第131話 アイデア代金

 秋も中盤に入り、クロと子クロ達から貰った鱗を使い、日々アーシャと女性用高級バッグ作りを進めている。


 その傍らで、ミニスカートの新しいモノを考えたりするのだが、意外にもその意見を出してくれる人がいた。




「ひ、久しぶり!」


「久しぶり~アリアさん」


 最近アーシャに色々アイデアを出してくれているらしく、そのアイデアで発売したミニスカートは好調な売り上げで、貴族の若い女性の中で人気だったりする。


 その件もあって、アリアさんにアイデア代金を払う為に来て貰ったのだ。


「アリアさん、現金と宝石と小切手・・・とどっちがいい?」


「へ?」


 ポカーンとするアリアさん。


 あれ?


「アーシャ?」


「あっ! ごめんなさい、アリアちゃんを誘っただけで理由を説明してなかったわ。それよりも新しいアイデアを話し合ってしまったわ」


「アーシャらしいな」


「えっ? アーシャちゃん? どういう事?」


 アーシャから事情を聞いてから来てくれたものだと思ったけど、どうやら事情は聞いてないみたい。


「アリアさん。ミニスカートのアイデア代として、売り上げの何割かをアリアさんに渡そうと思って、まだ僕は教室に行けないから、アーシャに頼んだの」


「そ、そうだったの!? でも私はただこういう感じって言っただけなんだけど……」


「うん。アイデアってふとした瞬間に浮かぶモノだから、出してくれるのがとても大事なんだよ。アリアさんのアイデアで作ったミニスカートは二種類あって、どれも貴族の女性にとても人気で、注文が入る程だよ」


「そ、そうだったの!? たしかに…………同学年に着てくれる子を何人か見たけど…………でもそれは『クテアブランド』だからじゃ……?」


 既に広く知られている『クテアブランド』。


 確かに売り物は、ブランドの名前だけで売れたりもする。


 でも本当に良いモノは、もっと売れるし、注文が入る。


 それがあるから買うのは、ブランドとして普通・・の事で、注文が入るのはそこから一歩先に進んだ光栄・・な事だ。


「うちのブランドでも、注文が入る品っていうのはそれほど多くないんだよ。その中でもアリアさんが考えてくれたスカートは本当に人気だから。ちゃんとアイデア代金印税を払わせてくれると嬉しいな」


「う、うん…………クラウドくんがそういうなら…………」


「ふふっ、アリアちゃんにはいつも助かっているから、少しはためになると嬉しいわ」


 いつの間にアリアさんと仲良くなったアーシャ。


 イチくんが付いているからと言っても、辺境伯令嬢でもあるアーシャは少し浮いた存在になるんじゃないかと心配になっていたけど、アリアさんがいてくれて本当に良かった。



 僕は奥から金貨が入った袋を持って来た。


「はい、アリアさんの取り分だよ」


 テーブルの上に金貨袋を置く。


「あ、ありがとう…………中を確認させて貰ってもいいかな?」


「もちろん!」


「…………こんなに貨幣が入ってて金貨って事はないでしょうね……」


 袋を恐る恐る開けるアリアさん。


「――――――ええええ! ご、ごめんなさい! 受け取れないわ!」


 直ぐに金貨袋を前に出すアリアさん。


「え!? ど、どうしたの!?」


「クラウドくん!? 中身が貨じゃなくて、貨だよ!?」


「そうだよ?」


「そうだよじゃないわよ! こんな大量の金貨、貰える訳ないでしょう!」


「でもアリアさんのスカートの売り上げの一部だよ?」


「貰えないものは貰えないわよ! 多くても三枚かなとか思ってたわよ!」


「あはは、そんな少ない訳ないでしょう~」


「少なくないわよ! 金貨一枚稼ぐのにどれだけ大変だと思うの!?」


 …………ん?


 金貨一枚ってビッグボア倒したら稼げるんじゃ……?


「クラウド? 金貨一枚は簡単じゃないわ?」


 …………アーシャに心を読まれ、アリアさんには大きなため息を吐かれてしまった。


「でも……本当にこれ売り上げの一部だから、三倍くらいあげても――――」


「貰えないから! その袋でも無理だから! 本当にお願い! そんなに貰えないの!」


「えっと…………少なすぎたかな…………」


「違うー! 多すぎるんだってば!」


 アリアさんの叫び声が屋敷に木霊した。




 ◇




「ん!? お、美味しい!」


 母さんとティナが作ってくれる夕飯を一緒に食べたアリアさんが自然と大きな声を出した。


「あっ、ご、ごめんなさい。いきなり大きな声を出して」


「ううん。素直に言ってくれると嬉しいわ」


「あ、ありがとうございます。ティナ様……」


「あら、私も普通に呼んでくれると嬉しいわ。アリアちゃんと同じ歳だし、アーシャちゃんとは同じ婚約者だから!」


「え、えっと…………」


 アリアさんが困ったようにアーシャを見つめると、アーシャは優しく笑顔で頷いて返す。


「わ、わかったわ。これからお願いね? ティナちゃん」


「うん!」


「それはそうと、アリアちゃん?」


 母さんがニヤニヤしながら、アリアさんに声を掛ける。


「は、はい!」


「うちのクーくんからアイデア代金を貰えないと言っていたけど、あれ定期的に貰えるけど、どうする?」


「あれを定期的に!? む、無理です!」


「あらあら、でもラウド商会的にはアイデア代金はしっかり払う商則になっているのよね」


「確かに私は意見しましたけど……作ったのはアーシャちゃんで、クテアブランドですから、あんなに沢山頂けません」


「ふふっ、ではこういうのはどうかな?」


 母さんが怪しい表情を浮かべる。


「うちの娘達・・の友達なのだから、毎日うちにいらっしゃい。美味しい夕飯を作ってあげるわ」


「っ!? い、いいんですか!?」


 意外に金貨より飯に釣られた!?


「ええ。クーくんもいるから、商会の事とか、従魔の事とか色々見せて貰ってもいいわよ~」


「! は、はい! 金貨よりそちらの方がいいです! クラウドくん! いいかな?」


「アリアさんがそれでいいなら、僕はいいけど、一応アイデア代金は数字上で貯めておくので、お金が必要な時はいつでも言ってくれるという約束なら――――でどうかな?」


「う、うん! それでいいわ!」


 こうして、うちに婚約者達の友人が毎日遊びに来るようになった。

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