔法使いさんなら開けられるけど、そこら辺の盗賊の人には開ける事は出来ないだろうと思う。
三つ目は防御性能。
二つ目の延長だけど、火に燃えたりしたのでは、中の大切なモノまで失くしてしまう。
そこにクロ達の鱗の防御性能に、僕のバリア魔法を付与して、サリーの魔法にも耐えるくらいの対魔法性能を誇る。
僕のバリア魔法は、持ち主を狙った攻撃魔法を感知したら展開して守ってくれる。
ただ長時間展開は出来ないので、30分くらいしか連続で展開出来ないのが欠点である。
最後の四つ目は重力軽減魔法を掛けてある。
中に金貨を沢山入れたら、女性だと重くて持てないかも知れない。
そこで、重さは重力って事を思い出して、重力軽減出来ないかなと思ったら、簡単に出来た。
サリーからものすごく教えてくれとおねだりされたので、色々教えてあげたら身体を浮かせられるくらいには、無重力に出来る魔法を使えるようになった。
浮遊魔法ではないので、空は飛べないけど、重いモノを軽くして歩けると嬉しそうにしていた。
クテアバッグが貴族向けに訪問販売を始めると、沢山の女性が興味を示した。
ただ、一つ一つ手作りに時間がかかるし、素材が無限に取れる訳ではないので、一つの値段がとても高い。
しかし、性能やデザイン性に関しては自信があるので、アーシャは毎回熱弁していた。
それから冬が本格的に雪が降る頃、アーシャの案でクテアバッグに似合いそうな女性用コートを開発する。
コートとクテアバッグをセットにして、一人ワンセットのみの販売で売り出すと、飛ぶように売れた。
これも向こうの抱き合わせ戦法だけど、効き目は抜群だね。
王都の全ての女性貴族の手に渡るくらいの数を用意していたけど、全部売り切る事が出来た。
手に入ったお金より、クテアバッグの良さが広まるのが狙いなので、それ程多くの利益はないけど、クロ達の鱗なんで、素材はある意味タダだから、多い利益を上げたと言えば上げたのかも知れない。
◇
冬が終わりを迎えた頃。
学園の三年生先輩達の卒業パーティーが開かれ、僕やティナ達は、先生及び生徒会として招かれ先輩達を祝った。
ヴィアシル先輩が大泣きしていたのがとても印象的だったけど、先輩達がら冷ややかな目で見守られていたから、きっと愛されているんだなと思える。
バビロン学園の卒業パーティーには王様まで駆けつけて祝うのだけれど、何故か今年は来てくれないそうだ。
代わりに宰相さんが申し訳なさそうに、卒業パーティー目当てではなく、僕の下にやってきた。
「初めまして、クラウド様」
「さ、宰相様!? 僕はただの生徒ですから!」
「ほっほっほっ、聞いていた通りでございますね」
「聞いていた通り?」
「ええ、友人のアルヴィスからクラウド様は自身をただの生徒だと仰っていると聞いていましたから」
学園長…………。
「あ、あははは…………」
反論しても全く取り次いでくれなさそうだね……。
「それで、宰相様はどうして僕に?」
「ええ、王様の伝言と言いますか、国からお願いがあって参りました」
「お願い……? 僕に出来る事ならいいですけど……」
「寧ろ、クラウド様にしか出来ません」
うう……宰相様からクラウド様と言われると、凄くむずがゆい。
凄く真剣な表情から、きっとただことではないだろう。
一つ深呼吸をした宰相様が僕の目を真っすぐ見つめ、口を開いた。
「バビロン学園の生徒達は王国の未来を担う人材です……なのに! 今年は! 誰一人! 王国に仕えるための王国仕官試験に誰一人参加しなかったのです! これは王国始まって以来前代未聞の出来事です! ここにいる卒業生は
えっと…………そんな事起きてるの?
どうしてなのだろうか……。
何となく隣で、笑みを堪えているティナに振り向いてみる。
「ティナ?」
「…………」
笑みを必死に堪えているから返事が返ってこない。
「先輩達が王国に仕えないらしいんだけど、何か知らない? ヴィアシル先輩に聞いてみた方がいいかな?」
返事が返ってこない。
はあ…………。
僕は仕方なくヴィアシル先輩の下を訪れる。
「これは! クラウド様。本日は我々を祝いに来られて、心より感謝申し上げます!」
「ヴィアシル先輩? えっと……後輩の僕にそんな敬語は…………」
「いえいえ! これから
「「「「うんうん!」」」」
周りの先輩達もヴィアシル先輩に同調するかのように大きく頷く。
「ええええ!? 主様ってどういう事ですか!?」
「はっ! 我々はこれから――――――」
◇
その頃、ベルン領では。
「当主様。今年の仕官希望者届けをお持ちしました」
「…………まさか、その紙、全部とは言わないよね?」
「……全部です」
「うわああああ! 一体、何が起きたらそれだけの人数が希望するんだよ!」
「…………当主様」
「な、なにかね?」
「ぜひ、中身を…………」
「…………ゼイルくん。見たくないという選択肢は」
「きっと後悔すると思います」
執事のゼイルは、一枚の紙をベルン家当主であるビリーの前に見せる。
そこには『ヴィアシル・サルグレット、伯爵三男』と書かれていた。
スロリ街に当主の悲痛な叫びが響き渡ったのは、言うまでもない。
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